12 デュコトムスの器

 そして更に四日後。ついにライター式で作成した新たな操縦系が完成した。

 

「これで処理速度は間に合っている筈なんだが……」


 こればかりは実際に試してみないと分からない。早速カルロスは完成した操縦系を台車に載せて工房へと向かう。既に話は通してあるのでデュコトムスは従来のリレー式操縦系を取り外し、準備されていた。

 心なしかそわそわしたトーマスがカルロスの持って来た魔法道具に視線を向ける。

 

「そいつがそうなのか?」

「ああ、これでデュコトムスは完全になる」


 と言っても、トーマスにとっては大差ないだろう。一般的な操縦者にこそ意味のある物だった。

 

「論より証拠だ。早速載せてみよう」


 カルロスとトーマス二人、整備班の作業をそわそわしながら待つ。じっと見られても作業は早くなりませんよ、と窘められる始末だ。

 そして換装が終了し、ワクワクしながらトーマスはデュコトムスに乗り込む。当初はカルロスが無理やり押し込んだような物だったが、この頃は完成に近づけて行けるのが楽しくて仕方ないらしい。暇さえあれば乗っている。

 

「それじゃあ行ってくるぜカルロス!」

「頼むぞ!」


 適当なトライアルコースを貸し切って計測を行う。一周して戻ってきたトーマスは首を傾げている。その反応に嫌な予感を覚えたカルロスは恐る恐る問いかける。

 

「何か問題が有ったか?」

「いや問題っていうかなんて言うか……前の方が動かしやすくね?」

「嘘だろ!?」


 カルロスの一カ月の成果を全否定する言葉に悲鳴が溢れた。その声に何事かと周囲に居た人たちも集まってくる。

 

「正直、前の方が俺には楽だったんだよな……」

「待て、バランサー無しで動かせる異常な奴の楽は当てにならない。一般的な腕の奴で試そう」

「一般的って言うとどのへんだ?」

「取り敢えず紅の鷹団で良いだろう。暇してるやつを捕まえよう」


 適当な団員を捕まえて、非番の人間を洗い出す。丁度イラが非番だったので、ライラがいるかもと言う言葉を餌に連れ出した。

 

「だましやがったなカール!」

「人聞きの悪い。そろそろ新武装が完成するからライラも工房に顔を出すかもな、と言ったんだ。それが今日とは言ってない」

「うわあ、ひでえ」


 トーマスが同情混じりっけなしの視線をイラに向けた。カルロスに口先で丸め込まれた事のあるトーマスには他人事には思えなかったらしい。男二人が妙な共感を覚えていると、カルロスはデュコトムスを指差した。

 

「ちょっとあれに乗って貰いたいんだ」

「んだよ、最新機何て面白そうなことなら最初からそう言えば着いてきたっての」

「ああ。場合によっては死ぬ気でやらないと死ぬかもしれないから気を付けてな」

「あれ今選定中の奴だよな!? そんなレベルなのかっ」


 トーマスの言を信じると、そう言う事になってしまうのだ。渋るイラを何時かの様にカルロスは無理やり操縦席に押し込む。

 

「よし、良いぞ」

「俺は全然よくないぞ!」


 そう言いながらもカルロスの誠意は余りない説得に絆されてイラはデュコトムスを動かす。しばらく動かしてみて、戸惑ったような声が返ってくる。

 

「普通だな」

「普通なのか?」

「ああ。どんなひどいもんかと思ったけど普通だ。機体が大きくなってる分感覚はちょっと違うけどな」


 少なくともトーマスが乗った時の様にまともに歩けないとか、バランスが取れないという事は無さそうだった。そのままついでにトライアルコースを一周して貰ってトーマスのデータと比較する。

 

「トーマスの方が良い数値だな」


 カルロスの理想としては大体同じになってくれると良かったのだが。まだまだ万人が簡単に乗りこなせる機体にまでは到達していないらしい。


「まあ俺は大分乗ってるからな」

「行き成りにしては悪くないだろ。さっきも言ったけど感覚が違うから、これ乗り換えるならそれなりに訓練時間を取りたいな。三日位か」


 とは言え逆を言えば三日で何とかなる程度の違和感と言う事だ。この辺の感覚的な情報は貴重だった。今度議題に上がった際にはこの数字を使わせてもらおうと決める。


「後はそうだな……こいつが採用されたら今の新兵用の訓練は最初からこっちでやらせた方が良いな。やっぱり同じ機体でやった方が効率が良い」

「まあ正論だけどな。しかしそうなると予算がなあ」


 まだ先の話になるが、制式採用されたらその辺りも考えないと行けない。果たして通常機よりも遥かに高価なデュコトムスを訓練用に調達する事が可能だろうか。

 

「しかしそうなるとトーマスの扱いにくい発言は何だったんだ?」

「いや、ホント。前の方が良いんだって」


 尚もそう言うので、カルロスは選考会中のデータを引っ張り出してくる。

 

「えーっと。このコースの時の記録は……こいつか」


 そうして今の記録と数値を比べてみると――確かに今回よりも前回、つまりはリレー式の時の方が数値は良い。一体何故……と考えた所でカルロスは一つの結論に辿り着く。

 

「トーマス」

「んあ?」

「お前はどうやら大分変態的な操縦技能の持ち主らしい」

「それ褒めてんだよな?」


 本来なら補助する筈のバランサー。それがトーマスには足枷になっている様だった。或いは、彼と同じくらいの腕を持っている人間ならばバランサーと言うのは逆にデメリットにしかならないのかもしれない。

 

「機体側からオンオフ出来るように改造しておくか……」


 最終的にはエリート用に完全に機能を削除して余裕を持たせたタイプを作るのもいいかもしれないとカルロスは思った。デュコトムスは新兵から熟練者まで多くの操縦者に対応した器の大きい機体になる。そんな未来を予感させる物が有った。

 

「出来たよあるある! 血の出ない弾!」


 そんな予感を乱入してきたライラは台無しにしてくれた。お前そんな物作ってたのかよ、新武装はどうした。と叫びたい気持ち。それと同じくらいに良かった。これでイラは撃たれても重傷は負わないんだなと言う安堵の気持ちが半々になっていた。

 

「終わった……終わったぞカルロス。僕は……やり遂げたかな……」


 彼女に続く様に工房へとやって来た、今にも天に上りそうなグラムを見てカルロスは彼の肩を叩く。

 

「ゆっくり休んでくれ……また直ぐに忙しくなるだろうけど今だけでも……」


 本当に、無理をさせてごめんなさい。そうは思うのだがきっとまた彼には無理をさせるという確信が有った。

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