第4話 友達になりたい



 ベイルとヘクトールと別れた俺は、自分の寮の前に来ていた。門をくぐれば、すぐに自分の部屋。

 寮の部屋の前にはその部屋の主がわかるようにと名前がかけられていた。


 カルマ・ラジック

 ディン・クシャル


 それを見て、思わず顔がひきつる。

 名門、と呼ばれるものが三つある。星の名門、鋼の名門、法の名門。


 クシャルは法の名門だ。あまり、仲良くできる自信がない。ベイルはすこし偉そうなやつだった。ヘクトールは違ったかもしれない。

 そもそも、特権階級にいるやつが俺をどうみるのだろうか? 忌み子に、なんと声をかけてくれる?


 悩んでも仕方ない。

 扉に手をかけ、部屋に入る。


 部屋は結構きれいだ。きちんと掃除されている。

 ベットに横たわる人物がいた。きっとディン・クシャルだろう。


「こんにちは」と声を掛ける。ディンと思われる人物は鋭い目つきで俺を見た。


「……はい」

「俺、カルマっていうんだ。そっちの名前は?」

「部屋の前に書かれてあるようにディンです。そのまま呼んでください」


 好感触かもしれない。


「僕は最初に言っておきますが」

「……ああ!」

「あまりなれなれしく接してこないようにお願いします」

「……え?」


 動揺が広がる。他人に拒否される感覚。


「あなたは忌み子です。僕としてはあまり関わりたくはない。しかし、ルームメイトとして関わらないといけない時もあります。その時は最低限の接触でとお願いしたいのです」

「…………そうか、わかった」

「すみませんね。あなたに対して嫌いだとか、そういう感情はありませんよ。でも、あなたの存在は……そういうものです」


 それは慰めなのか、なんなのか。

 ……いや、諦めるにはまだ早い。


「じゃあ、掃除当番を決めよう!」

「一週間の最初の四日を僕が、三日をあなたがお願いします」


 一瞬で会話がまとめられた。


「いや、それだと一日分ディンが損してるじゃないか」

「損もなにも、僕はあなたに頼みごとをしたじゃないですか。それを聞き届けられたのだから、それはすなわち借りです。僕はここで、それを返さなくてはなりません」

「えーと、その……そうだな」


 なにも言えない。


「では、よろしくお願いします」

「……ああ」


 ……ディンは、一度も俺の名前を呼ぶことはなかった。

 友達が増える兆しは、なかなか見えない。



 ◇




 俺たち生徒は武器庫に来ていた。今日はここで封魔一族の能力についてを聞かされる。そのあと、自分の武器を選ぶ時間だ。


「えーたぶん君たちも少しは知っていると思うが、封魔一族には四つの種族固有の能力がある」


 女教官がそういった。結構若い。俺たち封魔一族は十八から成人で、寿命は三百年ほどもある。星に連なる力で寿命が長くなっている、なんていわれているらしい。

 この女教官の年齢は三十いっていないようだ。老いが見え始めるのは二百年からなので、この教官の見た目は非常に若い。


「まず、私たちは魔法が使えない代わりに魔法が効きにくい。

 次に認識を阻害して、敵に気づかれないようにできる。

 次に星装気でもともと高い身体能力をさらに強化できる。

 次に鎖を生成でき、それを操って敵を縛りあげることができる。我々は人間に近いが、まったく別の種族だ」


 バサッとマントをはためかせ、女教官はそういった。実にさまになっている。


 いつか俺たちにもマントが生える。封魔一族は成人になると体からマントが生えるのだ。そこは封魔一族の特徴である魔法耐性が最も高い場所でもある。


 周りは興奮で包まれていた。鎖を出せるやつがちらほら自慢している。種族固有の能力に関しては、この十六という年から発現するものなので、ちょうどこの時期に学園に集められるのだ。ちょっと早く発現した奴は親から少しは教えてもらっていたのだろう。


 ……実は俺はほとんどの能力が発現しているので、少し仲間とかに自慢したかった。


 友達がいないからできないけど。


『そんな卑屈な考えじゃ友達出来ないよ』と頭の中の妄想友人ソラちゃんが言った。


 うるせぇ! と心の中で叫ぶ。

 ソラちゃんはどこかに飛んで行った。


「よし、つまらん話は終わりだ! 武器を選んでいいぞ!」


 よく通る声で女教官が言った。

 その瞬間、生徒の目が光る。

 勢いよくスタートを切り、気に入りそうな武器がないか探し始める。

 運動会みたいなスタートだ。


「なあ、これ見てみろよ」とある生徒が言う。

「なんだ?」


 生徒が大鎌を見せた。封魔一族はなぜだか知らないが、鎌を好むものが多い。というよりも九割の封魔一族は鎌を好む。なぜかは俺も知らないが。


「この鎌のライン……よくない?」

「確かにそうだが……俺の選んだやつを見てくれよ。先端部分のとがり方がクールすぎる……!」


 どれも同じだぞ、と言ってやりたかった。


 俺もだいたいの封魔と同じく鎌を選ぶ。練習用とは言え本物の刃だ。俺は業物っぽいものを手にとった。ラインから先端にかけての造形が完璧だ。


 ああ、カッコよすぎる……。


 その他の周りを見てみると槍を選んでいる者もいた。

 鎌以外の得物を扱うのは鋼の名門、と決まっているのだか、おどおどしているところを見ると違うらしい。一割は鎌以外を好むやつもいるということだ。こういうやつは大抵、鋼の名門が開いている道場に通うことになる。


「よし、みんな選んだな?」と女教官が言った。


 だいたい完了したようだ。


「では、各自、ペアを作れ!」


 ……え?

 …………え?


 周りで続々とペアができ始める。突然のことに俺はキョドった。完全な不意打ちだった。

 結果はあまりにもわかりきったことだ。


 俺は……あぶれた……! ひとりになった……!


 頭の中の友人、ソラちゃんの気配を感じる。俺は頭を振ってなにも考えないようにした。

 俺は武器庫に取り残された。女教官と二人きりだった。


「あーその、なんだ」


 ごほんごほんと、女教官が咳払い。


「気を落とすな。私が一緒にやってやるから」


 あまりの優しさに泣きそうになった。



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