11 トライアル中盤戦
選考会は続く。
いよいよ実戦的な物が増えてくる。ウルバール四機との模擬戦。それと並行してエルヴァリオンを仮想敵とした模擬戦。ここになってくるとデュコトムスとケルベインの性能評価の面が強くなってくる。ゴールデンマキシマムは計測の役目を終えてちょっと物悲しく輝きながら工房の主となっていた。
「カルロスちゃん。ゴールデンマキシマムとの模擬戦を捻じ込んでみないのねん?」
「こっちが無傷じゃすまないだろ」
退屈なのか、レヴィルハイドもそんな事を言い出す始末だ。ゴールデンマキシマムは大罪機の名に恥じない高性能振りを見せつけてくれた。あんな物と模擬戦をしたら下手したら大破する。手加減とかそう言う次元ではないだろう。遠まわしに断るとレヴィルハイドは歯を見せて笑った。まるで魔獣が牙を剥いたようでカルロスはちょっとびくっとする。
「あらん? カルロスちゃんの機体があるのねん?」
「……あれは駄目だ」
エフェメロプテラが再起不能なまでに破壊される未来しか見えない。機法を封じられたらあれはウルバールベースの欠陥機でしかないのだから。デュコトムス、ケルベイン辺りまでなら抑え込める自身はあるが、ゴールデンマキシマムは無理だ。
「つまんないのねん」
「テュール王家はケルベインを採用したいのか?」
前置き抜きでカルロスがいきなりぶち込んだ話題はこうしてカルロスがレヴィルハイドと会話している事を何時もの風景として流されている事を確認したからだ。レヴィルハイドも余計な問答をせずに解答だけ返す。
「自国の防衛は自国で作り上げた物で成すべき……そう言う人間が一定数居るのは確かなのねん。私もそう言う系統から口頭で指示を受けたのねん」
「まあ正論だな」
そこを他国に依存するというのは相手次第で自国の防備が変動するという事だ。ログニスは事実上ハルスに生かされている、誤解を覚悟で言えば属国の様な扱いだがそれでもハルスの一員では無い。連合王国の一角として参加すればまた話は別なのだろうが、現状ではそこまでの信用を得られていないだろう。
「王家としてはログニスを支援……だけどテュール派も一枚岩じゃないのねん」
「どこも変わらないな……三人いれば派閥が生まれるっていうけど」
共通の敵が居れば団結するなどと言うのは嘘だな、とカルロスは思う。敵が一つ増えるだけで、元の敵は敵のままだ。或いは一致団結しなければ滅亡するというのなら団結できるのかもしれない。人龍大戦はきっとそんな風に団結したのだろうとカルロスは思っている。
「正直個人的な意見としてはハーレイちゃんもカルロスちゃんも良い子だからどっちも採用されて欲しいのねん」
「どっちもってなるとハルスの工業力が限界を超えると思うんだよな……」
全く別の系列の機体を二種量産するのは難しいだろう。最終的な決定権はツェーン王家にあるのだが、お金に厳しいあの王家がそれを許可するとは思えなかった。
「……やっぱりケルベインは一対多数には弱いわね」
「だなあ」
四機のウルバールからの面攻撃に、回避しきれずに被弾した。眼に見えて動きが鈍る。機動力が命綱のケルベインは装甲が薄い。その為些細な被弾でも命取りとなる。一度でも乱戦に持ち込まれてしまうとケルベインの勝率は目に見えて下がっていた。
反面、エルヴァリオンとの一対一の模擬戦では常に有利な距離をキープして完勝していた。
「集団戦闘となると自由に動けるスペースも減るのねん」
「意外な弱点だったよ」
ハーレイが今、この場にいないのもその欠点を少しでも埋めようとしているのだろう。高機動化に伴って、僚機との連携に高度な物が要求されてきている証だった。これが四対四となった時に、或いはもっと大規模になった時にどう運用していくか。そこまで行くともう戦術の域なので機体性能について論じる場には相応しくないだろう。
「逆にデュコトムスは安定しているのねん」
「地力で押しつぶしている感じだけどな」
幾つかの近接用武装をトーマスに試して貰っているが、現状一番相性が良かったのが岩塊を削り出して作った岩斧だというのだから驚きだ。武骨にも程がある武器を軽々と自在に操り、ウルバールを一撃で叩き潰した時には操縦者の命を真剣に心配した。模擬戦と言えど、機体中枢を狙わないというだけで全て実戦時の装備で行っている。トドメを刺さないだけだ。そうした装備の性能評価も込みだった。魔法道具ならば威力を押さえる事も可能なのだが、物理的な武装はそれも難しい。
「模擬戦をもっと安全に行えるようにしたいな」
「そうねえん。整備班も大変みたいだし」
一戦毎に機体がボロボロになって帰ってくるので整備班は毎日戦争の様な有様だ。余りに疲労が溜まっているので急遽休日を差し込んだ程だ。そのせいでスケジュールは遅れている。だがカルロスにとっては有難い。休日であってもカルロスは休む必要が無い。ライター式の操縦系の作業を一気に進める事が出来るのだ。
完成まで後三日か四日。予定よりも早く操縦系は出来上がりそうだった。
「後は武装なんだが……」
グラムが日に日に死んだ魚の様な目になっていくのを止められない自分の無力さを噛み締めながらカルロスは呟く。あそこの作業で自分に出来る事は無い。有ってもやりたくない。仲間を、友を悪魔(テトライラ)に売った瞬間だった。
武装が完成したとしてもそれで劇的に変わる事は無いだろう――と言うか未だにカルロスは何を作っているのか知らない。全く報告を上げてこない――訳では無いのだが報告が報告になっていない。凄い感じ、いい感じ、ちょっと疲れた感じで理解しろと言うのは厳しい。
進捗は予定通りらしいのでその言葉が正しければもうすぐ完成の筈だった。
「そういえばハーレイちゃんも漸く試作品が届いたって言ってたのねん」
「この前追加できた船はそれか」
ハルス側の工房へと運び込まれる物を見かけたが、あれがハーレイの言っていた隠し玉だったのだろうか。
「本当に惜しいのねん。どっちも今確実に最先端の技術を駆使しているというのに……なのねん」
「……そうだな」
本当にもったいないとはカルロスも思う。自己評価になるがデュコトムスも、ケルベインも捨て去るには余りに惜しい機体だった。
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