34

 俺は奴らに殴りかかっていた。相手は質の悪い闇金融の取り立て屋だ。何度拳を振り上げても、奴らにあたるわけがない。


 俺はサンドバッグみたいに腹部をボコボコに殴られ体中を蹴られた。お袋はそんな俺を捨て身で庇う。


 次の瞬間、男が振り上げた足がお袋の体にあたり、お袋はカウンターの角に頭をぶつけ、その反動で俺の体にドスンと覆い被さった。


 お袋の後頭部からは……

 トクトクと脈打つように血が流れ出す。


「母ちゃん!母ちゃん!」


 店の外でパトカーのサイレンがした。客の誰かが警察に通報したんだ。


 奴らはサイレンの音に動揺し、床に唾を吐き捨て立ち去る。


「また取り立てに来るからな。これで終わると思うなよ」


「母ちゃん!母ちゃん!」


 店内には壊れた椅子やテーブルが無残な姿で散乱し、床には踏みつけられた料理や割れた皿……。


 血だらけのお袋は……息も絶え絶えで……。


 それでも俺の体の上にしがみつき、俺を守り続けている。


「この子だけ……は……たすけて……」


 親父はお袋の手を握り、名を叫び続けた。


 ――それは……

 今まで味わったことのない、生き地獄だった。

 

 世の中は理不尽だ……。

 金が絡むと、保身のために血の繋がった兄をも裏切る。


 「母ちゃん―――……」


 強い憎しみと深い悲しみに、俺の怒りがおさまることはなかった。

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