14 割り振り
「あー親分。こいつは本気で?」
「本気も本気だ」
早速出来上がった図面を整備班長に見せるとカルロスの正気を疑う視線が向けられた。何しろ、サイズからしてこれまでの物とは別物だ。
「こいつを作るって言うなら作業台を専用の物にしないといけませんな」
「ああ、今の十メートルサイズに合わせてる物な……」
言われてみれば、そう言った整備の為に必要な物も全てサイズアップするのだった。先にそちらを揃えておいた方が良いかもしれない。
「外注して問題の無い部品はハルスにオーダーする事になる。それ以外の基幹部品は全部ここだ」
「フレームも?」
「むしろフレームは絶対に外部に漏らせないからここ以外は有り得ないな」
「ですよね……はあ、またしばらく忙しくなるな……」
「初めてだらけの作業になるからな。スケジュールには余裕を持たせたつもりだ。急かさないからしっかりと作り上げてくれ」
むしろ変に速度に拘って徹夜の作業から集中力が落ちて怪我でもされたら困る。代わりの人材は機密保持の関係から簡単に用意できる物では無い。
確実に、丁寧に。その二つを心掛けてほしいとカルロスは整備班に言い含める。
「後はそうだな……完成した暁にはボーナスが支給される。後長期休暇もな」
「よっしゃあ!」
「やったるぞお前ら!」
分かりやすい位にテンションが上がる整備班にカルロスはもう少し休みを与えるべきだったかと反省する。島から出られないからと長期の休みを求められていなかったというのもあるが、そうした勤務体系を見直すべきかもしれない。
「……枝を改造して指定した内容を口外できない様な魔法を組むか」
そのやり口はアルバトロスのやり方だな、と己の発想にカルロスは顔を顰める。だが真面目な話としてそうでもしないと彼らを迂闊に外には出せない。現在のログニス租借地。その中の租界ならば防諜対策も施されているので安全性は高まるが、それ以外となると厳しい。
喋れないようにするのは彼らを守る為でもある。魔法による妨害があると分かれば関係者を拉致して拷問する事が無意味であると分かるだろう。そうすれば一人目は兎も角それ以降の人間への拉致に対する抑止力となる。
機密保持だけを考えている訳では無いのだ。一緒にやって行く仲間だ。わざわざ危険な目に合って欲しくないという思いもある。
しかしそれ以上に今回の技術も万が一に奪われるような事が有ってはいけない。そうなれば大陸での争いは更に激化する。それだけは何としても避けたい。
「まだ気を抜くなよ。終わったらだからな!」
「ういーっす」
本当に分かっているのかと思う気の抜けた返事だったが、一先ずそれで解散とした。大型フレーム用の整備機材を準備させる班分けは熾烈な争いとなったらしいがカルロスも詳しくはしらない。
その足で今度はクレアの元に向かう。魔導炉関係は彼女に頼まないといけない。後は単純に彼女にも見せびらかしたいという思いもあった。
「……このスーパー新式っていう所に大いに突っ込みたい所だけれども」
「な、何だよ。良いだろう。スーパーって」
「前々から思っていたけどカスのセンスにはついて行けないわ……」
何故この良さが分からないのかと何時もの対立をした後、クレアが気を取り直して言う。さりげなく名称の所には取り消し線が引かれていた。
「少し変えて欲しいところがあるのよ」
「変える場所?」
「そ、エーテライト供給関係ね。ちょっと構造をシンプルにしてみたの」
こちらもクレアの書いたと思しき図面がカルロスに手渡される。彼女の指がカルロスの図面の一部をなぞった。
「ここを丸ごとこっちの図面に差し替える形になるわ」
「サイズは変わっていないんだな。必要な部品点数が減ったのか」
「ええ。後はエーテライトの積載効率ね。今までの二割増しよ」
その言葉にカルロスは改めて図面に目を落とすが、彼の目ではそんな超絶技巧が凝らされている様には思えなかった。変哲もない魔導炉関係の図面だ。
「どうやるんだよ」
「それは現物を見てのお楽しみね……私なりの技術流出対策よ」
「ほう」
是非とも詳しく聞きたい内容だったが、今クレアは話すつもりはない様だった。ならば彼女の言うとおり、現物を見る時を楽しみにすることにした。変な物では無いだろうと信頼もある。
「それじゃあ完成を楽しみにしていてね」
「ああ。よろしく頼む。それから後はあの三人か」
「……ねえ、カルロス。あの三人何だかこう変わり種専門と言うかなんというか。もうちょっとちゃんとした仕事を回した方が良いんじゃないかしら」
確かに、結果的にではあるが余り真っ当とは言い難い仕事ばかりだったなとカルロスは思う。何もかももライラとテトラが悪い。カルロスは心中で言い切る。まともな仕事を回しても、あの二人が変わり種にしてしまうのだから仕方がない。
とは言え、今回はクレアの言うちゃんとした仕事だ。
「大丈夫。今回はあいつらが真面目にやる限りは真面目な仕事だから」
「……不安ね」
グラムの手綱捌きに期待するしかない。丸投げしたとも言う。最近銃の現物を手に入れてカルロス以上に大喜びして夢中になっているという話だったので不安は大きい。果たしてグラムは御し切れるのだろうか。
そんな犠牲者にカルロスは仕事を頼みに行く。
「新型機の武装を頼む。グラムとテトラとライラの三人で」
「カルロス。君は僕に死ねと言うのかい? 今のあの二人を押さえろだって!?」
そこまで言うかと思わずカルロスも突っ込む。だが悲鳴を上げているグラムの姿は演技には見えない。本気で彼は絶望していた。
「アイツら銃の現物を手に入れて大はしゃぎなんだぞ!? そこに武装を作れだって!? 暴走するに決まっているじゃないか!」
涙さえ浮かべてカルロスに掴みかかってくるグラムに、こいつも苦労しているんだなと他人事の様に思う。つい一日程前の余裕は何だったのか。もしかするとあの穏やかさは現実逃避していたのか。
「……すまんが、他に頼める人間がいない」
そう告げるとグラムは崩れ落ちた。絶望と題を付けてそのまま飾りたい程に見事な崩れ落ちっぷりだった。
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