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「……ぇっ?」


 ふわふわと浮かぶドーナツの形をした煙草の煙。


 なにやってるの?


 思わずバルコニーの窓を開けた。


「やっぱり帰宅されていたんですね」


 しまった……。

 子供染みた策略に、まんまと嵌まったようだ。


「……こんばんは」


 バルコニー越しに、日向が少し身を乗り出す。


「こんばんは。ていうか、帰宅されてると思わなかったな。てっきり二人で……」


「二人でって、なによ。変な想像しないで」


 思わず向きになる私。

 

「すみません。てっきり二人で飲みに行かれたのかと」


 飲みに?

 私、なに勘違いしてるの。


「食事をご馳走になり、送っていただいただけ。明日も仕事だし、飲みになんて行かないわ」


「そうですか。雨宮さんの恋人がどんな方なのか、とても興味深かったけど、あんなに素敵な方だとは思わなかった」


 恋人だなんて……。

 日向は完全に誤解してる。


「彼は三十四歳だから、私よりも落ち着いてるの」


「俺より十歳も年上なんだ。どうりで大人だと思った。経済力もハンパないですね」


 経済力……か。

 確かに医師だし、個人病院の跡取りだ。


 陽乃や日向のいうとおり、結婚相手には申し分のない相手。


「いつご結婚されるんですか?」


「結婚!?」


 思わず突拍子もない声を出してしまった。


「すみません、唐突過ぎたかな」


「結婚……は、まだ当分先だよ」


「そうですか。とてもお似合いだったので、結婚間近なのかと。婚約は?」

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