第29話


「二学年合同集団実力検査を行う!」


 ある日、授業をしている最中、大声でそんなことが言われた。

 それを言ったのは校長だった。

 授業中なのを構わず、いきなりの宣言だった。


 嵐のように去っていく校長。

 それを見て、ミーファ教官はごねるように呟いた。


「初代の校長がああいう叫ぶ代表みたいなのを定めたんだ。学校の象徴たる校長は目立たないといけない、なんてことを言って。悪ふざけで言ったのにその次の校長が真にうけて……」


 達観したような言い方だった。


「まあ、仕事だし、機能してるからいいのか。いいかお前たち! 二学年合同集団実力検査が行われる! 詳細は……うむ、一週間後にやるからパーティ間の連携を強固にしておくことだ!」


 自分の背中に張られた紙をはがし、ミーファ教官がそう言った。



 ◇



 あれからソラファとの戦闘訓練は続いている。

 反応と予測はうまくなった。だが差はいっこうに縮まる気がしない。


 とりあえず、ライルたちと打ち合わせをして、今に至る。

 連携の練習をたくさんした。


 鋼の名門であるライルは前衛。

 法の名門のディンは後衛だ。


 平民ペアの俺とラタリアは中衛。遊撃のような形となる。


 今日がその実力検査の日だ。これはなにやら番人様が企画したものらしく、今までの年代はあまりやらなかったことらしい。


 そういうわけで、集合場所に向かう。


「中年のおっさんの真似やります!」


 遠目から何かを言っているライルが、見えた。ディンも一緒だ。

 俺たちのパーティはここで集合と聞いたので、ライルとディンは先についたのだろう。


「腰がいたいのう」

「それってどちらかというと年寄りでは?」


 漫才でもやってるのだろうか。

 だがディンのほうはノリノリというわけでもない。あくまで平然と、間違いを指摘しているだけだ。そんな冷静なディンは、どこまでも彼らしかった。


「いいか。おっさんっていうのはもうすぐ年寄りを迎えることを意識しだす頃なんだ。だからこうやって予行演習をすることもあるんだ」

「適当なこと言ってるでしょう」

「いや、ただの正論だよ」

「詭弁ですね」

「うん」


 詭弁だった。


「なにバカなことやってんの」


 ラタリアが登場する。ちょうど彼女も来たということは俺が一番最後か。

 あと少しなので急ごうと歩を早める。


「ああ、カルマが始めたことなんだよ。今トイレに行ってるけど」


 なにやらライルが言っている。

 ディンは何も言わなかった。


 否定はしてくれないようだ。


「あーそう」


 当然のようにラタリアは言う。

 俺の手の動かないところでこんな風に世界は動くものらしい。


「おまたせー」


 輪の中に入っていく。


 ぬけぬけとライルは「遅かったなー」と言った。


 とりあえずすべてを聞かなかったことにして話を切り出す。


「さて……とれあえず今回は本気で勝ちに行こうか」


 今回の成績はかなり重要なものだ。


 ――成績上位者には、ソウルウェポンとの契約権が与えられる。

 誰だって本気にならざる得ないだろう。


 ……それに、今回はヘクトールがいる。

 この試験は第一次成長期の子供間での成績を競う。早い段階だと十七で第二次成長期を迎えている者もいるから、そいつははずされるらしい。


 幸か不幸か、ヘクトールはまだ第一次成長期だった。


 各々が俺の言葉に反応を見せる。

「もちろんだ」とライルが言った。

 ディンとラタリアも頷く。


「今回の試験はパーティ戦だが、最初の位置がバラバラでスタートだからな。集合場所を決めておく必要がある」


 お互いがお互いを探し、早く合流するのは重要な要素だ。それもパーティとしての力だろう。

 戦いの場は広大な森の中だ。下見は済んでいるし、準備は万全。

 今回の試験は丸一日を使って行う。超長期戦だ。場所も広いことだし、お互いを見つけるのは難しいだろう。


「今いるこの位置を集合場所にしよう。できる限り戦闘は避けて、合流してから集団的に優位を保つ」


 俺たちがするのは手堅い戦法だ。無理に奇をてらう必要はない。おそらく周りもそうしてくるはずなので、本格的になるのは合流してからになりそうだ。


「じゃあ、そろそろいくか」


 お互いに指定の位置に向かう。

 また会おう、と声をかけあう。


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