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「雨宮と別れて、わかったんだ。俺は雨宮がやっぱり好きなんだって」


 今更……

 そんなことを言われても。


 ――『雨宮が俺を拒むのは未経験だから仕方がないと思っていた。そんな雨宮を大切にしたいと思ったんだ。でも本当の姿は違ったんだよな』


 あの夜、虹原が私に浴びせた罵声が頭に過り、素直にその言葉を受け入れることが出来ない。


 虹原はその画像が私ではなかったと思っているようだが、もしかしたら小暮が流出した写真かもしれない。


 私が未経験でないと知れば、虹原はきっと失望し、また同じ罵声を浴びせるのだろう。


「大阪に異動になったのは、栄転なんかじゃない。仕事でミスをし、会社に損失を出した。これは左遷なんだよ」


 有能なエリート社員だと思っていた虹原が左遷。だから、あの日あんなに荒れていたんだ。本当に好きなら、挫折した彼を抱き締めてあげるべきだったのに……。


 虹原の衝撃発言に、同情と愛情が交差し、心が振り子のように揺れ動く。


「雨宮、俺に着いて来てくれないか?一人で大阪に行くのは寂しくてね」


「……えっ」


 虹原の唐突な申し出に、目を見開く。

 これは……プロポーズ?


「雨宮はキャリアを目指しているわけではないんだろう。このまま花菜菱デパートにいても何のメリットもない。結婚も選択肢のひとつだと思うんだ」


 虹原は淡々と語る。とても穏やかな口調。でも私が無能だと烙印を押されたようで悲しい。


 豹変する虹原を目の当たりにした私は、気持ちが萎縮し素直にプロポーズを受けることは出来なかった。


「……ごめんなさい。私……大阪には行けません」


「まだあのことを怒っているのか」


 虹原は表情を強張らせ、ワインを掴み自身のグラスに注ぐ。


「私は虹原さんに相応しくないわ。私達はもう終わったの。実はね、同じ庶務課の山川さんがあなたのことを好きみたいよ。あなたには山川さんみたいに可愛くて明るい女性が相応しいわ」


「あの山川さんが、俺のことを?」


 虹原はワインを飲み干し苦笑いした。

 空のグラスをテーブルに置き、私の目を真っ直ぐ見つめる。


「まさかそれがプロポーズの答えだなんて、想定外だったよ。雨宮なら絶対に断らないと思っていた。左遷の内示より衝撃的だな」

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