第5話 侍騎士復讐

「アリバイ作りに協力しろ」


「犯罪には協力いたしません。おやすみなさい!」


五日が過ぎても、クラスメートだからと言っても別の班の生徒とはまだあまり話したことがない。

鉄也は購買でサンドウィッチと野菜ジュースを買って、教室で弁当男子と昼食を済ませていたから、昼休みになり次第学食へと走って行った二人組の男子生徒のことをあまり知らない。


それなのに、夜の八時を過ぎたころに学生寮の鉄也の部屋にその二人がやってきた。


鉄也が扉を閉めようとする前に、二人がかりで強引に玄関の中へと押し入られてしまった。

前世は侍だという線の細い感じの少年の桜十郎と、前世は騎士だったという真面目な感じの少年の但馬広司。

彼らは一方的に犯罪計画を打ち明けてきた。


「闇討ちをする!」


「正義は我らにあり」


「やめろ、話すな、これ以上俺を巻き込むな!」


桜十郎も、但馬広司も小学生の頃それぞれ違う学校でいじめられていた。世界名作劇場でもやらないぐらい陰湿に、暴力的に。物は壊され、金は奪われ、教師に相談するも相手にされず、むしろ隠蔽された。親にも打ち明けられずにただ耐える日々。


「前世の経験を手に入れて、戦う力を得たものの、そのまま復讐をしに行ったのでは後々面倒なことになりかねない」


「だからお互いの復讐相手を、交換して復讐することにしたのだ」


「もしばれそうになっても、貴様がアリバイを証明してくれれば安全だ」


「今から十時まで、三人で勉強していたと証言しろ」


「さもないと、俺たちが捕まった時お前が主犯だったと証言してやる」




「最低だ!」

と、鉄也が言い返すとろくに反論もさせずに二人はパッと出ていってしまった。計画を止めようにも相手は二人で、箒を持って走っていくのが遠くに見えた。あれを凶器に闇討ちするつもりらしい。それに、一応は顔を隠すぐらいの知能は残せていたようだが、目の部分に穴をあけただけのコンビニの袋ではかえって不審者感が増していた。


「発想が戦国時代で止まってる。監視カメラはどうするんだよ」

学生寮の前には防犯のために監視カメラが設置されている。二人はその前を通り過ぎて行ったのだから、ばっちり撮影されているはずだ。


「俺の証言は意味ないじゃないか」

鉄也はそういうと、二人の無事をお祈りしつつバタンと扉を閉めた。




翌日。

鉄也は桜と但馬の二人から作戦成功の自慢話を聞いた。


「夜遊びしていた不届きな中学生どもに天誅を下してやった!」


「それぞれのいじめっ子どもを、フルボッコにしてゴミ箱に捨ててきたぞ」


友情のハイタッチを求めてきた二人を、鉄也はあきれた目で見ていた。

その同時刻に襲われたいじめっ子たちの共通点や、監視カメラの映像で簡単に足が付くはずだ。


「もしも警察の厄介になったら停学かな? 退学かな?」

無理矢理ハイタッチさせられた鉄也が冷めた目でそう尋ねると、


「馬鹿だな。義務教育だからないだろ」


「そもそも捕まることなどありえん。アリバイ工作も完璧なのだ!」


(警察は結構優秀だから、捕まるなら昼ぐらいかな?)

と、鉄也は考えていたけれど放課後になっても何もなかった。


「後ろめたいことのあるいじめ加害者が、警察に訴えなかったのか?」


星野鉄也が部屋に帰ってきて、通学用のバッグを棚に置いた時だった。


「違う。警察にはその記録がある。私が監視カメラの映像に細工したため、彼らは容疑者から外れた」


学校から支給されたパソコンのスピーカーから声が聞こえてきた。






話は猫を引き取ったあの日の夜にさかのぼる。

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