05 魔力の使い道
自身の許容を超えた魔力を浴びて昏倒してしまった研究所職員が目を覚まし始めた。その顔ぶれを見渡してカルロスは内心で呟く。
(マッドな奴らが集まっちまったな……)
別段そんな人材を集めようと思って集めた訳では無い。ログニスの中から数名。そしてハルスからも数名。ログニス側の人間はまあ一部を除いて常識的な人間が揃えられている。問題はハルス側だ。
別にハルス連合王国が嫌がらせで送ってきた訳では無い。各王家間の勢力バランスを整える意味からも均等に二名ずつ研究者が送り込まれた。ただ、その送り込む際の人選方法に問題が有った。
当然ながら、既に立場のある人間は送り込めない。そうなると、立場に就いていない人間を送り込むことになるのだが、そこに能力の無い人間を選んでも意味が無い。つまりは立場の無い能力のある人間。そんな人間は概ね何かしらの問題がある。
そうして集まったのがちょっと研究が大好きで周囲の迷惑を顧みない人間だった。
もっと問題なのはそこに燃料を投下してしまうライラとテトラと言う第三十二分隊時代からの問題児たちなのだが。
「で、今度はお前ら何をやったんだ?」
「うむ、良くぞ聞いてくれたあるある!」
「大発見なのだよあるにか!」
正座しながら胸を張るという器用な真似をしながら二人は得意げな顔をしている。
「何だか滅茶苦茶な魔力を精製させたみたいだけど」
「ちょっと思いついてくれくれの作ったエーテライト融解の魔法を、この前のハルスで発表したハーレイの理論で魔法道具化してみたんだ」
「それだけでこんなことに?」
それだけならばこれまでの魔法道具と変わらない筈だった。先ほど見た様な現象が発生するとは思えない。それからお金が無いのに特許料払わなきゃいけないような事をさらっとしないでほしい。こいつらのポケットマネーで払わせてやろうかとカルロスの中に黒い考えが浮かぶ。
「おっと、あるある。実はお主ハーレイ型の魔法道具の理論を知らないな?」
「詳しくは知らないな。論文は取り寄せているからその内読もうとは思っているけど」
「簡単に言うと、今までの魔法陣を刻み込む形から魔力への命令文を書き込む形になったのさ」
テトラが得意げに説明してくれたことによると、これまでの図形では出来なかったような連続的な魔法の使用が可能になったのだという。一秒間で同じ魔法を連続的に発動させた結果、一瞬でそれなりの量のエーテライトが溶解し一気に魔力が溢れ出したらしい。
「凄いのだけれど、確かに凄いのだけれど……」
「一瞬でエーテライト切れになるな」
これだけの大魔力。それこそ対龍魔法(ドラグニティ)でも使わないと消費しきれない。そして一瞬でエーテライトが枯渇する為使ったら最後、機能停止だ。
「そこは上手く調整すれば瞬間的に大魔力を得られるって事が出来るんじゃないかな?」
「つってもそれを使う方法がな」
そのカルロスのボヤキにライラが不敵な笑みを浮かべた。
「らしくないね。あるにか」
「あん?」
「無いなら作ればいいじゃないか」
確かにその通りだ。その通りなのだが。カルロスは小さく首を横に振った。
「いや、駄目だ」
「えー。なんでさ」
不満げにライラが唇を尖らせて抗議して来る。そんな彼女にカルロスは指を一本立てて説明した。
「簡単な話だ。そんな一発撃ったらお終いの機体をログニスもハルスも求めていない」
今のハルスが求めているのはアルバトロスの侵攻を押し留める為の機体だ。確かに一発で広域を薙ぎ払える魔法を撃てる機体を用意すればそれなりの戦果は挙げるだろう。
「撃ち切った後は置物だ。クロスボウで一気に射抜かれるぞ」
「むう」
エルヴァートのクロスボウによる射撃は中々の精度と射程を誇っていた。何より機動力も高い。射程外から分散して突入されたら迎撃も難しい。
「何より機体制御用のエーテライトにはそんな大魔法は組み込めない。ハーレイ型の魔法道具で小さなエーテライトに抑えられるなら検討の余地はあるが……」
「無理。命令文書き込むのにも結構なサイズが必要」
「だろう?」
良いアイデアだと思ったんだけどなーとぼやきながらライラは肩を落とす。少し可哀想になったカルロスは一応のフォローを入れる。
「エーテライトを使い切らない程度に抑えられれば、稼働時間とのトレードオフだが高性能魔導炉として検討出来るかもしれないな」
「んーやってみる」
考え込みながら歩き出したライラを見送ってカルロスはグラムに向き直る。トラブルメーカーは遠ざけた。
「予備の機材が有ったよな。そっちで予定していた実験は行おう」
「分かった」
今研究所が主題にしているテーマはエーテライトから魔力への変換特性の調査だ。エーテライトの安定を崩す事で魔力へと変わる。その特性を数値化することが第一段階。そしてそれを利用した新型魔導炉の開発が第二段階。――今のテトラとライラは第一段階をすっ飛ばしていきなり第二段階の応用を始めた様な状態だ。結論だけが出て、その過程が一切不明な状態だ。それでは今後使っていく上では困る。
第一段階の実験も大詰めだ。今回の実験で予定通りの数値が出ればクレアの理論はほぼ実証されたと言っても良い。理論派だったグラムにとっては非常に充実しているらしい。いつ見ても満足そうな顔をしていた。今の実験は彼が中心になっている。
「よし、それじゃあ試験用魔法の三番を発動してくれ。計測班。数値変化の記録を忘れずに」
「了解しました。アッシャーさん」
指示の出し方も慣れた物だ。てきぱきと指示を出して実験の準備を整えていく。
「ようやくね」
「ああ。時間かかったよな……」
何しろ、実験器具の特注から始まっていたのだ。これまでエーテライトの魔力変換特性何て物を検証しようとした人間がいなかったため、必要な道具の大半は存在していない。道具の作成自体も試行錯誤しながら確かめて行き、漸く安定した実験が出来るようになったのがここ二三週間の話だ。その試行錯誤に多量の資金を使う事になった。
「エーテライトの溶解を確認。魔力への変換割合……27%」
「計算通りだな」
「ええ」
平静を装っている様だがクレアの口元は楽しげに緩んでいる。自分が見つけ出した理論。それが正しい事が実証されたのだ。嬉しくないはずがない。
「それじゃあ、新型魔導炉の設計見直しから入りましょう。時間は有限よ」
喜ぶのも束の間。即座にクレアは気持ちを切り替えて次のステップへと進む。従来型の中型魔導炉では不足していた魔力出力。それを前提とした新たな筐体を作り上げないといけない。
その解決の目途が付いたのを確認したカルロスは研究所の方をクレアに任せて併設された工房へ歩を進めた。
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