101

 ◇


「それでイライラしてるの?」


 社内食堂、時刻は十二時十分。美空が頬杖をつき、私を見ている。


「だって眼中にないって言い方だったから」


「別にいいじゃない。柚葉だって眼中にないんでしょ?それとも気になってるの?」


「……っ、まさか!」


「柚葉が感情を露にするなんて珍しいね。かなりきてますね」


「美空、きてますって?何が来てるの?」


 食事を早々に済ませた留空が、美空に問いかける。


 美空はズズッとラーメンを啜り、話を誤魔化す。私の背後でツンとすました声がした。


「男として意識してるってことでしょう」


「陽乃」


 陽乃はカルボナーラとサラダのセットをテーブルに置く。 女王様の登場だ。


「木崎さんを蔑ろにして、年下の社員に振り回されているなんて、私には理解し難いわ」


 美空が陽乃をチラリと見る。


「そこが柚葉と陽乃の大きな違いだね。柚葉は陽乃みたいに計算高くないから」


「あら、美空。ランチタイムに喧嘩吹っ掛ける気?」


 ジョークとも本気ともとれる二人の会話に、留空が慌てて仲裁に入る。


「二人とも……落ち着いて」


「落ち着いてます」

「落ち着いてるわ」


 二人の声が重なり、「フンッ」と美空が鼻を鳴らした。


「あの……ね」


「なによ?」


 威圧的な美空に、留空は声をすぼめる。


「今朝……遅出だったから、歯医者さんに行ったんだ」


「ふーん、虫歯でもあるの?」


「歯科検診……」


「だから、それがなに?」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る