不良達は駅員に忠告され、蜘蛛の子を散らすように走って逃げた。


 彼らが走り去ったあとには、ホームにしゃがみ込み頬を赤く腫らし、唇から血を流している男子がいた。


 彼は素手で血を拭い、駅員と目も合わせず立ち上がる。


 茶髪にピアス。着崩した制服。緩めたネクタイにずり落ちそうなズボン。


 外見は暴力を振るっていた不良と何ら変わらない。


 彼はムスッと立ち上がり、白く汚れたズボンを大きな手のひらでパンパンと叩き、「大丈夫か?」と声を掛ける駅員に背を向けた。


「君、待ちなさい。暴行した相手はわかっているのか?怪我は大丈夫かと聞いているんだ」


「大丈夫に決まってんだろ。あんたらに邪魔されなければ、俺が全員ボコボコにしたのに、よけいなことをしやがって」


「君が集団暴行されていると、女性から助けを求められたからね」


「集団暴行?女?」


 彼は鋭い眼差しで周囲を見渡す。彼を遠巻きに見ていた私は、視線が重なり金縛りにあったみたいに、目を逸らすことが出来なかった。


 威圧感のある血走った目、口元に滲む血。まるで獣に狙われた小動物のように、一瞬足がすくむ。


 高校生なのに、ゾッとするほど怖い。


 たくさんの人が行き交うホームで、私と彼だけ時間が止まっているかのように思えた。

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