15 開発スタート
「お、アルニカだ。よーし、両手をあげろー」
「ひゃっはー。金目の物をだしなー」
「テンション高いなお前ら」
グラムのはしゃいでいるという言葉に嘘は無かった。はしゃぎ過ぎである。手にした銃を向けられてぎょっとしながら身を逸らす。
「安心したまえアルニカ。弾は入っていないよ」
「峰打ちさー。覚悟しな。あるある」
「意味が分からん……」
やはりグラムを付けないといけないなとカルロスは痛感する。グラムの心労はこの際無視するものとする。
「実は二人……というかグラム含めて三人のチームにお願いがあるんだが」
「ちっ、アッシャーもいるのか」
嫌そうな顔を隠そうともせずに舌打ちしたのは言うまでも無くテトラだ。相変わらずこの二人は相性が悪いらしい。……カルロスからすると喧嘩すると何とやらに見えるのだが、それを言うと「エスエムカップルのお前らと一緒にするな」という心を抉られる答えが返って来たので二度と口にしないと決めた。
「それで、お願いって何かな?」
やさぐれ始めたテトラを放置してライラが小首を傾げる。テトラに向けられたライラの視線はどことなく生ぬるい物を見るようになっている。ある意味でライラもやってられない心境を抱えているのかもしれない。
「ラズルから予算を分捕れたから新型の試作機建造に入るんだが、そいつで使う武装を用意して欲しい。遠距離攻撃が可能な武器で」
「おお、銃を作ってもいいの!?」
「え、作れるのか」
ハルスの独自技術である銃。人間サイズの物を一丁手に入れただけで魔導機士での再現が可能になるとは思っていなかったカルロスは目を見開いて驚くが、ライラはあっさりと首を横に振る。
「ううん。イエスでもあり、ノーでもあるかな」
「というと?」
「多分ハルスが作ったっていうのと同じ物は無理。原理を聞いてそれに近い仕組みは再現できそうだったから実験してみようかなーって」
「ほう」
「きっとあるある驚くよー? くれくれも」
正直に言うと、怖い。このライラが態々驚くというくらいだ。とんでもない事が起きる気がする。しかし驚かされてみたいという気持ちもある。大丈夫、グラムが何とかしてくれる。カルロスはそう自分を納得させた。グラムが聞いていたら信頼が重いと叫んだだろうか。或いは押し付けるなと怒っただろうか。崩れ落ちている彼からは聞くことは出来ない。
「クロスボウ以上の威力と射程を確保してほしいな」
「オッケー。それじゃあぐらぐらに相談してみようかな」
「……別にアッシャーじゃなくてテトラだって」
「てとてと大雑把と言うか目分量と言うか……細かいの苦手じゃん」
「違うの! アッシャーが神経質すぎるの!」
「そうなのあるある?」
「何とも言えないところだ」
ライラが魔導科第三者であるカルロスに話を振ると彼は尤もらしくタメを作りながら言う。
「ぶっちゃけ俺からするとどっちも極端でな……」
「なるほどー」
「違うってば! テトラは普通!」
強弁するがライラの疑惑の視線は晴れる事は無かった。そういえば、と思い出したカルロスはついでに聞いて見る。先日のお披露目で大陸側に戻った際にイラと会ったのだ。軽い近況の交換をしたのだがその中で伝えて欲しいと頼まれている事が有った。
「そう言えばイラの奴がライラと会いたいって嘆いていたが……」
「兄ちゃんは暑苦しくて……」
視線を逸らしながら兄を避けている事を遠まわしに告白するライラ。兄であるイラが哀れになって来た。確かにちょっと必死と言うか、カルロスも気持ちは分かるのだがこうして会えるようになってもあそこまで全力だとちょっと引くというか。
「いや、まあ……分からんでもないけど。でもあいつ本気でライラの事を心配してたんだから顔位見せてやれよ?」
「うう……だって恥ずかしいじゃんか」
分かる。とカルロスは頷く。決してイラが恥ずかしいというのではなく、身内に可愛がられている姿を友人に見られるのが恥ずかしいという話だろう。そのはずである。
「未だに一緒にお風呂入ろうとか言ってくるし」
「ああ、それは嫌だな」
というか、そんなこと言っていたのかとカルロスの中でイラへの評価が下がった。二十歳にもなった妹と一緒にお風呂に入ろうとするのは紛れもない変態だ。
「あ、そうだ。あるある。今思いついたんだけど護身用に撃っても血が出ない銃を作ってみても良いかな?」
「今の流れで何でそれを思いついた。おい、それ誰に向ける事を想定したんだお前」
「エーライラワカンナーイ」
露骨に視線を逸らして棒読みで言う彼女はするりとカルロスの視界の端を擦り抜けて行く。
「さあてとてと、ぐらぐらと楽しい時間が待ってるよ!」
「別にアッシャーと一緒で楽しいなんて思わないし!」
「え、私は楽しい実験の時間が待っているって言いたかったんだけどなー」
テトラがライラに言い込められるというちょっと珍しい光景を見送りながらカルロスはぼやく。
「怖いなー」
ちょっと早まったかもしれないと後悔しながらもどんなびっくりする物が飛び出してくるのか。楽しみにしながらカルロスは自分の部屋に戻る。作業スペース兼寝室。
指示を出してカルロスの仕事は終わりでは無い。カルロスにしか出来ない最大の仕事がまだ残っている。
「操縦系の魔法道具……新フレームに合わせたコントロールユニットの開発か。大仕事になりそうだな」
リレー式からライター式に切り替える事も考えると、作業規模は嘗ての試作機の時と同等かそれ以上になるだろう。
その時の思い出を――今はもういない助手の事を思い出してカルロスは胸にちくりとした痛みが走るのを感じた。
実務的な事を考えると、今回も助手が欲しいというのが本音だ。だが融法使いはハルスからの人材にもいないし、ログニスの人間にもいない。何より、信頼できる人間でないと前回の二の舞に成りかねない。魔法道具を作るという事は、融法の妨害が出来ないのだ。カルロスの知らない場所で暗躍されたら手の打ちようがない。
自分一人でやり遂げないといけない。そう考えてカルロスはふと心に暗い物が過るのを感じた。それは漠然とした不安。誰も付いてこれないのではないか。最後には一人になるのではないか。そんなバカげた考えが浮かんできたのだ。
首を横に振って小さく溜息を吐く。自分の周りには大勢いるというのに孤独感を覚えるなど贅沢にも程がある。あれだけの個性豊かな面々に囲まれていてそんな物はあっという間に吹き飛ぶ。
だがカルロスはその馬鹿げた考えがどうにも消え去ってくれないのだった。
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