19

「……手を離して下さい」


 防犯カメラの死角。

 小暮は店員の目を避けるように、店内の隅に私を連れて行く。


「柚葉、もしかして気にしてるのか?」


 あのこと……。


「本当に悪かったよ。未成年の柚葉に酷いことを言ってしまったと、深く反省してる。あの日、俺もどうかしていたんだ。柚葉が初めてだと知って動揺したんだ」


 小暮はゴツゴツとした指で、私の頬を撫でた。


「柚葉を傷付けたなら謝る。俺達、もう一度大人同士の付き合いが出来ないかな。柚葉も大人になったことだし、いいだろ」


 結婚しているくせに、小暮は平然と私を誘う。


「……ばかなこと言わないで」


「もうすぐバイトが来る。せっかく再会したんだ。一緒にお茶しない?アルバイトの相談にも乗るよ」


 小暮は棚に隠れるように私の手を握った。薬指のリングが、私の指に触れる。


「……離して」


 小暮は私の耳元で囁き続ける。


「駅前のロマンテイで待っててくれ。あとで必ず行くから」


「奥さんがいるくせに、ふざけないで」


「妻がいても関係ないよ。俺は柚葉とまた昔のように付き合いたいだけだ。来ないと例の写真SNSで公開するよ」


「……写真」


「もう忘れたのか?ベッドの上で撮った柚葉の写真だよ」

 

 あの苦い初体験を忘れるはずはない。


 私は小暮が好きだった。

 でも、あまりにも未熟過ぎた。


 小暮の一言に……

 私は深く傷付き、男性不信になった。

 

 ――ベッドの上で……

 小暮が携帯電話で撮影した写真……。


 布団に入ってはいたが、行為のあとに撮影されたものだ。


 あの写真を……

 まだ保存しているなんて……。

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