【3】過去のトラウマに怯える兎

柚葉side

17

 結局、私は日向陽の家庭教師を初日でギブアップした。


 家庭教師派遣会社にその旨を伝えに行くと、執拗に理由を問われ、彼に乱暴されたとは言えなくて、逆に叱られた。


「初日にこちらから断るなんて、あなた本当にやる気あるの?男子は嫌、女子しか引き受けたくないなんて、そんなに都合よくあるわけないでしょう。あなたのような学生の無責任な行動が、こちらの信用もなくすのよ。もういいわ、他の人に頼むから」


「申し訳ありません」


 当然次の学生を紹介してもらえるはずもなく、家庭教師以外の仕事を探すために、近隣のコンビニに立ち寄る。


 何をしても上手くいかないのは、私がダメだから……。


 コンビニで無料の求人雑誌を数冊掴み、店内で有料の求人雑誌の立ち読みをしていると、背後から声を掛けられた。


「雨宮さん?雨宮柚葉さんだよね?」


 振り向くと、そこに立っていたのは二度と逢いたくないと思っていた霧原小暮きりはらこぐれだった。


 三年の歳月を経て、さらに大人の男性へと変貌を遂げた彼は、私を見つめ懐かしそうに目を細めた。その眼差しは、私が恋をしていた頃の優しい目をしていた。


 私は彼を直視出来ず、視線を逸らす。


 鼓動がトクトクと音を速める。


「やっぱり雨宮さんだよね?綺麗になったから見違えたよ。大学はこの近くなの?俺、先月からこの店に異動になったんだ」


 物腰は柔らかく、声は甘く優しい。


 緊張から求人雑誌を持つ手が震え、額に汗が滲む。

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