brise

@masaya0628

第1話

キーンコーンカーンコーン

授業終了を告げるチャイムが鳴り響いた

その瞬間生徒全員から歓喜の声が上がった。

なぜなら、このチャイムは、夏休み前の最後の関門期末テスト終了の合図だからだ。

「うーん。やっと終わったね。

夏どうだった?出来た?」

前の席の仲野春が振り替えり聞いてきた。

「まぁまぁかな。補習とかでは、ないと思う。春は?」

「えー私は補習かも。ちょっとヤバい」

春はそんな言葉とは、裏腹にテストが終わった解放感からか楽しそうだ。まぁ夏休みが近いからと言うのもあるだろうし明日から週末で学校が休みと言うのもあるんだろうけど

「夏、この、週末暇?暇なら明日皆で海に行こうって話になってるんだけど。」

「ごめん週末は、二日とも仕事なんだ。」

私がそういうて春はつまんないという顔をしたけれどそう言われると予想していたのか、すぐに立ち直り

「カフェの娘は大変だね。夏休みもどうせ仕事なんでしょ?まぁ無理しないように頑張りなよ!暇で死にそうになったらすぐ連絡して!飛んでいくから!」

春はそう言うとそそくさと帰る準備をしだした。

本当につむじ風みたいな人だな春は

まぁそんなところが好きだったりするんだけど。

何て、のんきなことを考えながら私も帰る準備を始めた。

正直今の私は皆見たいに解放感に浸ってる、暇はない。

なぜなら、明日は、夏メニューのコンペがあるからだ。


私の家はカフェを営んでいる。

この町では、有名な「風」といカフェだ。

従業員4人40席ほどの小さなカフェで

毎日沢山の、お客様で賑わっている。

ちなみに風という店名は

「お客様にここちよい風が吹き抜ける時間と空間を作りたい」と父が名付けた。

そんなこの店は、季節ごとに季節限定メニューコンペを行う。

参加は、自由、季節メニュー考案したかったら参加してね!という、父らしく適当な感じだ。

しかし、そんなコンペに、スタッフ全員が参加するのは、お客様が判断するというところが大きいだろう。

普通、季節メニューや新メニューは、料理長や店長が決める。

しかし、うちの店は、コンペ当日先着100名に無料で新メニューを振る舞い注文数の多かったフード、デザート両部門の一位の商品をメニューに加えるというまるで選挙みたいな方式だ。

父が言うには

「自分たちが決めるよりお客様に選んでもらったほうが正直だし。そっちの方が考えるほうもおもしろいじゃん!ジャッジも公平だし!無料で料理を振る舞った一日分のマイナスは普段の営業で取り返したらいい!」

だそうだ。

だがしかし、このコンペをしだしてから父に勝った人がいない。

公平なジャッジが下るからこそ、その現状は悔しい。

だからこそ、コンペ前は、皆必死になって商品開発を進める。

キッチンは、ピりつくし、だいたいの日程がテストの終了の次の日だったりするのは、気が滅入るが泣きごとばかり言っていられない。

(夏メニュー、夏、南国、爽やか、うみ…)

頭の中で夏っぽいものを思い浮かべていると

「夏、じゃ私部室寄って帰るからまた来週、良い週末を」

と言い残し春は笑顔で出ていった。

あーあ春は本当に悩みがなさそうでいいなぁ

そんなことを思いながら帰ろうと立ちあがると。

「青山さん、このあと時間あったら映画でも行かない?」

とグラスメイトの木野竜也に呼び止められた

木野竜也は、成績優秀、運動神経抜群、ルックス良好と一部の女子から絶大な人気を誇っている。

だが私は、女子から人気があると理解しているこの男が苦手だ。何かの間違いかそんな木野は、私に好意を抱いている

「ごめん、忙しいから他当たって。」

私が冷たく言いはなつと泣きそうな顔をしてこっちを見てきたので

「女々しいやつって嫌いなのじゃあね王子さま。」

嫌味でとどめを指して、教室をあとにした。

教室を出るまでのわずかな時間で木野信者から足を引っかけられたりゴミを投げつけられたりと嫌がらせを受けたが

こんな馬鹿どもに、構ってるひまはない。一分一秒がおしい。私は、無視して家路を急いだ。


家に帰ると仕事着に着替えすぐとなりの仕事場に向かった。

店内に入ると

「あっ。なっちゃんお帰りなさい。」

とホールの、山本アリスさんが声をかけてくれた。

アリスさんは、ハーフみたいな顔立ちで、すらりと手足が長くスタイルがいい。

美人という言葉は、この人のためにあるんじゃないかと私は思う。

さらに、それでいて性格も優しくて仕事もできる、非の打ち所がまるでない。

父の友人らしく、カフェをオープンするに当たって一番始めに声をかけたらしい。

「おはようございます。アリスさん今日も綺麗ですね!今日お客様の入りどんな感じですか?」

私がそう訪ねると

「お客様の入りかたはいつも通りって感じかな!特に問題は、ないんだけど…

はぁー」

アリスさんがため息を漏らしながらキッチンを指さした。

「えっ、また二人ともケンカしてるんですか?毎日毎日あきないですね!」

「そうなの。ちょっとなっちゃんからも言ったげて。私は、疲れた。」

私は、アリスさんの肩をぽんぽんと叩き

任せてくださいと言わんばかりにキッチンに向かった。

「青山さん、やっぱり生クリームの割合増やすべきだと思うんです。その方が応用が聞きますし仕込みが一回で済むから効率合理的です。使い分けなんて効率悪いです。」

と中村さくらが、不満たっぷりの声で言う。

さくらさんもオープンからいる父の友人の1人でショートカットのよく似合う小柄な女性だ。アリスさんとは、違う種類で美人だ。

普段すごく仲がいい二人は、仕事になると毎日ぶつかっている

「カスタードは、それぞれの用途に合わせて配合をかえます。そっちの方が美味しいじゃないですか。

楽な方を選んでいては、ダメだと思います。」

私は、二人がさらにヒートアップする前に止めに入った。

「おはようございます。また二人とも…

アリスさんに迷惑かけないでくたさい。

そんなに意見かあわないならbrise(ブリーズ)してさっと決めたらいいじゃないですか!」

この店には、いくつかのルールがある。

そのひとつにbrise(ブリーズ)というものがあり、店内で起きたスタッフ間での争いは、全てにおいて料理で勝負を決めると言うもの。

判定は、無作為に選ばれたお客様3名が行う。

お客様がこれをちょっとしたイベントみたいに思ってくださっているのが、幸いだ。


私の提案に二人は、頭を悩ましたが珍しく父が早目におれた

「中村さん、カスタードについては、後日研究しましょう。明日は、コンペですからね。」

「私も少し熱くなりすぎました。すいません。明日は、コンペですしね。」

二人とも、明日の、コンペで黙らせると言う気持ちがひしひしと伝わってくる。

二人が作業に戻ると

私もレシピを、完成させるべく作業台についた。


コンペ当日のオープン前私は、すでに父に敗北した、ことを悟った。

コンペに出す商品は、前回の、順位順に当日のオープン前にサンプルをつくる。

そこで初めて全員の商品を、見るのだけれど私も中村さんも父の商品を見て驚かされた。

「商品名は、オランジェ・ド,・フルール

オレンジの華って言う意味です。

逆さ折りで織り込んだパイ生地にオレンジの皮を練り込みタルト型に入れ焼き上げ、そこに胡桃の、入ったオレンジのパルフェ、カスタードとかさね、トップにフレッシュオレンジを花のように美しくならべます。

その上には、白ワインゼリーで、作ったゼリーとバニラアイスで花と滴を表現します。

そして、最後に…」

そう言うと父は霧吹きをとり出しそれを吹き掛けた。そして…

「最後は皿に炎を、ともしてお客様に提供します。」

まさに五感に訴える商品

パイ生地のさくさく胡桃の、ザクザクそれを包み込むようなパルフェのしっとり感やカスタードのねっとり感それを洗い流すように最後にくる弾けるフレッシュオレンジ

バニラアイスは、最後まで飽きないようにという配慮だ。

美味しい。美しい。

「それじゃこんな感じで自分は、行くんでよろしくお願いします。

そんじゃ最後に今回はアリスさんも参加するみたいなんでよろしくお願いします。」

父は、私と中村さんの顔を見て勝ちを確信したのだろう余裕な笑顔を浮かべて次のアリスさんにバトンを渡した。


私は、少しがっかりしていた。

何故ならばアリスさんが運んできた商品は、くりぬいたオレンジのなかにスープ・ド・フュルイというミント風味のフルーツポンチのようなデザートをいれその上に固そうなゼリーが乗ってるだけのありきたりのものだったからだ。


私は、コンペが始まる前、父に

「今回は、勝つから。」

そう言うと

「夏じゃ俺どころかアリスさんにも勝てないよ。今回は、楽しいコンペになりそうだ。」

と父が楽しそうに言っていただけに久しぶりに出るアリスさんの商品を警戒していたのだけれど

正直負けるはずもない。

「えーっと今回青山さんに、参加を強制され参加しましたが、皆さん知っての通りスープ・ド・フュルイです。オレンジをくりぬき器にしました。フルーツは、オレンジ、ピンクグレープフルーツ、キウイ、パイナップル、ドラゴンフルーツの5種類です。上のゼリーは、くりぬいた果肉をミキサーで粉砕しオレンジジュースとりんごジュースでのばしゼリーを作り蓋を閉めるように敷き詰めました。横に添えてあるバニラアイスは、少し生クリームを多目にし濃く仕上げました。

そして…」

アリスさんがとり出したものに全員が驚いた。

アリスさんも霧吹きを取り出したのだ

そして、

「最後にミントジェットを吹き掛け火を灯し提供します。」

そう言うと皿全体が炎に包まれさらにもう一段階全員を驚かせた

「ゼリーが…

燃えてる」

父は腹を抱えてやられたと言わんばかりに笑った。

そして父は、

「ゼリーが固まる直前にいれたのはコアントローしかも濃いめにいれましたね。」

「はい。この店に来店される方のほとんどが学生を覗いて20代から30代前半の女性特に主婦や休日のOLさんが多いので少々濃くても好まれると思いました。それに流行りのSNS映えもしますし。」

「なるほど、ゼリーをやや硬めに仕上げたのも熱で氷のように溶けてるようにみせるためですか。」

「はい。見た目でも涼しさを演出しました。」

「濃いめのバニラアイスは、フルーツ特有の物足りなさ軽減のためですね!。」

「はい。青山さんが、すべて説明してくださいましたので私からは、以上です。

では、皆さんオープンに向けてそれぞれ始めてください。」

アリスさんの声で全員がオープンに向けて動き出した。


「はいでは、結果発表します。下から順に発表していきますね~」

アリスさんの声が店内に響く

「あっ。ちなみに今回フードメニュー出なかったので最下位は、フードメニューを明後日までに考えて来てください。では、第四位ブリーズパッション なっちゃん注文数19。」

「げっ最下位か。」

予想は、していたけど最下位は、ショックだ。

「三位マンゴーマンゴー中村さん注文数21」

ここまでは、私も中村さんも予想の範囲内だ。

「二位…スープ・ド・フュルイ、私。注文数29

くそー、もう少し

一位オランジェ・ド・フルール注文数31青山さん、ということで今回も青山さんの商品で行きます。なっちゃんは、フードメニュー完成しだい皆の前で発表お願いします。では、季節限定コンペを終わります。」

コンペ終了が告げれたあと私は、今回気になったことを父に聞いた

「お父さん、アリスさんがなにつくるか知ってたの?」

私がそういうと父は首を横にふり

そして、楽しそうに言った

「いやぁ本当にゼリーが燃えるなんて全然想像しなかった。本当に殴られた気分だったよ。」

「じゃあなんでアリスさんに注目してたの?」

私がそう聞くと父は笑顔で答えた

「アリスさんにコンペ前日に俺に勝てるかって聞いたらなんて、答えたと思う?

勝てるかどうかは、わかりませんが私は好きな人のために頑張るだけです。だってさ

妬けるよね。好きな人って誰だよってね。

興味ないけど。

でも、その時こいつに負けるかもって思ったんだ。夏にはなんでそう思ったのかわからないだろ?」

「うん。」

私がそう答えると父は、笑顔で

「まぁそれがわかるまでは俺には勝てないよ。」

そういって私の頭をくしゃくしゃと乱暴に撫でた。

くそかっこいいじゃん!

我が父ながらそう思った。


「くそまた負けた。」

これで夏休みだけで15敗目

「こらっ夏むやみやたらにブリーズしかけてくるな!

しんどいだろうが!アリスさんも中村さんも止めてくださいよ!」

「青山さんが受けなかったらいいでしょ!」

アリスさんがそういうと。さくらさんも

「そうですよ。たまには私ともブリーズしてください!私も不満たっぷり抱えてます。」

「さくらさんそれは、少しずれてる気が。」

「よーしわかった二人ともまとめて叩き潰してやる。」

「あーあ始まった。」


今日も騒がしい店内では、新しい料理が埋まれる。

風に同じものがないように。

きっと明日も明後日、1年後も5年後も新しい、風が吹くだろう。

まだ父の言葉の意味は、わからないけれど

きっと心地よいそよ風がいつか私の心にも吹き抜けるのだろう。

「ブリーズ。」

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