第20話 テンポカルマ
◇
「カルマ。よく兄さんのテンポにあわせられましたね」
「まあ、耐性があるからな」
変人類は番人様で慣れている。
「なあ、ひょっとしておまえ変人に好かれやすいんじゃないか? ディンとかと仲良くなってるし」
「そうですね。たしかにライルは変人だからそうかもしれませんね」
「さすがに、ディンには変人レベルは負けるかなー」
「明らかに僕よりもライルのほうがカルマと仲が良いということは、まあ、どっちが変人なのかはわかりやすい答えがでますね」
唐突なバトルが始まった。
いろいろ言いあったが結局、ライルとディンは俺にこう言った。
「どっちのほうが変だと思う?」
「客観的に答えてみてください」
飛び火だった。
正直な話、別にどっちが変とか、そういうのはないと思う。両方いい奴だ。
そういうわけで、俺は打開策を使った。
「俺が一番変人だと思う」
大真面目にそう言った。
二人はなるほど、とでもいうように頷く。
正直否定して欲しいところだった。
ラタリアもなんか頷いていたので共通認識らしい。
ちくしょう……!
「それで、これからどうするのよ?」
ラタリアの声。
たしかに、どうしようか。
「……諦めるしかないんじゃないか」
苦々しくライルがそう言った。
封魔一族はノリがいい。かっこよさとか不思議なものが好きだ。好奇心旺盛だ。
でも、いくら好奇心が旺盛だからって、ちょっと不思議な雰囲気がある歌姫に会ってみたいからって、決まりとかを破るわけでにはいかない。
それは封魔一族の『仲間を思いやる』という部分に関係していて、こういうもののおかげで基本的にこの里ではもめごとが起こらなかったりするのだ。
俺たちも所詮、封魔一族だ。やめなさい、と言われているのに無理に行くのは気が引ける。行けば必ず罪悪感を感じるだろう。
「……そうだな」
「……やめておきましょうか」
「まあ……やっぱりそうなるわよね」
本当は会いたかった。ひとこと感謝を伝えるだけでいい。あなたのおかげで救われましたって。
でも、それすら叶わない。誰が悪いというわけでもない。単純に運がなくて、めぐりあわせが悪かった。
「あのカルマ……残念だったな……」
申し訳なさそうにライルが言う。
ライルがそんな態度をとる必要なんかないのに。
「いいよいいよ。仕方ないじゃん。別に誰か悪いことをしたわけじゃないし」
「でもさ、からかうのはなしで、普通に会いたかっただろう?」
「まあ、会いたくなかったと言えば嘘になるけど」
「俺が勝手に盛り上げちゃって、たぶん、お前は期待したと思うんだ。だから……」
思わず俺は笑う。ライルは考えすぎだ。
いつしかのライルみたいに、俺は笑って答える。
「ばーか。気にしすぎだよ。そもそも、だ。俺はライルが俺のことを想って行動してくれたっていうのはわかってるんだ。結果的には俺は期待しちゃって気分が落ち込んじゃったかもしれない」
だけどさ、と俺は言う。
誰かが想ってくれるということ。
優しさ、気遣い、善意。
「俺はお前が俺のことを考えてくれたのが嬉しいよ。なんていうか、善意? を感じたっていうかさ。そういうのだけど俺は幸せな気分になれるんだよ。わからない?」
思わず、と言ったようにライルは苦笑した。
「少しだけな」
「だろ?」
こういう時に、強い友情を感じる。
とても幸福な時間だ。
……少し、泣きそうになる。こういう平凡な時間を自覚すると。これが欲しかったんだよなって思うと。
まあ、そんな感情、おくびにも出すわけにはいかないが。
「まあ、切り替えていきましょうか」
そんな風にディンが手を叩いた。
……なにかを忘れているような気がする。
必死に思い出そうとした。というよりも、すぐそこにあるのだ。まるでかゆいところに手が届かないような感覚。
「……あ」
「どうした?」
――ジャスミンだ。ジャスミンは今代の歌姫じゃないか!
なんでこんなことを忘れていたんだろう。まあ、あんまり会う機会がないし、旅ばかりしてるからっていう理由はあるかもしれないけど……。
ふと悩む。
ジャスミンとのつながりを話してもいいものだろうか? たふん、このことを話すと番人様との師弟関係のことも話さないといけなくなる。
隠し事をしているみたいでいやだが、言ってはならないことだ。言うならまずは番人様に聞かないといけない。
「ああ、ええっと、あとで話すかも」
とれあえず「なんでもない」と言おうとしたが、なんだか嘘を言うみたいなるのが嫌で、あいまいなことを言った。
ライルは「ん、また話せたら教えてくれ」と言ってくれた。
ほんとにこいつはいいやつだなあ。
ラタリアがぽんぽん、と俺の肩を叩く。
「まあ……ええっと、ドンマイ」
「うん、ありがとな」
普段全然話してくれないラタリアだが、勇気を出して話しかけてくれたのかもしれない。
今は残念な気分だが、いいこともあった。そういう日だ。
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