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 大人びた横顔、あの時の不良学生とは全くの別人だ。


 単なる同姓同名に過ぎない。

 今も過去のトラウマに縛られている私、不良学生とあの人を比べるなんてどうかしてる。


 ――昼時間になり、いつものように本社ビルの五階にある社員食堂に行く。

 社員食堂のメニューは豊富。好きなメニューを自分で選べるシステムになっている。事前に自販機で食券を購入し、和、洋、中華、各調理場カウンターで提出し、トレイに配膳してもらい、自分でテーブルまで運ぶ。


 窓際の席には、経理財務課の虹原と数名の男子社員が同じテーブルで食事をしていた。その中に彼の姿もあった。


「柚葉、何ボーとしてんの。こっちだよ」


 私に声を掛けたのは、同期の高原美空たかはらみそら、キャリアウーマンを目指す営業部の主任。


 私は洋食Aランチを注文し、トレイを持って美空の席に行く。そこには他の部署の同期が数名同席していた。気心の知れたいつものメンバーだ。


「柚葉、なにチラチラ見てるの?虹原さんがそんなに気になる?」


 私に艶っぽい眼差しを向けるのは、秘書課所属、本社の受付嬢である花柳陽乃はなやぎひの。受付嬢でありながら、来店する男の品定めをし、この色っぽい眼差しで男を落とし婚活をしている。


「そんなに気になるなら、大阪に着いて行けば?」


「そんなことしないよ。私達別れたの」


「えー!?嘘?柚葉が振られたの?」


「彼のプロポーズ断ったの。今は山川さんと付き合ってるみたいよ」


「プロポーズを断るなんて、柚葉もバカね。虹原晃平は年収も経歴もルックスも申し分ないのに。大阪支店への異動はちょっとイタイけど、彼ならすぐに挽回し這い上がれるでしょう。私はもっと上のランクを狙ってるけど、平均ランクより上でよければ、妥当な相手だよ。でも、虹原さんが即行山川さんに乗り変えるなんて、男としては最低だけどね」


 陽乃は、男は学歴と年収とルックスだと言い切る。性格や内面は評価の対象にならないらしい。


「もったいない」


 企画部所属、本平留空もとひらるあ、彼氏いない歴二十七年の眼鏡女子。地味子だが仕事振りは真面目で勤勉。常に本を持参し食事をしながら読書する。でも常に周囲にアンテナを張り巡らし、情報収集には抜かりない。

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