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「柚葉……ごめんなさい。私よけいなことを……」
留空が申し訳なさそうに、私を見つめた。
「いいの。気にしないで。寮を出て落ち着いたら、話すつもりだったから」
「やだ、寮を出るの?そこまで話が進んでたんだ」
陽乃は完全に違う方向に進んでいる。
「寮を出て何処に行くのよ?誰かさんと同棲するの?」
陽乃が勝手に暴走し始めた。どうしてアクセル踏むかな。
「同棲って、木崎さんじゃないなら誰とするのよ?」
噂には疎い美空が、目を見開く。
「陽乃、勘違いしないで。父が四月から東京勤務になったの。四年くらい東京にいられるみたいなんだ。今、丸福信用金庫の社宅に住んでるから、家族と一緒に住むのよ」
「この歳で、家族と同居?それ、キツいな。私なら息が詰まっちゃう」
「陽乃の場合、男を自由にお持ち帰りできなくなるからね」
美空が陽乃をからかうが、陽乃は相手にもせずサラリと交わす。
「そうよ。恋をしないと美空みたいに潤いをなくすからね」
やれやれ、またバトルが始まった。
「木崎さんは結婚前提で、柚葉に交際を申し込み、柚葉も前向きに考えたからこそ、付き合い始めたんでしょう。いい感じだったのに、どうしたのよ」
「木崎クリニックに案内され、急患が入り医師の姿を目の当たりにしたの。クリニックの後継者を産んで欲しいとも言われた。私……プレッシャーに弱いから。留空みたいに踏ん切りつかなくて、それを木崎さんに見透かされたというか……」
「なるほど、夜の誘いを断ったんだ」
「……ひ、陽乃!?」
陽乃の言葉に思わず動揺する。
「やだ、図星なの?大人の男女が結婚前提で交際してるのよ。夜の相性を確かめるのは大切なこと。それを断られたら男として立場ないな。しかもその場に他の男がいたなら尚更だよ」
「柚葉、陽乃の話し本当なの?違うならちゃんと否定しなよ」
美空は陽乃の言葉を信じていないようだが、全部当たってる。吉倉から何を聞いたか知らないが、きっと噂のせいに違いない。
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