第17話:スコアトライアル
6月11日、スコアトライアルの楽曲が発表になった。
反応に関しては人によってさまざまだが、驚きの声が半数と言える。
【まさか、別の音楽ゲームから引っ張ってくるとは】
【既存の楽曲でトライアルをやるとすれば……店舗スコアの塗り替えも行われている以上、曲によっては不利になる】
【攻略パターンが確立されていない新曲であれば、有利不利が大きく発生しないと判断したのだろう】
【既存楽曲でやっていたら、大淀をシードにしないと大変な事になるが】
この他にも、様々な発言が飛び出したのだが、意外な事に政治家絡みやフジョシ勢の話題は個別で上がる事はあっても、スコアトライアルと絡めた物はなかったと言う。
同日午前11時、スカイエッジが姿を見せたのはアンテナショップだった。
しかし、ショップはフルフェイス禁止である為、何とかして顔を見せずに入る事は出来ないか……スタッフと交渉をしている。
「申し訳ありませんが、防犯上の都合でフルフェイス等の顔を隠す状態で店内へ入ることはできません」
『そこを何とか……。こちらはアキバガーディアンの潜入捜査も兼ねていて――証拠ならば、ここに』
「アキバガーディアンでしたか。では、ここでお待ちください。今、担当に確認を取らせますので」
結局、超法規的処置というか、アキバガーディアンの特注ガジェットであるアサルトライフルを見せる事で身分証明を取った。
スカイエッジとしては、あまり権力等を使うのは好きではないようだ。
これによって、アキバガーディアンの評判を落としたくないのと、風評被害防止があるのかもしれない。
5分後、裏口を案内され、そこからスカイエッジはアンテナショップへと入る事が出来た。
『実は、今回使用するガジェットはガーディアンで使用している物とは別の物を――』
スカイエッジが簡単に事情を説明する。それによると、アキバガーディアンで使用しているガジェットではスコアトライアルでチート扱いされ、下手をすると失格処分になる事を運営から告げられた。
その為にミュージックオブスパーダで使用可能なガジェットを選んで欲しい、と言う事だった。
「銃火器系以外を希望との事ですが、こちらで在庫を確保している武装は――」
男性スタッフが見せたカタログには、汎用的な武器とは異なる物が多く存在している。
ミュージックオブスパーダ専用ではないが、他のARゲームで運用されているかと言われると……疑問が残る。
「ガンランス、ロケットパンチ、有線式ガンビット、ローラーエッジ――どれもロマン武器と言われている物ばかりですが」
通常武器もあるのだが、ハンドガンは大量在庫の為に安価で買えるとの事だが、スカイエッジは選ぶ気配がない。
その理由は、ミュージックオブスパーダで大幅弱体化されている事だった。それがなければ、買ったかも。
『この武器は?』
スカイエッジが指差した武器、それはシールドブレイカーという名称の武器、5本のビームブレード、2本の実体剣を合体させた腕に固定するタイプの剣だ。
「シールドブレイカーは、ARウェポンとしては重量タイプに類します。ハンマー系よりは振り回しに体力は使いませんが――」
『剣タイプの武器であれば別のARゲームで使用経験がある。これでお願いしたい』
別のARゲームでは剣タイプを使用している事もあり、スタッフの説明が続いている中でシールドブレイカーを指定し、これを用意して欲しいと話す。
「他のARゲームで使っていたと言っても、その法則はミュージックオブスパーダでは通じません。それでも?」
『それでも構わない。今すぐにでもミュージックオブスパーダへ登録しようと考えている以上、すぐに用意できる物がいい』
忠告をしても無理なタイプとスタッフは判断し、数分後にはシールドブレイカーの元であるARガジェットを箱に入った状態で用意する。
午前11時20分、目の前に出てきたシールドブレイカーが入っているARガジェットの箱を見て、スカイエッジは苦笑していた。
『何処かのヒーロー物の玩具か? 東京ではARガジェットと言えば、もう少し箱のデザインは違っていると思ったが』
スカイエッジの言いたい事は百も承知である。しかし、アンテナショップ内で展示している状態で持ってきた関係も……原因の一つだろうか。
「一部ジャンルのARガジェットでは簡素デザインの箱が存在する事は、こちらも把握しています。しかし、ここは遊戯都市――こちらの事情は理解して欲しい所です」
スタッフの言いたい事も分かる為、スカイエッジは箱から取り出してARガジェットの感触を確かめる。
残念ながら、実体化に関してはARゲームで直接試すしかない為、ビーム刃の部分は非展開のままだ。
『成程。これならば、特に問題はないだろう』
その後、6000円+消費税を電子マネーで支払い、ガジェットはそのまま受け取る事に。
ミュージックオブスパーダへの登録も必要なので、実際にガジェットを使えるのはもう少し先になるが……。
6月12日午前10時、課題曲が発表されてから1日が経過していた。
しかし、現状ではハイスコアを獲得したプレイヤーが数人いたとしても、入れ替わり立ち替わりが続く。
【大淀がトップと思ったが、聞いた事のない名前のプレイヤーがトップらしい】
【強豪ランカーは、現段階でほとんどが様子見。ビスマルクが慣らしでプレイした以外では未プレイらしいぞ】
【これは千載一遇のチャンスと言うべきか】
【課題曲は解禁必須という条件でもないのに、どうしてプレイをしない状態が続くのか?】
【三日天下でも無名のプレイヤーを持ちあげようとしているのか、あるいはチートプレイヤーをあぶり出す為にランカー勢が意図的にプレイしていないか】
上位プレイヤーは名前も知られていないような無名ばかりで、おそらくは人気や名声狙い、賞金狙いの可能性もある。
【賞金は――決勝トーナメントで再告知と言う噂もあるが、どちらにしても難しいだろう】
【イースポーツでは賞金バトルも開催されているが、ミュージックオブスパーダで同じような事例はない。要望は出されているようだが】
【仮に賞金制度が実装されれば、18歳未満はプレイ不可等の制約も出るだろうな。別のARゲームでは実際に18歳未満のエントリー禁止となっている物もある位だ】
【どちらにしても、警察の家宅捜査を受けている芸能事務所や政治家等が手出しできない今だからこそ、別勢力が今回のイベントに便乗して動き出す可能性がある】
【別勢力と言うと、フジョシや夢小説勢か?】
【そちらも遊戯都市近辺で反ARゲームの市民を利用してデモを行っているらしいが、一斉検挙されたというニュースが報道されていた】
【おそらく、仮に別勢力が妨害するとしたら、現状のARゲームに対して不満を持った勢力か。俗に言う――】
あるつぶやきで特定単語がNG指定だったらしく、途中でコメントが途切れている物があった。
「他のランカーは誰もエントリーしていないのか」
そのつぶやきを見て、何かを考えていたのは加賀ミヅキである。彼女は別ARゲームのイベントもあり、こちらへは深く入り込まない予定だったのだが……。
午前10時30分、ミュージックオブスパーダの稼働エリアでは連日の混雑が嘘みたいな過疎状態である。
それでも10人待ち等の状態が続くが、稼働初期の混雑が信じられない……というプレイヤーも多い。
その原因は別のARゲームの稼働、ミュージックオブスパーダの稼働エリア増加、一部プレイヤーの荒らしによる風評被害等が言われているのだが、どれも決定的な過疎の理由には弱いだろう。
「やはり、ハンドガンのプレイヤーが減っている。原因はハンドガンにあるようだな」
草加駅と谷塚駅の中間にあるエリア、そこに姿を見せたのはインナースーツを着用済みのビスマルクだった。
インナースーツで街中を歩いても遊戯都市内やARゲームの稼働エリアでは、特に警察が呼び止める事はしない。それ程、ARゲームの認知度は大きい。
「一時はネット上で拡散していた超有名アイドルによるARゲームを利用したコンテンツ支配……というようなデマにおびえていると思われたが」
早く来すぎたとも考えたのだが、それにしては人の数が少ない事は気になっている。テロの予告等があった訳ではないのに……。
仮にテロの予告があっても、ARゲームの進行が止まる事はない。ゲーム進行が止まるとすれば、洪水や地震、台風などの自然災害で続行不能になった場合だけだ。
テロ情報が入った場合、ARゲーム運営側で内容の信ぴょう性を含めた確認が行われ、そこから重要度合いが高い場合のみに警戒レベルの引き上げが行われる。
中止に関しては個別案件であり、運営側や遊戯都市が従わせる等の行動はとらない。
これは、過去にある漫画作品を巡っての脅迫事件、超有名アイドル商法を巡る一連の事件等で得た犯人の行動心理に基づいた行動パターンを分析……。
こうした行動ソースに関しては警察などにも必要性があれば提供をする一方で、一般ユーザーには伝えられる事はない。万が一、犯罪に悪用されたら被害が甚大になるからである。
午後1時、特に大きな展開もないと思われた矢先、トライアル対象曲の1曲でスコアの更新された。
【この展開は予想外だった】
【プレイヤー名は調査中か】
【ネームドランカーとは違う人物が更新したらしいが】
このニュースは瞬時にして拡散し、ランカーの目にも届く事になる。
「プレイヤー名は――!?」
公式ホームページでスコアを確認した私服姿の大和杏は、そのプレイヤー名を見て驚く事に。
反応に関しては大和の様に驚く人物もいれば、新人プレイヤー扱いとして様子を見ると言う2種類の反応に分かれた。
「まさか、イースポーツでジャイアントキリングをされる事でも有名な、あの人物が来たと言うのか」
大和が驚いたのには理由があり、この人物がイースポーツでも有名人だったからである。
プレイヤーの名はスカイエッジ、アキバガーディアンの所属なのだが……今回に限って言えばガーディアンの指示でエントリーした訳ではない。
『まずまずと言ったところか。このガジェットは使い勝手が悪いように思えるが、それぞれの剣で使い方が異なるのも大きい』
分離形態のブレード単体、ソードブレイカーと言う用途を持つ2本の実体剣、合体させた際のブレード。
この武器は使い手を選ぶ一方で、使い手とマッチすればある意味でも最強と言う言葉がふさわしい物になる。
しかし、それでも分離時のブレードは2本が二刀流、1本がロングソード、2本がライトセイバーという用途なのだが……完全には使いこなせていない。
『投げナイフの要領で使うと言う訳ではないとマニュアルにもある。しかし、阿修羅でもないのに剣を2本以上持てるのか?』
サブマニピュレーターや隠し腕の様な物を搭載しているバックパック等もない事はないのだが、それらはミュージックオブスパーダで持ち込みが認められていない類のガジェットだ。
それを踏まえると、7本の剣を合体形態以外で上手く使いこなすためにはどうするべきか……そこに若干の問題を抱えていた。
しかし、ある物を発見した事で、その発想は予想外の部分で生かされる事になった。
『ハードポイント……ARガジェットとARアーマーを接続出来るギミックがある話を聞いた事があるが』
ARガジェットとアーマーを合体させる事も可能なハードポイント、ミュージックオブスパーダで使用可能かどうかは不明だが、試してみる価値はあるとスカイエッジは考えた。
スカイエッジのプレイ動画が出回った頃、そのガジェットを見た山口飛龍は別の意味で驚く。
「あのブレード――何処かで見覚えがある」
山口はブレードに関して見覚えがあると感じていたが、それが錯覚ではない事が動画を見ていく内に核心へと近付く。
動画では最初のAパートでは二刀流のビームブレードをビームナギナタの原理で合体させ、それを振り回してターゲットを撃破していった。
Bパートへ突入する頃、今度は実体剣でターゲットを撃破、更には5本のビームブレードを合体させたロングソードを振り回し、包囲される危機を回避する。
ラストの発狂地帯、そこでは7本のブレードを合体させ、その一閃で無数のターゲットを撃破。最終的なリザルトは95%台を記録した。
「やはり、あのブレードは以前に薦められたもの――それを、ああも使いこなせるとは」
山口もスカイエッジという名前に見覚えがあったのだが、それに関しては全くのスルー。彼の場合はARガジェットの方を気にしていた。
午後3時、数名のスコアで理論値に到達したという報告を受け、運営サイドは不正があるかどうかを調査していた。
そして、一部に関しては案の定というべきか、最新型の外部ツールで達成したスコアであることが判明する。
「これで賞金制にすれば、優勝者が得た賞金は超有名アイドルの投資等へ流れる事も否定できないか――」
別のゲーセンに立ち寄り、そこで理論値の情報に関して報告を受けた南雲蒼龍は、決勝を賞金制にするかどうかで悩んでいる所だった。
6月13日、昨日の理論値スコアに関しての裁定が公式ホームページで発表された。
《理論値を達成した一部プレイヤーに、ARゲームでは認められていないアプリが使用されていた事が判明し、該当プレイヤーを失格処分にした》
《それとは別に理論値を達成したプレイヤー1名に関しては、違法アプリやガジェットの使用は確認できず、こちらは認定する》
これによって、課題曲の1曲で1位が確定した事になる。そして、2位以下も98%まで到達しており、理論値が複数人出るのも時間の問題だった。
【1名のプレイヤーネームを見たが、本当に彼女なのか?】
【ARゲームでスカイエッジと言えば――イースポーツでも有名なプレイヤーだ。なりすましもあり得ない】
【なりすましがあり得ないと断言できるのは?】
【スカイエッジは、ジャイアントキリングされやすいプレイヤーとしても有名だ。それを踏まえても、なりすましして得をする人物がいるとは思えない】
【評判が悪い人物になりすまし、更に評判を落とすという事も考えられるが……彼女に関しては既に底辺まで落ちている】
【つまり、現状の評判がなりすまし1名が現れたとしても、変わる事はない。そう言う事か】
スカイエッジに関しては色々な伝説があるのだが、あまりにも想定外の事が多すぎてネットに書ききれないという逸話もある。
つまり、なりすましが1名だろうが10名だろうが彼女の評判を落とすのは不可能に近い。それ程の人物なのだ。
午前11時、自宅のテレビでニュース番組を見ていた大和杏は、何か重要な事を忘れている気配を感じた。
「超有名アイドル、政治家、フジョシ、夢小説勢が撤退、別の反抗勢力も一斉摘発の対象に――」
『次のニュースです。芸能事務所がまた不祥事です。今度はARゲームで使用する違法アプリをアップロードしたとして――』
「違法アプリ……まさか、弱小芸能事務所がそこまで追い込まれていたとは」
大和も思わず驚いたニュース、それは一部の弱小芸能事務所が有料アプリをアップロードし、その売り上げを事務所の運転資金にしていたという物。
バラエティー番組で所属アイドルに貧乏ネタを自虐的に話すよう指示しているのでは……という話題がネットに上がるようになっていたのは最近に限った話ではない。
しかし、こうしたニュースがあからさまに報道されるようになったのは、ここ最近に加え、超有名アイドルがARゲームから撤退した時期と重なる。
まさか、芸能事務所がアップロードしていたアプリがアイドルの情報アプリと見せかけ、その中身は特定のARゲーム専用のツールアプリという事実には驚きを隠せない。
テレビのニュースではARガジェットの外部ツールと言う事は伏せられている。何故、伏せる必要性があるのかは明らかになっていない。
国営テレビのニュースと言う事で報道しないだけかもしれないが。
その一方、同じニュースを見ていたのはゲーセンでタブレット端末をチェックしていた南雲蒼龍も同じだった。
「ARゲームでチートが蔓延する事によって、賞金制度を導入できなくなる弊害だけでなく、賞金が犯罪に悪用されるのは明白」
南雲はチートが賞金制度を導入したARゲームで使われる事が非常に危険である事、それに加えて……。
「この状況が続くとすれば、更に別の勢力を引き寄せる事になる」
もう一つの懸念、それは未確認の別勢力を呼びよせる可能性だった。ネット上で挙げられているような勢力とは全く違う――。
翌日午前10時、スカイエッジと同様にARスーツを着た状態でアンテナショップへやってきた人物がいた。
「そこの方、申し訳ないですが顔を隠した状態で入店はできませんが――」
男性スタッフに呼びとめられた人物は、少し困惑気味だった。アキバガーディアン専用ガジェットを持っている訳ではなく、どのように状況を説明するべきか。
『犯罪者でもないので、素顔を見せても問題はありません。しかし、店の外で混乱させるのも本意ではない』
この人物はアキバガーディアンではないのだが、スーツのデザインはFPSで使用される物と類似している。
「これは、もしかして……!」
男性スタッフは渡された名刺を見て、思わず声を上げた。これが周囲に聞こえていたら一大事。それ程の有名人だったのだ。
『私の名前はプルソン――イースポーツでは有名人と言ったところか』
声の方はボイスチェンジャーで男性になっているようだが、体型を見る限りでは女性のような気配すら見える。
体型がぽっちゃり系のソレと思われる箇所もある為、スタッフは疑問を持っているようだ。
「分かりました。その話を信じましょう」
一応、男性スタッフの説得には成功したようで、プルソンは裏口と言うよりも搬入口からショップへと入る。
これに関しては、ARウェポンやアーマー的な意味もあるのかもしれないが。
同日、大和はネットの掲示板である情報を発見した。
それは、音ゲーランカーしても知られる木曾あやねについての記事である。
「謎の音楽ゲームトップランカー、木曾あやね。その正体は音ゲーマー以外では不明だったが、イースポーツにも名前を残しているのか」
格闘ゲームではないが、FPSゲームで木曾は一定の実力を持っており、プロゲーマーとしてのオファーを受けた事もあると描かれていた。
「プロゲーマー契約を蹴り、音ゲーマーとしての地位を維持――?」
しかし、途中の記述が文字化けしていて判別不能になっていた。
その先の文章はアガートラームを使用しても文字化けが戻る事はない為、相当なプロテクトがかけられている可能性もある。
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