07 事情聴取
紅の鷹団は即座に降伏した。別に敵対していた訳でもないので降伏と言うのは適切ではないがアルバトロスの兵士の指示に従い武装解除を行った。
逃げないようにしたかったのか輸送用の馬車まで手配されており、徒歩で帰るよりも楽でいいと言う団員すらいた。図太い事である。
城塞都市グランデ。嘗て国境某絵の要として、アルバトロスに睨みを利かせていた一大拠点。その後の侵攻によって、旧ログニス領の監視と東から侵攻してきた他国を防ぎとめるための防衛ラインへと機能を変えた。
また、両国の中間地点である事。防衛時に都市単独での継戦機能が求められたことから、アルバトロス帝国内でも有数の魔導機士量産設備を保有している都市でもあった。
馬車が止まったのはアルバトロスの軍施設だった。荷台から個々に連れられて行くのを見てマリンカが口を開いた。
「あたしの団員らに何をするつもりだい」
「いえ、少々事情をお聞きするだけですよ。ただ、個別に聞きたいだけで、ね」
なるほど。とカルロスは頷く。恐らくはどういった経緯で紅の鷹団がアイゼントルーパーを入手したか聞きたいのだろう。極論、紅の鷹団が奪ったと判断されてもおかしくない状況だった。
「はん、理性的で良い事だね」
マリンカが皮肉を飛ばす。彼女も同じ結論に達したのだろう。流石にそれ以上煽るような真似はせず、口を噤み腕を組んで何事かを考え込んでいた。その際に胸が持ち上げられて見張り役の兵士が鼻の下を伸ばしている。意図的にやっているのなら恐ろしい話だが、多分無意識なのだろう。ふと見張りの兵士と目が合ってお互いに曖昧な笑みを浮かべた。――カルロスも同罪だった。
「補給を頼む! 最優先だ!」
ふとそんな声が聞こえてきた。どうやらここは魔導機士の補給設備も備えているらしいと判断したカルロスは少し気になり、幌の隙間から外を除く。深い意味のある行動では無かった。単なる暇潰し。
だがその行為は暇潰しでは終わらなかった。補給の指示を出していたのは小柄な女性士官だ。少し横紙が跳ねた茶髪。その顔を見た瞬間。
「っ!」
叫びを上げなかったのは奇跡に近い。それでも拳を握り締め、険しい表情を作るのは抑えきれなかった。
(……アリッサ!)
今目の前に裏切り者がいる。元々アルバトロスのスパイだったのだから裏切りと言うのは適切ではないかもしれないが、心情の上では間違いなく裏切りだった。
「あ、駄目ですよ。勝手に外を見ちゃ」
幸いと言うべきか。見張りの兵士はマリンカの胸に気を取られてカルロスの激情の瞬間を見ていなかったらしい。一瞬で自制して即座に見た目平常に戻したのは流石と言うべきだった。もし見られていたらこんな暢気な雰囲気ではいられなかっただろう。
「すみません。退屈で」
「気持ちはわかりますけどね……」
「小さな女の子の声が聞こえたなって思って。それで覗いてみたら本当に居たのでびっくりしました。……アルバトロスでは成人前の少女を徴兵しているのですか?」
そのカルロスの言葉に兵士は怪訝そうな顔をした。そしてカルロスが覗いていた場所から見ていた位置を察して納得の表情を浮かべた。
「んん? ああ、アリッサ特務士官ですか。彼女は特別です。それにああ見えて成人していると聞いていますよ」
「有名な方なんですか?」
先ほどマリンカの胸をガン見していたという親近感からか、少しばかり滑らかになった口で兵士は色々と教えてくれる。
「ええ。第二皇子の直属部隊に所属している精鋭です。古式を除けば最強じゃないかって言われています」
「へえ。あんなに小さな女の子が……」
「肉体的なサイズは魔導機士には関係ありませんからね。あ、丁度出るみたいですよ」
本当に補給だけだったのだろう。短時間で再搭乗したアリッサは機体を駆って基地を後にするところだった。ちらりと見えた後ろ姿から、それがただのアイゼントルーパーでないことは明白だった。改造機か専用機か……どちらにせよ手ごわい相手である事は明白だ。
「次だ」
連絡役の兵士が横柄にそう言った。お喋り好きの見張りとは偉い違いだとカルロスは思う。
「んじゃ行ってくる」
「カール。何かされたら大声であたしを呼びな。壁打ち抜いて助けに行くから」
「堂々と脱走の相談しないでくださいよ……」
「冗談よ」
妙に馴染んでいる見張りとマリンカに渋い顔をした連絡役の兵士は顎で行先を示した。
「行くぞ」
「はい」
通されたのは狭い一室だ。窓も無い。机が一つと椅子が二脚だけの部屋だ。
「やあ。御足労頂いて申し訳ない」
そう言ったのは柔和そうな笑みを浮かべた男だった。
「どうぞ。座ってください」
促されて席に着くがカルロスは舌打ちしそうになった。
「これは別に取調べという訳ではないので気楽にどうぞ」
そんな事を口では言っているが、その実密かに融法による干渉を仕掛けて来ていた。カルロスに丸わかりな位なので然程位階は高くないのだろう。だが何の素養も無い人間がこれを受ければ考えは殆ど口に出るような物だった。
「それは良かった。正直人知れずに消されてしまうのではないかと恐々としていましたよ」
となると黙っているのは悪手だ。本来ならば隠しておいた方が良い様な事も含めて喋ってしまった方が良い。
「あっははは。流石に我々もそんな非道はしませんよ。ただ貴方方が運んでいた魔導機士。あれをどうやって入手したかについてお聞きしたくて」
「ああ、そうなんですね。ただ――」
「ただ?」
「申し訳ないんですが、僕は良く知らないんです。入団した時には既にあの三機は大破していた様だったので」
他の団員から話を聞いて向こうは既にある程度の事態を把握しているだろう。ここで嘘をついて睨まれることは避けたかった。融法が利いてる振りをしてぺらぺらと喋る事にした。
「入団した……森の奥地でですか?」
「元々紅の鷹団には入団をしたいと思っていたので。偶然出会えたのでこれはチャンスだと思いまして」
「ふむなるほど。ではまず何故そこにいたのかをお聞きしても良いですかな? 話を聞く限りではあなたは単独で行動していた様だ。そんな奥地に何をしに?」
恐らく、それは殆どの団員が知らなかった事なのだろう。カルロスは僅かに相手の空気が変わったのを察した。
「ここしばらく目撃されていた新種の魔獣の調査。それを行っていました」
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