第7話 遭遇
月の裏側にある王国から、遠く離れた宇宙空間。
宇宙船内部ではテロが起きていた。
昔流行し、今では所持することさえ禁止されているバイオ兵器を何者かが船内で解き放ったのだ。
長い航海の中で、それは船員たちの体を密かに乗っ取り数を増やし続け、ある一定数を超えた段階で事態は表面化した。
その生物兵器を駆除する方法も長い年月の中忘れ去られ、この船内にその道具が配備されてはいない。
仲間を殺すことをためらい、鍵のかかる部屋に拘束しておいたのも結果的に悪手であった。一時的に事態を収束させていたのに、残っていた少数の寄生体が鍵を開けてしまい、状況は最悪の方向へと向かっていった。
「姫さま、あなただけでもお逃げください!」
無事な者は目の前にいる者たちだけ。もはや勝敗は決している。
「いいえ、逃げるのであれば、あなたたちも一緒に!」
「脱出艇の定員は限られています。それに我々が囮になれば、それだけ姫さまが生き残る確率も上がります。精一杯暴れて見せましょう!」
姫と呼ばれた彼女は、騎士たちに強引に脱出艇へと押し込まれる。泣き叫ぶ彼女の目には、突入してきた寄生体の集団とそれにあらがう騎士たちの最後の姿が見えた。
……………………。
「胡散臭い」
「えっ」
「あんた姫様なの?」
「いや、私は科学者だが」
星野鉄也はパソコンと会話していた。正しくはパソコンを使って話すあの見えない謎の物体の中身と。
鉄也は、不自然な状況をあっさり受け入れている自分に対して一番疑問を感じていた。
「この部屋に運び込まれて、この星の原始的なネットワークから情報を集めた。言語だけではなく、科学レベルや政治、文化の情報も得た。
ちょうど似たような状況のこの星の創作物があったので、それを参考にして私の置かれた現状をわかりやすく伝えようとしたのだ」
パソコンの画面にアニメの画像が表示された。
「つまり、あんたは宇宙人の科学者で、テロリストの放った寄生生物から逃れて、透明な脱出艇で地球に不時着したところを、俺が拾ってきた。
そんな理解でいいかな?」
「そうだ」
「で、その宇宙人がなんで俺の問題解決の手助けをしてくれるの?
恩返し?」
鶴や亀などの登場する恩返しをする昔話がパソコンの画面に表示された。
「たしかに、情報もなく、孤立無援で、無防備に風雨にさらされた状態から助けてもらった恩は感じているが、それだけではない。
私は自分の星に帰りたいのだ。力を貸してほしい。代わりに協力させてもらおう」
こうして、残念なことに鉄也の問題がまた一つ増えたのだった。
それから、武士と騎士の二人組がやってきて、そのアリバイ工作に宇宙人が協力した結果、今に至る。
「その脱出艇から出てきて、自分で何とかすればいいじゃん。
科学者なら改造とかできるんだろ?」
「その提案はもっともなのだが、それはできない」
「なんで?」
「実は、この脱出艇の中で私は冷凍睡眠状態にある。
宇宙での救命活動には時間がかかる。救命艇が回収されるまでにこの星の時間の単位で数か月かかることもある。
その間、生命活動に必要な様々なものが維持できるだけの量を確保するのは難しい。
なので、体は冷凍睡眠状態で意識の一部だけを覚醒状態にして救助されるのをただひたすら待つ。
解凍するに必要な機器はこの星に存在しない」
パソコンの画面には電子レンジが表示されていた。
「じゃあ、おとなしく待てばいいのに」
「通常の事故に巻き込まれたのであればそれでもかまわないのだが、私の場合そうもいかない」
パソコンの画面に猫が表示される。
「どうやら寄生生命体の一部がこの星まで追跡してきてしまったみたいだ。
私は一刻も早くこの星を離れた方がいい」
「ロケットが必要ならNASAとかに相談した方がいいよ」
「絶対に嫌だ!」
パソコンの画面にロズウェルの宇宙人や解剖され標本にされる宇宙人などのデータがずらりと並んだ。
「無理!!」
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