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 ドカドカと足音がする。


「陽!あんた先生に何したの!女の先生に暴力振るってないだろうね!」


「何度言ったらわかるんだよ!ドアを開ける時はノックくらいしろ!」


「先生今にも泣きそうな顔してた。女だからって虐めてんじゃないよ。陽の家庭教師を引き受けてくれる先生なんて、もうどこを探してもいないんだからね」


「母ちゃん、何度言ったらわかるんだよ!俺は大学には行かねぇっつーの」


「ばかたれ!か弱い女の先生を泣かせるなんて、今度ばかりは許さないからね」


 お袋は一方的にまくし立て、ゴジラみたいに猛烈な火を吹く。


「忙しいのに、手をわずらわせんじゃないよ」


 部屋が黒焦げになるくらい、モーレツに火を放ち、バシバシと俺の頭をどつき、ドタドタと階段を駆け下りる。


「ちぇっ。頭を叩くなっつーの。アホになってもしらねーぞ」


「バカ息子を賢くしてやったんだよ!」


 俺の話を聞こうともしないお袋に苛立ち、机の上にあった雑誌をドアに投げつけた。


 お袋がどんなに躍起になっても、彼女は二度とここには来ないよ。それだけのダメージは与えたはずだ。


 ベッドの上で背伸びすると何かが指先に触れた。それを摘まみ上げると、小さなボタンだった。


 制服のポロシャツのボタンではない、白い小さなボタン。彼女のブラウスのボタンだ。


「やべぇ、そんなに力入れたつもりはなかったのに」


 彼女のブラウスを破いちまったのか?


 右手の上でコロコロとボタンを転がす。


 ベッドから起き上がり、窓を開け道路を見下ろす。雨上がりの歩道。車道のあちこちに水溜まりが出来ている。


 俺の携帯電話が音を鳴らす。

 ダチからのLINEだ。


 彼女の姿を目で追ったが、もうどこにもいなかった。

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