43

 そうだよ……

 これが私の答え。


 自分に自信がなく、人を愛せない自分に失望した。


 人を愛せない人間が、結婚する資格はない。


 体の相性は性格の不一致よりも、結婚生活を左右する。いずれ虹原は、私から離れていくだろう。


「君の気持ちはよくわかった。俺達、これで本当に終わりだな。短い間だったが、君と逢えて良かった。憎しみあって別れるのは、俺の性に合わないからね。今夜は笑って別れよう」


 身勝手な虹原の言い分も、大阪に転勤すると思うと許せる自分がいた。


 私はとことんバカな女だ。何をされても、何を言われても、バカみたいに笑ってる。


 しかもこの場で、山川の話を持ち出すなんて自分でも呆れてしまう。


 最低だよね。


 ◇


 『LaLaLa』で虹原と別れ、自己嫌悪に陥り虚しくなった。真っ直ぐ独身寮に戻る気になれず、人の温もりに触れたくて緑ヶ丘にあるマンションに向かう。


 緑ヶ丘には、今年四月、四国から東京に転勤になった両親と妹が住んでいる。


 マンションは三LDK。

 妹は今年都内の女子大に進学した。


 ―緑が丘―


 玄関のチャイムを鳴らすと、すぐにドアが開いた。


「あら、柚葉珍しいわね。どうしたの?お帰りなさい」


「ただいま」


 出迎えてくれたのは、専業主婦の母。

 東京在住となり、『いつでも帰りなさい』と口癖のように言うが、いざ帰宅すると『どうしたの?何かあったの?』と不思議がる。


 リビングに入ると、短パンを穿き太腿を露わにした妹がソファーに寝転がっている。綺麗な脚に豊満なバスト、我が妹ながらTシャツから覗く胸の谷間にドキッとする。


 この悩ましい仔猫が、すでにこの家の主だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る