銀翼のマグナム.44
岩井喬
第1話
銃声は聞こえなかった。
真夜中の、臨海工業地帯。あたりに反響して聞こえてきてもおかしくなかったはずだが、私の鼓膜は震わない。
それだけ私の感覚が麻痺していたということだろうか。
私の腕の先からは一筋の硝煙が立ち上り、明らかに私が発砲したことを示していた。
火薬の匂いは、しかし、この土砂降りの雨のせいですぐにかき消されてしまう。
肩で息をし、ゆっくりと銃を下げると、男性が一人倒れていた。腹部から出血している。
その血液も、あっという間にアスファルトの上を流されていく。
唐突に、発砲の反動が私の腕を走った。
私が、彼を撃ったのだ。
撃ってはならない人を、撃ったのだ。
目の前に横たわる、二人の男性。彼らの戦いに、終止符は打たれた。終わったのだ。
しかし、私の喉から出てきたのは、絶叫だった。
「う、うわ、うわあああああああ!!」
拳銃を握りしめ、天を仰ぎながら、私はばしゃり、と派手な音を立ててその場にひざまずいた。
これが、彼の望んだ結末なのだろうか。
すると、私の鈍った聴覚が、遥か背後から刺激された。
パトカーのサイレンだ。それも複数。十数台はいるかもしれない。
それを止める術は私にはなく、仮に止められたとしても、彼を救う方法は見当もつかない。
「ああ……」
私は自らの無力を呪った。
一体この一週間弱の期間は、私にとって何だったのだろう。
その疑問を解決することは、きっと永遠に不可能だ。この世に『正義』と『悪』が存在する限り。
だが、それでも私は『何が自分にとっての正義なのか』、それを見極めたいと切望した。
その一つの答えとなってくれるはずの男性は、しかしぴくりとも動かず、うつ伏せに倒れ伏したまま。もう持論を展開してくれることはない。
そんなことを考える時間は嫌というほど訪れる――。これは先輩刑事から教わった言葉の一つだ。
だが、今の私はその『ありもしない答え』を熱烈に求めていた。
誰か。誰か私に教えて。
そんな私の願いを塗りつぶすように、パトランプの赤と青の光が周囲を照らし出した。
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