「てめえ、やんのかよっ!」


「アン?ふざけてんのか!そっちが先にぶつかったんだろ!」


 数人の不良が一人の男子を囲み、他人の迷惑も考えず声を荒げる。


 混雑しているのだから、体がぶつかるのは仕方がない。私なんか他人の傘がスカートにあたり濡れている。


 でも私を含め、同じ車両に居合わせた者はみんな見て見ぬ振り。


 不良の喧嘩に拘わりたくないのだ。

 小競り合いが、次第に大きな声になる。


「次の駅で降りろや!」


 不良グループの一人が、彼の胸ぐらを掴んだ。彼はふてぶてしい態度で言葉を吐き捨てた。


「くだらねぇ」


「なんだと!」


 次の駅で、その学生は数人に腕や体を掴まれ、電車から引きずり降ろされた。


 多勢に無勢。

 不良同士の喧嘩とはいえ、どう考えても理不尽だ。


 直接声を掛け、喧嘩を仲裁する勇気はないが、気付けば私も同じ駅で降りていた。


 ホームの片隅で、不良に囲まれ再び小競り合いが始まる。彼の姿は足しか見えない。


 通行人の波に隠れ、不良達の脚や腕が振り上げられる。


 私はホームにいた駅員に、助けを求めた。


 駅員は躊躇することなく彼らに近付く。異変に気付いた他の駅員も後に続いた。


 私は人混みに紛れ、そっとことの成り行きを見守る。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る