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 ――翌朝、食堂に行くと窓際の席に日向が座っていた。


 食堂のおばちゃんに和定食を注文し、気付かない振りをしてカウンターに一番近いテーブルにトレイを置く。


 日向の視線を背中に感じた。


 食堂には数名の男女が食事をしていた。みんなお一人様だ。


 コツコツと靴音がし、テーブルの上にトレイが置かれた。


「おばちゃん、珈琲下さい」


「はいよ、いつものね」


 ……っ、どうしてここにトレイを置くかな。


 セルフサービスなんだから。

 トレイの回収場所はカウンターの隅にある。


「雨宮さんおはようございます。トレイはすぐに片付けます。珈琲ご一緒してもいいですか?」


 大きな声で問われると断れないということを、きっと日向は計算済みだ。


「どうぞ」


 日向はトレイを片付け、珈琲片手に席に座る。


「今日は窓際の席に座らないんですね」


 それは君が座ってたからだよ。


「もしかして、俺を避けてます?」


 正解。

 なのに同席するかな。


「俺、何か気に障ることしましたか?」


 今、目の前に座ってること自体、あり得ないから。


「日向さんこの独身寮では、男女が同席したりしないの。噂になると困るのよ。実際、もう社内で噂になってるし」


「俺と雨宮さんが?同じ部署の同僚が同席NGだなんて、古臭い風習ですね。全員が前を向いて一人で食べてもつまらないでしょう」


 調理場のおばちゃんが、私達の会話を聞きながら、クスクス笑ってる。


「日向さんのいうとおり。食事は誰かと一緒に食べるから美味しいし、栄養になるの。みんな何遠慮してるんだか、ここはオフィスの社員食堂じゃない。寮なんだから、自分の家みたいに、ワイワイガヤガヤ食べればいいんだよ」


「おばちゃん、そうですよね」


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