08 諜報対策
船の速力を増す事は出来そうだったが、肝心の問題は未だ解決していない。
ラーマリオンをどう封じるか。それが実現できなければ容易く追いつかれて沈められてしまう。
「……ラーマリオンは魔導機士であって船では無い。その活動限界距離はそれほど遠くは無い」
カルロスがそう、自分たちに有利に働く要因を挙げるが参列者の表情は晴れない。確かに、船と違い海上で活動するためにはエーテライトを消費する。消費は決して軽い物では無い為、復路を考えればある程度の距離まで逃げてしまえば向こうは追って来られない。
問題はその距離が相手の輸送船で飛躍的に伸ばされるという事だ。そしてその輸送船の足はかなり速い。大型の四本マストの帆船だ。その速度を上回る船はアルバトロス、ログニスには存在していない。今回用意した船も二本マストの物だ。積荷もあって速度は余り出せない。まず間違いなく追いつかれる事だろう。
「まず大前提として出港前に見つからない事だ」
「当然だな。見つからなけりゃ戦いにもならないし」
ケビンがそう言うとガランが頷いて引き継いだ。
「魔導機士の収容は港以外で行うんだよな?」
「その予定だ。ここの入り江で合流予定だ」
流石に堂々と港で魔導機士の積み込みを行う事は出来ない。それ故に入港前に密かに積み込み、物資を補給。ハルスへと向かうという計画だった。
「魔導機士を積んだまま港に入るのか?」
「よく分かんねえけどそれって見つかったらもう言い訳出来ないんじゃないのか?」
グラムが眉を顰めて、トーマスは不安そうにそう言った。港で魔導機士など見られたら確実に自分たちがログニスの王党派だとバレる事になる。入り江で合流可能ならば出港後に合流した方が露見の可能性は低く出来そうだった。二人の言葉にラズルはゆっくりと首を振った。
「いや、駄目だ。その場合、港を封鎖された時に突破する戦力が無い。海上を動けずとも魔導機士が居れば強力な砲台としては扱える」
「封鎖されるって事は見つかった時だと思うのだけれども。スレイの言うとおり、後から合流した方が発見のリスクは抑えられるんじゃないかしら」
「いえ、魔導機士を見られずとも露見の可能性は付き纏います。そうなった際に対抗手段が無いのは拙い」
そうなれば王党派の大半はその場で捕縛されてしまう。港以外の場所で大人数を乗せるのが難しい以上仕方のない事だった。
「問題は奴らがどんな手品かは分からんが、こちらの構成員を的確に見つけ出してくることだ。顔が割れていない筈の若い奴らが何度か捕縛されている」
「それについてはー」
「うん、うちのボスの担当だねー」
ライラとテトラがボスと言いながらカルロスの方に意味深な視線を向ける。おかしいな、こいつらにボスとして敬われた記憶など無いと首を捻りながらカルロスは王党派の面々に告げる。
「多分それはアルバトロス側の諜報員の仕事だな」
「それは分かっている。問題はどうやって見つけ出しているのか……」
「融法」
「何?」
「融法による記憶の閲覧……細かいところまで見れないだろうからかなり大雑把な物になるだろうが、疑わしきは罰せよの精神で行けば当たりも引けるだろうな」
連中の得意分野だとカルロスは吐き捨てた。一番謎なのはそれだけの数の融法の使い手を如何にして確保しているかなのだが、今それを話し合っても何の意味も無いので口にはせず呑み込んだ。
「待って欲しい。融法の可能性は我々も考えていた……だが行く先々でだぞ? そんな捜査網を引くことは――」
「出来る。アルバトロスはどうやってかは知らないが、大量の融法適性者を確保している。各町に一人ずつ配置することだって……不可能ではないだろうさ」
長い事悩まされいた問題の理由が判明して彼らは納得の表情を浮かべていた。即座にそれは更なる渋面に変わったが。
「つまり、我らは常に発見される可能性が高いという事か」
頭の中を直接見られるのでは対処のしようがない。そんな事実を突き付けられたことになる。それでは確実に発見されてしまう。港と言うのは人が集まる場所だ。そこにアルバトロスの諜報員がいないとは思えない。
「こんなこともあろうかと用意していた物がある。こいつがあれば大丈夫だろう」
そう言いながらカルロスが懐から取り出したのは盗聴防止の魔法道具。直接接触されての融法は防ぎようがないが、不特定多数へと向けた融法ならば防ぐことが出来る。
「……用意が良いな」
「今の所これ一個だけだから今から作らないといけないけどな」
「いや、助かる。すまないが幾つか作っておいてくれ」
「了解だ。船全体をカバーできる分と、後は持ち出し用に幾つか、だな」
漸くこれでスタートラインと言うのが頭の痛いところだった。露見のリスクを抑えるには後は如何に目立たぬようにするかだ。
「で、話が戻るんだが……首尾よく見つからずに出港出来た後だ。港を封鎖されずに進めたとして」
「現在ハルス方面の航路は監視されている。書面上はアルバトロス方面に向かう事になっているが、余達が針路を取った時点でばれるだろうな」
「そこで一戦を覚悟しないといけないのか」
「アルバトロスの巡回艦隊が相手だ。港封鎖されるよりは戦力は控えめの筈だ。帝都に突っ込むよりは気が楽だろう?」
アレックスが冗談めかしてそう言ってくる。
「出来るなら二度とやりたくないな」
「私もやりたくないです……」
カルラが溜息を吐く様にそう呟く。ある意味で一番苦労したのは彼女だろう。暴走しがちな三人の手綱を握っていたのだから。ケビンとカルラ。この二人がそれぞれ率いてくれなければ帝都襲撃は失敗していただろう。
「ラーマリオンはそこでエルドを出てくると考えると……」
ラズルが呟きながら地図の上に指を這わせる。指先が一点で止まった。
「この辺りで補足されるな」
「ログニス南海か……潮の流れが速い海域だ」
「上手く海流に乗れれば距離を稼げるか……?」
海に詳しい王党派の人間が改めて検討しているのをカルロス達は見ている事しか出来ない。流石に海の事となると彼らも専門外だった。彼らの専門は陸での戦いだ。
「ラーマリオンは海上では間違いなく無敵だ。海上で戦闘になるっていうのをまず避けるべきだろうな」
「出港前に襲うのか? 不可能ではないが……」
そうなるとアルバトロスからの追撃を振り切るという余分が加わる。ラーマリオンを倒しても船を沈められては意味が無いのだから。
「いや……」
カルロスはそこで意味深に言葉を区切って笑みを浮かべた。
「ちょっと良い事を思いついた」
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