第21話:メーカー参入編

 7月25日、ランカー事変の一件がネット上で拡散し始め、超有名アイドルファンの締め出しという暴挙を行おうとしている勢力もいる頃――。

【今回の一件で一般人がARゲームにどのような印象を抱いているのかが分かった】

【結局、彼らはテレビゲームが出始めた頃の反応と同じだ。新しいジャンルが出て、古いジャンルが叩かれるのでは――と】

【そうした誤認識は、新ジャンルが出る度に繰り返された。中には流行し出す前に炎上させ、完全撤退させようとする動きもあったが】

【自分が気に入らないという理由だけで特定ジャンルを叩く――結局はランカー事変も同じような事になったか】

【しかし、あちらの場合は事情が違う。あまりにも人口が増えすぎた夢小説勢、アイドルの不祥事等で大きく変動するアイドル投資家、そうした勢力が暴走したのも理由の一つだ】

【特定ジャンルを打倒する事、それが正しいとは到底思えない。過去の超有名アイドル商法を巡る戦いで反省したのではないのか?】

【結局、そのコンテンツファンが新ジャンルの盛り上がりに対して負の感情を抱き、それが流血を伴う戦争へと発展させる】

【超有名アイドルファンが大量破壊兵器を持ちだすような極論も出るかもしれない】

【ソレは言いすぎだ。そんな事をすれば、アイドルファンに対する風当たりが悪くなる】

【しかし、特定アイドルの夢小説を書く勢力は――ありとあらゆる手段を使って、一部コンテンツ勢を潰そうとしている】

【それがフラッシュモブの一件だと言うのか】

 つぶやきサイトは相変わらずだが、一部の発言に関しては削除されていて、上手くレスとして機能していないコメントも存在する。



 7月26日、何時もの白衣ではなく普段着の大和杏は、草加市内のアンテナショップへ足を運んでいた。

「カスタムとかワンオフのガジェットは、メンテナンスが面倒と言うか」

 大和の持つガジェット『アガートラーム』はワンオフというカテゴリーに該当する。基本的にワンオフはパーツも特注品である事が多い。

それに加え、新ガジェットの取り扱いを近日中に開始するという話もある。すぐに旧式のパーツ生産が終わる訳ではないのだが――。

「確かに、ワンオフガジェットの取り扱いは面倒ね」

 大和の隣に姿を見せたのは、こちらも私服姿の大淀はるかだった。彼女の場合、ランカー事変は自分の起こした事件ではない為、特に行動制限がかかっている訳ではない。

「あなたは大淀ね。あの時の発言は、覚えているけど」

 大和の言う発言とは、つぶやきサイトの一件ではなく……。



 7月25日午後1時、コンビニでドーナツを購入後に大和は大淀に遭遇した。

彼女は別のARガジェットを装備しており、そのジャンルは意外な事にTPSである。

「そのガジェットは――」

 大和が見た事もない大淀のガジェットを見て驚いた。それはワンオフガジェットにも近いのだが、残念ながら市販品のカスタマイズ品だ。

「あなたは確か、アガートラームの使い手ね」

 大淀が大和にすれ違う事は何度もあったのだが、おそらくは今回が初のリアル遭遇になる。

「だったら、私を狩るつもりなの?」

「あなたをARゲーム以外で倒しても、おそらくは意味をなさない」

「ARゲームで? 一体、どういう事なの?」

「そのままの意味よ。ARゲーム以外で騒動を起こせば、ARガジェットを没収されかねない」

「山口の一件もあってか、リアル襲撃はライセンスはく奪だけではなく、下手をすれば警察に逮捕される」

「おかげで、痴漢とかひったくり等も草加市内では大幅に減少し、覚せい剤等の裏取引も減った」

 大和は何気ない会話の中で、大淀がさらりと信じがたい事を言ったような気がした。

「だから、足立区内の方でそうした犯罪が増え始め、更にARゲームを応用したシステムで特殊警察を組むようになった――と」

 そして、大和はある話題を振る。これには大淀は反応をせず、周囲を見回す程度のしぐさをしているが。

「結局はアカシックレコードのWeb小説と同じような展開をたどり、見えないギャラリーの反応におびえる。それが、現状の……」

 大和が何かの続きを発言しようとした所で、アガートラームが何かに反応する。どうやら、特定のマッチングが発生した為にアラームが鳴ったのだろう。

「最近のWeb小説は、ARゲームのプレイヤーを題材にした夢小説を見かけるようになった。それは草加市内から投稿されていないのは確認している」

「それって、俗に言うナマモノ――」

「それ以上は言及しない方がいい。実況者や歌い手等を題材にしたWeb小説も草加市内では規制される。即売会なんて開いたら、それこそ何処かの小説作品みたいに――」

「言わなくても分かっている。ARガジェットは一次創作特化で、二次創作に関してはガイドラインに沿わない物に関しては徹底的にはじく。アキバガーディアンが懸念を抱くのも無理はない」

 2人は何かをアカシックレコードから感じ取っていた。それが何かは、当人でしか分からないだろう。



 7月26日午前10時、ARガジェット業界に新たなメーカーが参入した。

それは、磯風エンターテイメントである。

【磯風と言えば、音楽ゲームで有名な所か】

【遂にARゲームにも参入か?】

【どちらにしても、大手アイドルで有名な会社が来ると思っていただけに、別の意味でも驚きだ】

 つぶやきサイトでは、磯風エンターテイメントの知名度が高い訳ではないようだ。

音楽ゲームで有名らしいのだが、それ以外の分野ではあまり目立った気配はない。

ここ最近はソーシャルゲームへの方針転換もあるのだが、新規ユーザー開拓の為にARゲームへ進出した。

ゲームメーカーでもARゲームのノウハウがないという手探り状態の当時と違い、今はある程度のARゲームが稼働中である。

そこから磯風がリリースしようと考えていたのは、意外な事に音楽ゲームだった。

「音楽ゲーム自体が激戦区と言う訳ではないが、これは見物か」

 今回の記者発表会見の場に姿を見せたのは、何と南雲蒼龍だった。彼の姿を見ても、マスコミが騒ぎたてないのには別の理由がある。

彼が記者会見を見ていた場所、それが会見が行われている足立区内のアンテナショップではなく、中継映像を流していた草加市内のアンテナショップだったからだ。

これでは目撃情報があっても、発見できないというわけだ。

『我々の開発する音楽ゲームは、過去の作品のノウハウを生かし、それとARゲームを融合させた――』

 男性スタッフの一人が説明を行うと、その途中でスタッフ数名が台車に乗せたコンテナを運び出した。

そして、スタッフの合図とともにコンテナがロックが解除され、その封印を破って姿を見せたのは、予想外の物だったのである。



【まさかのパワードスーツ?】

【ARガジェットがどのような形状でも、玩具扱いになるという話は聞いた事があるが】

【ARゲーム自体、ガジェットがゲーム機のコントローラと同じ役割を持ち、メンテの複雑さを緩和させていると聞く】

【あのパワードスーツで音楽ゲームをどのようにプレイするのか】

 パワードスーツと言っても、重装甲タイプではなく、インナースーツにARギアを装着させているタイプ……偶然にもミュージックオブスパーダと同じだった。

『我々がリリースする音楽ゲーム……それは今期にリリースできる状況ではありません。しかし、このようなケースで別の音楽ゲームへ技術提供する事は可能です』

 スタッフは明らかに誰かを指名してコラボの提案をしているようでもあった。

『今回のコラボに関しては、こちらが先に発表と言う形になり、向こうへは事後承諾みたいな形になりましたが……ミュージックオブスパーダと技術面で協力を出来ればと思います』

 説明をしているスタッフの隣にいる人物――何処かで見覚えがありそうな顔をしているのだが、中継映像を見ていた山口飛龍も思い出せない。

『自己紹介が遅れました。私は今回のシステムを提案した、木曾あやねと言います』

 男性スタッフの隣にいた人物、それは意外な事に木曾あやねだった。何故、彼女が新作ゲームの発表会にいたのか。

「そこから考えられる結論は一つしかない」

 別のアンテナショップでは大和杏も中継を見ていたのだが、木曾の出現は一部のランカーに衝撃を与えたのである。

《木曾あやね、プロゲーマー契約を結ぶ》

 大和の見ていたタブレット端末の記事、そこには木曾がプロゲーマー契約を結んだ事を報じていた。

それに加えて、契約をしたゲームメーカーが磯風エンターテイメントである事も同時に発表されている。これが意味する物とは……。



 7月26日午前10時、ARガジェット業界に磯風エンターテイメントが参入と言うニュースが盛り上がる中、もう一つのニュースも話題になっていた。

きっかけは数日前にアップされた動画だが、アップ当時は再生数が凄い程度の動画と言う扱いだったが、磯風エンターテイメント参入のニュースが報じられた事で上昇した気配だ。

【あのアーマーは、もしかして?】

【記者会見は、まだ始まっていないはず。サプライズとはいえ、数日前とはおかしくないか】

【確かにそうだな。雑誌の発売日前にフライング情報をアップするような行為と、今回の件は別物だろう】

【何処のメーカーから、あのアーマーが……】

【もしかすると、リサイクル素材のアーマーかもしれない】

 つぶやきサイトや動画コメントでも話題になっていた乱入者のアーマー、その形状はさまざまなアーマーを繋ぎ合せたような物である。

【あのようなパッチワークを思わせるアーマーにした理由、何かあるのか?】

【FPSやTPS、ロボアクションの様な物ならば性能のよい装備をそろえた結果、違うメーカーだらけというケースはある】

【しかし、その法則がミュージックオブスパーダに該当するのか……】

 この乱入者に関しては、登録ネームが予想外の物であり、周囲を驚かせる事になるのだが――。



 同日午前11時、草加市内のゲーセンで一連の動画をセンターモニターで視聴していたのは南雲蒼龍。

「やはり、あのガジェットは――」

 記者会見の方は途中退席し、現在はゲーセンの方で様々な機種を様子見しているというのが現状だ。

「しかし、全ての組み合わせを別々のメーカーにする事は推奨されていないはず」

 南雲もARガジェットのカスタマイズで他社メーカーで未統一という物を見た事があるのだが、ミュージックオブスパーダでは推奨されていない。

その理由として、一部のカスタマイズが流行してメタ化する事を懸念しているから……というのは表向きであり、別の理由で非推奨としている話があった。

その理由とは、外部ツールが混在しても特定が困難と言う事らしい。実際、そうした理由でARガジェットのメーカー統一を呼びかけているARゲームは存在する。

「対策を打ち出したとしても、結局は脆弱性の穴を突くような展開は避けられないだろう。現状は様子を見るしかないのか」

 結局はもぐら叩きのようにエンドレス化する事を懸念し、細かい微調整のみで大きなアップデート等を行えないのが現実かもしれない。

ARゲームの場合、ジャンルによってはフィールドに高層ビルや廃工場等を利用するケースも存在し、生命の安全を重点に置いた結果、チート行為や外部ツール等の対策が後手に回っている。

ARガジェットの転売対策でさえ、大手テーマパークで起こった転売騒動を受け、それと似たようなテンプレートを採用し、調整を行ったのが現在の転売対策のベースとなっていた。

「他人が作り出した物で、あたかも自分が作ったと思わせ、それを流通させる――こうした二次創作が展開され続ける限り、一億総一次創作作家育成計画の様な存在が現れる」

 そう思いつつ、南雲はゲーセンを出て近場のファストフード店へ足を運ぶ。

「最終的には、一次創作から一次創作を生み出すような傾向がメジャー化するのか。では、アカシックレコードは何のために?」

 南雲の疑問は振り出しに戻った。アカシックレコード誕生の経緯、それをアガートラームを含めたデータをミュージックオブスパーダへ転用した時に考えたのだが……。

「あれは一体――」

 ファストフード店へ向かおうと草加駅へ足を運ぶ途中、別のARゲームで使われているフィールドの展開を確認した。ジャンルとしては対戦格闘だろうか?



 南雲が注目したフィールド、そこでは上半身裸の見た目にもかませ犬な男性が軽装備の女性と戦っている。しかし、女性の方に見覚えがあるのだが……。

「あのパッチワークが釣れると思ったら、まさか――レベルに大差あるかませ犬と戦わないといけないとは」

 軽装備の女性、それは右腕に見覚えのないような大型の籠手を装備している。形状としては、アガートラームに近いのだが、若干のアレンジがされている。

「それに――ARゲームマナーさえも守れないプレイヤーが乱入してくるとはね。上半身裸でプレイするなんて、思わぬ怪我でもしたらどうするつもりなの?」

 上半身裸の男性に対し、彼女は今までのストレスを爆発させるかのように説教をしている。口調としては丁寧だが、所々にとげがあるように見える。

ちなみに、マナー講座と化している光景は南雲が遭遇する前から起こっており、他にも同様の乱入者に対して個別に行っていたらしい。

「外部ツールやチート行為は言語道断だけど、あなたの恰好はオートバイでノーヘル運転をするのと同じ行為――」

 ラウンドコールが流れたと同時に、彼女は大型の籠手を変形、その形状は南雲が良く知るアガートラームへと変化した。

どうやら、形状を偽装したのは周囲に存在を知られたくない為だったらしい。

「ARゲームでARアーマーを装備しないとどうなるか、その身で知るといいわ!」

 ある意味でもワンパンチ決着。かませ犬の男性は気絶をしているが、下半身や肩アーマーに装着していたガジェットの生命維持装置が発動した為、大怪我は回避された。



 その後も様々な人物が乱入を行い、彼女にワンパンチで撃破されていった。その数は10人を越える。

「いい加減、かませ犬と戦うのも飽きてきたし――」

 彼女がログアウトを仕様とした矢先、目当てのパッチワークが乱入してきたのである。その装備は複数社のガジェットをフルアーマーの様に装備しているのだが――。

『アガートラーム――大和杏か』

 乱入してきた人物は、対戦相手が大和杏であると分かっていたようだ。それを踏まえて、様子見をしていたのだろうか。

そして、ラウンドコール後にパッチワークの人物はクロスボウを構える。放たれたのは、何とビームだった。ホーミング性はないのだが、破壊力はガードした際のゲージの減り方で分かる。

「こっちの名前を知っていて、そっちは名乗りなし?」

『名乗った所で、お前には意味をなさない名前だ』

「意味がない? メタ的な視点で言うと別作品の登場人物とか?」

『間違ってはいないが、それでは不適切だな』

「それじゃあ、あえてハンドルネームを名乗るとか」

『そちらを名乗っても尚更意味はない。しかし、こちらのネーム以外でならば名乗れるが――』

 クロスボウ以外にもパッチワークは大型のビームサーベルやレーザーダガー等を大和に対して投げるのだが、それらは全て回避される。

これらの武装は全てメーカーが違う物だが、このARゲームでは特に持ち込み制限が入らない。

パッチワークが乱入タイミングを待っていた――と言うよりは、ガジェットチェックに手間取った可能性もあるだろうか。

『私の名はオーディン――アカシックレコードに魅せられた……』

 オーディンと名乗った人物が何かを言い終わる前に、大和はアガートラームの一撃を左肩に集中させ、やはり他のかませ犬と同様に吹き飛ばした。

残念ながら、他のかませ犬とは違って気絶はしなかった。何とか耐えきったかと思われたのだが、その結果は――。

「ARガジェットは強くても、所詮は他社メーカーの相性を考えない数値だけの最強を求めたカスタマイズ。それでは、アガートラームに勝とうという事次第が夢物語ね」

 体力ゲージの方は一発でゼロになっており、大和の勝利という判定になっていた。

『お前達は、まだ知らない。超有名アイドルがアカシックレコードを独占する事。それは悲劇の幕開けだと』

 オーディンは逃げ文句かのような一言を残して姿を消した。一体、何が言いたいのか。

「超有名アイドルも特区の方で規制するようになったし、所詮はつぶやきサイトのデマを鵜呑みした程度の話ね」

 大和の方は、今度こそログアウトしてその場を離脱する。しかし、その際に南雲と鉢合わせになった。

南雲の方は引きとめる気もなかったのだが、オーディンの捨て台詞を聞いて気になる事があったらしい。



 同日午前12時30分、行く予定だったファストフード店で2人は話をする事になった。情報交換とも言う。

「――記者会見の方は見ていないけど、磯風ってあの有名ゲームメーカーでしょ?」

 フライドポテトをつまみつつ、大和は話を聞くのだが――真剣な表情には見えない。その理由は、かませ犬プレイヤーの影響かもしれないが。

「ほかにも数社が奏歌市に計画書を提出したという話だ。先ほど、役所の方で告知があった物だ」

 ホットコーヒーを片手に、南雲は市役所で配布されたペーパーを大和に見せる。ペーパーと言っても、紙ではなく電子書籍だが。

「キサラギ――? これって、アカシックレコードで何度か出ている、あのキサラギなの?」

 大和の方が話に噛みついた。今度は真剣に聞いてくれそうである。それを踏まえ、南雲はタグレット端末を引き上げる。

「条件は? アカシックレコードの真相に関しては、ネットのまとめサイト程度の情報しか流れていないから、聞くだけ無駄――」

「聞きたいのは、そちらではない。水面下でバージョン3が動いているという噂のある、あのゲームについてだ」

「バージョン3? 一体、何のバージョン3なの? 音楽ゲーム、シューティング、FPS、対戦格闘? それとも……」

 何のバージョン3なのか大和の方も把握していないジャンルがある。その為、南雲に絞り込みをさせようと探りを入れるのだが、そこで飛び出した単語は予想外の物だった。

「パルクール、それも一部の提督勢がこちらにも進出している、あのパルクールだ」

 南雲の出した単語を聞き、大和の方は『まさか?』という表情を浮かべる。



 7月26日午後1時、ファストフード店から出て別のゲーセンへ向かうのは大和杏だった。

「あのARパルクールの提督が――」

 大和が気にしていたのは、南雲蒼龍から聞かされた話である。



 数分前、南雲は大和に聞きたい事があった。それは……。

「パルクール、それも一部の提督勢がこちらにも進出している、あのパルクールだ」

 ARパルクールはパルクールをベースに、安全対策やゲーム要素をプラスしたスポーツ初心者向けのARアクションゲーム。

このゲームでは、通常のARガジェットとは別のロボットに近い形状をしたガジェットアーマーでプレイするのだが、ガジェットが高値と言う事もあってプレイ人口は少ない。

しかし、それでも動画サイト内では違法コンテンツとして削除されるジャンルを除外すると、ARパルクールの動画数はベスト50に入るレベルだ。

「もしかして、提督勢とコンタクトを取りたいの? あちらとはパイプは持っていないから、コンタクトをとる事は不可能よ」

 大和は速攻で回答し、別の話題に変えようとした。南雲の方も深くは言及しないだろう……と大和は考えていたが、その当ては外れる。

「提督勢とコンタクトを取りたい訳ではない。提督勢にある名前の人物がいるか……と言うのを聞きたかったのだが」

 南雲の言う人物の名は西雲。大和の方も聞き覚えがないという事で流したのだが、それでも南雲があっさりと諦める気配はない。

大和は、南雲の言った事に対して色々と疑問を持っていた。提督勢の話もそうだが、それ以上に手渡された資料である。

「キサラギ以外にも聞き覚えのある企業名があるのは、気のせいと受け取るべきか――」

 そして、周囲を見回した大和は再びパッチワークのARガジェット使いと遭遇した。



 ARフィールドが展開し、ジャンルとしては2対2の対戦シューティングだろうか。実際は1対1のソロ対決だった。

『貴様たちは超有名アイドル勢力と同様に、コンテンツを無駄に消耗している。だからこそ、海外勢が規制をしようとするのだ!』

 オーディンだかオーディーンとは異なるパッチワークだが、カラーリングを除くとほぼ同じである。ヘッドパーツや一部武装には違いがあるが、それ以外の区別出来る要素は見当たらない。

今の流行りはパッチワークガジェットなのだろうか?

「ARゲームに個人の怨念を持ち込むな! それこそ、連中の計画だと分からないのか!」

 蒼いクリスタルを思わせるアーマー、デザインは北欧神話ベース、ロングソードを含めた無数のソードをマウントした各種オプション――。

パッチワークを相手にしていた人物は、どこか見覚えのあるような装備をしていた。しかも、アカシックレコードのデジャブであり……。

『アキバガーディアンでは全てを解決する事は不可能だ! だからこそ、国会で超有名アイドル以外の違法コンテンツを根こそぎ排除する。それこそが正義であり――』

 パッチワークが何かを語ろうとしたのと同時に乱入を示す警告音が鳴り響く。その後に姿を見せたのは、見覚えのある重装甲のARガジェットだった。

『鉄血のビスマルク――だと!?』

 パッチワークの人物が驚く。もう一方のプレイヤーは無関心と言える。それとは別にダミープレイヤーが配置された。これで2対2というマッチングにしたという事か。



 組み合わせは蒼いクリスタルの人物とビスマルク、パッチワークとダミープレイヤーである。

ダミープレイヤーはパッチワークのレベル合わせで70と表示された。マックスレベルは100なので、相当の実力者とも言える。

「残念だけど、今の私は手加減出来ないわ!」

 ビスマルクの方は本気である。それも、相手を睨みつける目が真剣そのものだ。

その目を見た蒼いクリスタルの人物は、あえてビスマルクと組むことはせずに単独行動でダミープレイヤーを相手する事になる。

『コンテンツは投資に絶好な物を残しておけばいい。超有名アイドルの大手芸能事務所は、残すに――』

 パッチワークが何かを言う前にビスマルクの大型レールガンで一撃終了となった。どうやら、パッチワークに外部ツールを使用した疑いがあるようだ。

「ランキング会社を買収し、自分達のアイドルだけを1位にするという幼稚な工作を行い、それに喜ぶファンが大量に貯金を消費する――という筋書きがコンテンツを正常に運用しているとは思えない」

 ビスマルクが放った弾丸は、アガートラームをヒントにして開発された反外部ツール弾頭と言える物だった。外部ツールを使用しているガジェットならば、一発で起動不能に追い込める。

つまり、これはアガートラームのワンパンチ決着と全く同じ構造で作られているのだ。

「転売屋などに踊らされるファンを利用し、超有名アイドルを頂点に立たせるようなマッチポンプを――ARゲーム業界は絶対に許さない」

 ビスマルクの方は本気だった。相手にしようとしたパッチワークも、さすがに地雷を踏んだと判断して逃走する。

逃走するパッチワークの逃げ道をふさいだのは、意外にも大和だった。

「金に物を言わせるチートで、ファンを食い物にするような超有名アイドルは――ARゲーム業界には不要!」

 大和のアガートラームによる攻撃でパッチワークのガジェットが崩壊、そこから姿を見せたのは現役の男性超有名アイドルだった。しかも、CDランキングで1位になったばかりの現役グループの――。



 同日午後3時、ニュースでも速報で流され、この事件を受けてランキング会社の強制捜査が行われ、そこで政治と金の疑惑まで浮上した。

しかし、この一件はつぶやきサイトやマスコミ等では都合よく脚色され、『政治とカネとは無関係であり芸能事務所側の暴走』という事で速報は出された。

「結局、アカシックレコードで書かれている通りの結末になるのか。あるいは、違うアカシックレコードがあるのか」

 大和は別の名称で検索する事も考えるのだが、それでもコンテンツ業界が抱える闇を全て暴く事は出来ないだろう。

闇の英知、ウィキ、ワクワク大百科事典、さまざまな名称のサイトは存在するのだが――。

「ARガジェットがデスゲームに流用される事、流血のシナリオに使用される事は避けないと――ARゲームでイースポーツ開催を達成する為にも」

 大和の顔には若干の焦りも見られるのだが、それを気づく事の出来る人物は……。



 7月26日午後2時30分頃、足立区と草加市の間にある道路。そこでは関所ではないのだが、特別な施設が設置されていた。

「すみません、それの持ち込みは認められていないのですが――」

 警察とは違う制服を着た人物に男性が呼び止められ、鞄の中身を見せるように要求される。

しかし、男性の方はスタッフの制止を無視して草加市の方へ侵入しようとした。

「その中身は、超有名アイドルのCDだな? おそらくは古本ショップ等で売りさばき、利益を少しでも得ようと考えていたのだろうか」

 男性の行く手を遮ったのはアキバガーディアンのメンバーだった。彼らは別の事件で出動していたのだが、偶然にも悪質な転売屋を逮捕出来たのは非常に大きいだろう。

「CDを売るのが何故悪い?」

 男性の方は開き直り気味である。不要なCDを古本ショップ等で売る行為自体は違法ではないのだが……草加市では事情が違っていた。

「CDを売る事自体は違法ではない。しかし、鞄の中に入っているCDは超有名アイドルの特典グッズを外したCD。つまり、おまけ付きのお菓子からおまけを外した物――」

「つまり、お菓子の部分だけを捨てるような行為に該当するから逮捕すると?」

「草加市では超有名アイドルは危険勢力と判断されている。他のエリアでは問題ないとしても、ここでは市町村の関係を揺るがしかねない状態になる」

「市町村? 地方アイドルが珍しくもないような時代に、そんな事を言うのか?」

「その通りだ。草加市は音楽ゲーム楽曲と二次元アイドルに特化した経済特区――大手芸能事務所の超有名アイドルが進出してよいエリアではない」

 その後も議論は続いたのだが、結局は平行線になった。



 遊戯都市奏歌では音楽ゲーム楽曲、同人ゲーム、二次元アイドル等がメインとなり、超有名アイドルは様々な不祥事を受けた風評被害の影響もあり、完全排除とまではいかないが持ち込み禁止となっていた。

その様子は、過去にあったような魔女狩りを思わせるようなレベルである。

しかし、個人の趣味にまで規制を書ける訳には……と言う事で、持ち込み禁止が開始される前の物に関しては特例とした。

逆に特例を設けた事で、徹底的に超有名アイドルを黒歴史に追い込む組織等にとっては不満が爆発する寸前だったと言う。

ここまで規制を考えるようになったのは、近年問題視されている転売屋の動きである。

転売屋が得た資金を超有名アイドルへの投資に使われている事が週刊誌等で報道され、そこから超有名アイドルへの風当たりが悪くなったと言う。

芸能事務所側は反社会的勢力と組んでいる訳ではないのに、ネット上のつぶやきサイト、ネット炎上系のまとめサイト、ネット上で神と呼ばれている人物の発言等――。

こうした動きに対し、過剰に反応しないようにとさまざまなシステムを導入したのが遊戯都市と言われている。

実際、特定ワードに対して表示不可等の対応を行い、超有名アイドル勢がネット上で都合よくコンテンツ炎上をさせないようにしている。

しかし、こうしたシステムによってファンによる白熱した議論も展開出来ず、本当の意味で必要なシステムだったのか……と言う声も絶えない。



 7月27日午前10時、新ガジェットの予約は相変わらずの盛況ぶりを見せる。その一方で、前日フライング購入があるのでは……と言う雰囲気もあった。

【フラゲ報告はないらしい】

【あったとしてもシステムの更新は28日に行われる以上、ガジェットだけあっても宝の持ち腐れだ】

【あのガジェットは新システムに完全連動した物。従来のシステムとの互換はないらしい】

【完全互換がないというよりは、従来の外部ツールやチートを使用不可にする為の処置……にしか見えない】

【互換なしに関しては撤回されたはず。従来のシステムも使用出来るとサイトには書いてあったが】

【完全互換なしはARゲームの一部ジャンルだけだな。音楽ゲームの方では互換ありに落ち着くようだな】

 つぶやきサイト上ではフラゲ報告を期待していたユーザーが情報を探している気配だったが、そんな事はなかったようだ。



 同日午前12時、ニュースサイトではあるニュースが注目されていた。

【一部ARゲームでストーリーネタバレがあったらしい】

【AR音ゲーか? AR対戦格闘だとストーリーは二の次になっている気配だが】

【それが……ARアクションらしい。さすがにARでアドベンチャーと言うジャンルは野外向きじゃない。脱出ゲーム等の形式であれば、話は別だが】

【それは致命的だな。アクションの場合はストーリーが売りになっている物もあるからな】

【情報源はAR系のゲーム雑誌だと思ったら、アニメ雑誌らしい。ARゲームの特集で致命的なネタバレを誤って載せてしまったとか】

【それは致命的過ぎる。公式がネタバレをするようなパターンもあるが、これは被害が大きいな】

【更に言えば、隠しアイテムの存在も雑誌でネタバレされている関係で、各地で炎上騒動が起こっている】

【それをあおっているのは、何時も通りにアフィリエイト系のまとめサイトや個人つぶやきサイトで神と呼ばれているユーザー――】

【この世界には神は存在しない。存在する神は一部勢力によってつくられた偽物の神のみだ】

 要約すると、ARゲームのネタバレ情報がアニメ雑誌で公開されているらしく、そのフラゲ勢を中心にして炎上しているというのだ。

それに加え、炎上させているのはARランカーに駆逐されたと主張するフジョシ勢、いわゆる3次元夢小説を書く勢力である。

こうした構図が――今回の騒動を更に悪化させるのではないか、と思われたが予想外の所で炎上騒動は即座に鎮圧された。

『次のニュースです。無期限活動休止をしていたレジェンドアイドルが活動を再開しました』

 国営ニュースでも取り上げる程のカリスマを持ったレジェンドアイドル、その復活を伝えるニュースが炎上騒動を上書きしてしまう勢いで拡散したのである。

レジェンドアイドル、それは過去に伝説とまで言われたカリスマアイドルで、数年前に無期限活動休止を宣言後に消息を絶った。

似たような名称のアイドルがアキバガーディアンに逮捕されたような気配だが、それはレジェンドアイドルの二番煎じであり、アカシックレコードを炎上させようとした便乗勢力という説もある。

「遂に動き出すのか。あのレジェンドアイドルが」

 カップ焼きそばを食べながら、自宅のテレビでニュースを見ていたのは、ラフな服装で昼飯にしていた大和杏だった。

「どちらにしても、第2、第3のレジェンドアイドルは姿を見せ、それらはアキバガーディアンに逮捕された。ここを叩けば、全てが終わる――」

 色々と気になる事はあったとしても、まずは動向を見極める事が優先だと大和は考えた。そして、ペットボトルのコーラを口にする。

「まずは、アカシックレコードの動向を――」

 テーブルに置いたタブレット端末でアカシックレコードをチェックしていると、そこには思わぬ記事が新着として入っていた。



 7月27日午前12時15分、自宅でニュースを見ていた大和杏は、ある記事を発見したのだが……。

「やっぱり。どの世界でも神格化は繰り返されるのか」

 大和が発見したのは、流行語大賞の記事だった。そこに書かれている単語を見て、その傾向から何かを彼女は悟った。

「流行語にアカシックレコードがないのは、発見されたのが数年前と言うのもあるが……」

 それ以外の単語も超有名アイドル絡みである。おそらく、候補の単語の90%は超有名アイドル関係が独占していると言ってもいい。

おそらく、超有名アイドル側も後がないと考えているのだろうか。しかし、流行語大賞の候補が出るのは11月の為、大和は何かの違和感を抱く事になる。

「西暦2016年の物か。しかし、その結果はかき消されているのが気になる――」

 何処の日本と指定されていなかった別の流行語大賞の記事も、西暦2016年の物は結果が黒塗り状態で見えなくなっている。

向こうの流行語に関してはスポーツ関係、お笑い関係、その他にも政治関係と色々な物が並んでおり、自分達の流行語とは格差がある事を思い知った。

「そう言えば、去年の流行語大賞はレジェンドアイドルがあったような」

 案の定だった。2017年の流行語大賞の記事を見ると、そこにはレジェンドアイドルがノミネートされていた。

晒し的な意味でノミネートされた訳ではなく、おそらくは芸能事務所が大金を出して裏取引をしたという類だろう。

しかし、こうしたやり取りに関しては実際にあったかどうかは定かではなく、真相を確かめる手段は存在しない。

「やはり、あの芸能事務所は超有名アイドルを神化させるつもりなのだろうか――」

 大和は色々な事を考えたのだが、その結論が出る事はなかった。

今までも、この件に関しては焦りにも近い感情を持っており、超有名アイドル商法を何らかの方法で正常化させる事が先決と考えている。

フーリガンの様に暴れまわるファンの爆買いは、アイドル投資家にとっても格好の狩り場と化している。

こうした状況が生み出す物を大和はアカシックレコードで何度も目撃していた。このままでは日本が超有名アイドルを――。

「何度も繰り返される展開、超有名アイドル商法によるエンドレスループを断ち切らないと。あの商法が永久に続く事は、あってはいけない」

 考えた末に、大和は若干落ちつきを取り戻していた。何かの物に当たったとしても、展開が変わるとは思えない。ならば、自分が変えなくてはいけないのだ。

そして、大和は決戦に備えてアンテナショップの通販サイトを開き、そこでガジェットカスタマイズを依頼した。

アガートラームとは別に、新ガジェットを調達しようと考えているらしい。なお、新システム導入からはアカウントが複数所持出ない場合に限り、複数ガジェットが正式に認められるようになった。

以前までは故障や修理等の緊急時限定でサブガジェットの使用を認めているのみであり、通常使用における複数ガジェットは認められていない。

武装が複数あるように見えるのは、あくまでもメインのARガジェット以外はCG表示になっている為でもあるのだが……。



 同日午後2時、ワイドショー番組でレジェンドアイドルの活動再開に関して取り上げられ、テレビ局がその話題でもちきりとなった。

例外があるとすれば、午後という時間帯に映画を放送しているテレビ局1つだが……あのテレビ局は、相当な事件でない限りは動かない。

つまり、レジェンドアイドルの一件は相当な事件に該当しないのだろう。

『レジェンドアイドルと言えば一世風靡した程のアイドルとしても有名で、彼女以上のアイドルはいないとまで知られていたのですが――』

『突如として復活した事には驚きです。少し前にレジェンドアイドルの後追いアイドルが姿を見せたと思ったら、自作自演だった事が判明しましたが――今度は本物であって欲しい物です』

 男性司会者からは、彼女が正真正銘の本物であると願うコメントがあった。これが本心かどうかは不明である。

しかし、以前の自作自演に関する事件はレジェンドアイドルとは別物だった事に触れており、本物が現れる事を望んでいたのは本当らしい。

『あの時は芸能事務所の複数が廃業に追い込まれ、国会の与党にも賄賂の疑惑が浮上したほどです。これほどまでに政治にまで干渉したアイドルは異例中の異例でしょう』

 男性司会者は、あの事件が初の事例ではないと力強く断言している。つまり、超有名アイドルと政治家は裏で繋がっている事例が他にもあったと示唆する物だ。

このような発言がある為か、この番組は草加市内及び奏歌市では放送されず、別のアニメ番組に差し替えられる状態になっていた。

草加市内と奏歌市では報道バラエティーや信用出来るソースのない週刊誌等が規制の対象となり、このような状態になっている。

ただし、動画サイトにまで規制を広げると、逆に炎上する材料を与えると言う事で、そちらの方はノータッチ。それに加え、ケーブルテレビやワンセグ等も規制対象外だ。

この辺りは視聴している年齢層に配慮したようだが、地上デジタルのアンテナでは視聴出来ないのは間違いない。



 同日午後3時、衝撃の発表がミュージックオブスパーダのホームページ上で発表された。

《新システムを導入したARガジェットを28日から順次入荷を行います》

 これには上位ランカーを初めとした人物も衝撃を受けていた。本来であれば8月上旬予定とも触れられていたのだが……。

「スケジュールを早めたのか、それとも別の理由か」

 ホームページをタブレットでチェックしていたビスマルクは、今回の発表に何か意図している事があるのではないか、と考えていた。



 同刻、今回の発表を行った後で事務所に置かれたARガジェットをチェックしていたのは、南雲蒼龍だった。

ガジェットの形状はクリスタルの刃で出来たようなサーベルであり、音楽ゲームで使う様な物とは程遠い。しかし、これを決めたのは自分なのは間違いないのだが――。

「音楽とバトルを組み合わせたアニメは過去にもあった。しかし、今回のミュージックオブスパーダは、それらと類似する可能性は――」

 普通に音楽ゲームを開発するはずが、今回の仕様になったのは別の理由が存在していた。それは、アカシックレコードにも記されていない程の機密事項でもある。

「あくまでもARゲームはARゲームであるべきだ。人々を楽しませるエンタメ精神も必要だろう――」

 そして、南雲がビームサーベルを握ると、青い光と共にブレードが展開された。一般的なビームサーベルとは原理が違うらしい。

「ARゲームを超有名アイドル商法や政治の材料にしてはいけない。それは、アカシックレコードでも――」

 南雲は何度も悩み続けていた。自分が本当にやろうとしている事は何なのか……と。



 ゴッドランカーモード、それは3速が限界のスピードを5速にまで上昇させ、更には発動時限定で判定が大幅に変化する。

それに加え、発動時にはコンボの計算が変化する。最初は2倍からのスタートだが、装備しているガジェットによっては最大7倍まで変動。

しかし、このモード自体には一定のゲージを溜める必要があり、事実上の連射は不可能。連射不可の理由は、さまざまだが……そこまでは解析が進んでいない。

一度でもコンボの途切れや時間切れ等でモードが解除されると、再チャージ後に発動しても2倍からのスタートになるとか。

「一部は判明しても、これらが他のプレイヤーに解禁される可能性は低いか」

 まとめ記事をチェックしていた信濃リン、彼女はゴッドランカーモードに対して何かを感じていた。

ランカーの証としてのゴッドランカーモードとは到底思えない一方、外部ツールを使用したプレイヤーに対しての救済処置としては解禁された絶対数が少ない。

「どちらにしても、新ガジェットの稼働時期が早まったことと関係があるのかもしれない――」

 彼女が新ガジェットの稼働時期変更を知らせるページを見ていたのは、前日の27日の事だった。

その後、信濃は様々な機種の音楽ゲーム動画を見ていく内に、ゴッドランカーモードと似たようなシステムを持った音楽ゲームを発見した。

「このシステムって、確か開発者は――!?」

 信濃は、動画をチェックした後にある音楽ゲームの公式ホームページを検索し、そこでゴッドランカーモードと類似したシステムを発見する。

しかし、その音楽ゲームを開発した人物の名前、そこには南雲蒼龍の名前がクレジットされていたのだ。

「ゴッドランカーモードを習得できたプレイヤーに共通する事って――」

 あの4人がその音楽ゲームのプレイヤーであると信濃は推測するが、プレイヤー名で該当するようなネームに見覚えはなかった。

仮に該当する音楽ゲームのプレイヤーがゴッドランカーならば、もっと別の上位ランカーがなっていてもおかしくはない。

「やっぱり、偶然の一致でしかないのだろうか……」

 結局、今回の件に関しては憶測でしかない。下手に騒ぎ立てれば、サイト炎上を狙う勢力が非合法手段を含めて動くに違いない。

現状では様子を見る以外、適切と思える選択肢は存在しなかった。



 7月27日午後4時、ゴッドランカーの一人である山口飛龍は何時ものエリアとは別のエリアにいた。

【まさかの展開だ。彼がホームを離れる展開があるとは】

【遠征プレイヤーというのは音楽ゲームでも当たり前に存在する。珍しい物とは思えないが】

【山口の場合、相当なケース出ない限りはホームゲーセンを変えない傾向がある】

【ホームゲーセンでなくても、ミュージックオブスパーダはスコアが変動するとは思えない】

【ARゲームの場合はARガジェットがコントローラの変わりになる。ARレース等の一部ジャンル以外では、遠征の必要性は特にないだろう】

【しかし、店舗ごとのハイスコアが設定されているような機種の場合、店舗スコアを破るという意味でも遠征の価値はある】

 つぶやきサイトでは山口が他のゲーセンへ行く事が都市伝説の様に語られていた。



 同時刻、フルアーマー装備でミュージックオブスパーダをプレイしていたのは、大淀はるかだった。

かつて使用していたガジェットはオーバーホール中と言う事もあり、全盛期のバウンティハンターの様な重装備ガジェットでプレイをしていたのだが――。

「装備が微妙に変わるだけで、ここまでスコアにも変動がある」

 大淀はリザルト画面を確認し、今までのスコアよりも1%は上昇している事に驚く。自分には軽装備よりも重装備の方が似合うのか?

そう言った疑問を抱きつつもリプレイを再確認、微妙な動きの変化を確かめていた。

重装備でも動き的な部分は軽装備の場合でも通じる。ARゲームの場合、重装備でも一気に重さが10キロ上昇したりするような仕様ではないからだ。

あくまでもメイン武装以外のサブウェポンの類は、全てARによる拡張現実技術を利用し、CGで表示される。

その為、フィールド外では重装備でもインナースーツとARギア以外は描写されず、メットを装備していないと素顔がばれてしまうのも仕様である。

こうした仕様の穴を突いたのが、バウンティハンターこと加賀ミヅキのARギアとも言える。

彼女の場合は、別のジャンルで使用しているARガジェットを利用していたというのもあるかもしれないが。

「しかし、急な環境変化は――」

 大淀が何かを考えていた時、そこへ姿を見せたのが山口飛龍だった。山口の装備は、シールドビットメインだが、アーマーの細部等には変化が見られる。

山口のアーマーは軽装備であるのには変わらないが、バックパックがシールドビットに合わせた仕様になり、脚部アーマーも微妙な軽量化を図っているようだ。

バイザーメットはデザインが一新されていたが、新ガジェットに合わせた物と言う訳ではないらしい。素顔の方はバイザーの関係で確認できないが。

「大淀、はるか――」 

 山口が大淀を目撃して声をかけるのだが、その声が彼女に聞こえているのかも疑わしい。

実際、大淀はバイザーのボリューム調整をしており、環境音の方が聞こえにくい状況だったからだ。

「山口飛龍――あなたが、このゲーセンに来るとは珍しいというか」

 大淀の方はバイザーの方を解除する事で、山口が声をかけている事に気付く。数回、声をかけた訳ではないが――。

「聞きたい事がある。その為に、ここへ来たと言ってもいい」

 山口が大淀に聞きたい事、それは不用意なつぶやきが全ての発端となった一連の事件ではなく、もっと別の事だった。

「ネット上で噂になっている提督勢――彼らの目的は何だ?」

 その内容を聞き、大淀の方は聞き覚えのない単語に驚いている。どうやら、大淀は提督勢に関しては知らないようだ。

「提督勢って、パルクールの?」

 しかし、一応は聞き覚えがあった為、山口に詳細を聞こうとするのだが、山口の方も詳しくは知らないらしい。

「その提督勢だ。彼らがミュージックオブスパーダへ進出する理由――それを聞きたかった」

 さらりと出てきた山口の一言、それはミュージックオブスパーダの動きを大きく変える物なのではないか、と。

しかし、この段階の大淀では提督勢が進出した理由を察する事は出来なかった。

提督勢に関する動きを知っているとすれば、おそらくはアガートラームの所有者だけという可能性も否定できないが……。



 7月28日当日、新ガジェットを手に入れようとする人たちが、アンテナショップへ行列を作るという構図にはならなかった。

これには、行列で混乱を起こしてはネット炎上勢のネタにされる事を恐れた運営の考えもある。

しかし、これには過剰反応と見るネットユーザーもいるのだが――。

【ARガジェットが転売屋に流れる可能性は低いが、ここまで厳重警戒をする必要性があったのか?】

【ネット炎上勢は、いつ、どこ、どのような場所でも何かをネタにして日本を混乱させ、超有名アイドルの宣伝に命を懸けるだろう】

【それに命を懸けるべきか――というよりも、大金を得られるかどうかで天秤にかけているのだろうな】

【ありとあらゆるメディアは超有名アイドルの広告塔として制圧された時代もあった。それこそ、超有名アイドル以外の宣伝を禁止する位のディストピアに】

【それ以外のファンは全て駆逐する――そうした憎しみがアイドル同士の流血を伴う戦争を生み出した。あくまで戦争はWeb小説上での話であり、夢小説で書かれた物だったが】

【超有名アイドルでは日本を本当の意味で変えるコンテンツにはならない。一部のアイドル投資家が影で日本を操るような――宣伝材料でしかない存在にすぎない】

 本来であれば検閲されるような単語が、今回の流れではそのまま載っていた。これに対して、一部の反超有名アイドルや反ARゲーム勢が見事に釣られる事になる。

しかし、この件に関しては触れられているログやまとめサイトは存在しない。これに関してはニュースでも報道していない以上、何らかの力で封印されていると考えられていた。



 7月29日午前10時、新ガジェットを使用したプレイヤーがミュージックオブスパーダに姿を見せたのは、この辺りである。

理由としてはARガジェットの違法転売が確認されたとして、その犯人を特定する為に――というのが表向きの発表。

しかし、本当の目的はARガジェットの違法流通を仕掛けた人物の特定である。違法転売と違法流通では意味合いが違ってくるのだが――。

「違法流通の仕掛け人が、アイドル投資家の残党だったとは」

 今回の件に関して驚いたのは、意外な事に運営サイドの南雲蒼龍だった。

彼が驚きの表情で、今回の事を知ったのには理由がある。それは、運営スタッフと思わしき男性が言った一言だ。

「新ガジェットに違法チップが組み込まれている話があった。それが使用されれば、音楽ゲームで自分の意思に関係なく超有名アイドルの宣伝をさせられる」

 これを昨日の段階で知り、流通したガジェットの使用差し止めを考えたが――時すでに遅し。使用された形跡が午後6時の段階で確認された。



 7月28日午後6時、この時に使用された剣型の新ガジェット、それが違法チップの搭載されたガジェットだった。

「何時もと違う楽曲がセレクトされている。それに、この曲は――」

 ガジェットの持ち主は長門未来、彼女は何かの異変を感じつつも、楽曲のジャケットが表示されたARガジェットのモニターをタッチする。

《この楽曲は存在しません。既に削除された可能性があります》

 英語のエラーメッセージと共に表示されたのは、楽曲が既に削除された事を知らせるメッセージである。権利者削除と言うのは、公式で展開している音楽ゲームならば、まずありえない。

音楽ゲームでも諸事情で楽曲が削除される事があり、作品の区切りでは削除曲が話題になる事も多く、物によっては復活希望の声が上がるほどだ。

「どちらにしても、あの曲名だと――超有名アイドルの曲が誤配信されていた可能性も否定できないか」

 結局、長門は別の楽曲を選択し、それをプレイする事になった。クラシックアレンジと言うよりは、クラシック曲をバンド風味に作り直したような曲である。



 7月29日、新ガジェット関係の一件がネットにアップされたのが確認された。

《新ガジェットの一部にリコール。超有名アイドル関係の企業がパーツ横流しか?》

 記事の内容としては、新ガジェットに使われている部品が超有名アイドルに関係のある企業の物で、それが横流しされたとの事だった。

そのパーツが奏歌市で禁止されている超有名アイドル関係のグッズと判断され、リコールを届け出た――というのが要約である。

「超有名アイドル関係のグッズね――言い得て妙か」

 タブレット端末で一連のニュースを確認していたのは大和杏、彼女は新ガジェットを発注したのだが、一連の騒動もあって届くのが遅れているのだと言う。

「今回の一件で出遅れたプレイヤーも多いが、それは他のジャンルも同じか」

 今回のガジェット騒動はARゲームの半数以上で起こっていると言っても過言ではない。そして、システムの調整も一連の騒動や外部ツールの亜種が発見され、微妙な調整を行っている途中でもあった。

大和の場合はアガートラームの関係もあり、身動きが取れない。アガートラームは外部ツールと誤認識される程の能力を持ち、新システムに変更された今でも誤認識されるケースは存在する。

「やはり、ARガジェットの技術が公開されたのは間違いだったのか」

 アカシックレコードと言う常今までの常識が通じないような物が公開された事で、それを独占しようとする動きは後が立たない。

技術を独占して儲けようとする者、アカシックレコード内のランキング独占を考える者、更にはネット上で目立ちたいが為に炎上のネタとして利用する者――それこそ、悪用のケースも十人十色である。

こうした動きに対し、アキバガーディアンや一部勢力も黙ってはいない。アイドル投資家や悪用仕様とするつぶやきユーザーを特定し、逮捕状まで用意する位だ。

更なる逃げ道として未成年だからという事で実名報道を回避しようと言う者もいるだろうが、アキバガーディアンの作りだした俗に言うコンテンツ法には、該当する犯罪を起こして逮捕された者は問答無用に実名報道すると言う物がある。

これに関しては賛否両論が存在する。実名報道するべきではないという動きもあり、マスコミはコンテンツ法で実名報道が任意である事を踏まえ、実名報道をしていない。

逆にネットで広まる自称正義のつぶやきユーザー等は実名報道を行い、正義の鉄槌を下しているというのだが――。

「やはり、つぶやきサイト等は免許制度にするべきなのか――」

 大和はアカシックレコード内の論文にあったありとあらゆるものに免許制度を導入、国民にナンバーを付けて管理する等が実現してしまうのでは――とも懸念していた。



 同日、アキバガーディアンの本部で情報収集をしていたのは、インナースーツ姿の明石春だった。

彼女はガーディアンの指示もあって、自分としては不本意でありつつも一件から引かざるを得なかったのである。

「ミュージックオブスパーダ――運営は何を狙っているのか、こちらにも悟らせない気なのか」

 明石は過去に猪突猛進な性格で、失敗をしてしまう事もあった。それを踏まえ、性格改善を行った結果が現状の明石である。

「これは、まさか――!?」

 タブレット端末で発見した写真ありの記事、そこにはエクスシアという単語と蒼天使を思わせるようなデザインのARガジェットが――。

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