第16話:アップデートの裏側

 6月6日午後2時頃、奏歌市内の施設に用があった大和杏は、ある装甲車と思われる車両を発見する。

「あれは、アキバガーディアンの……」

 アキバガーディアンと言えば、秋葉原をメインフィールドとしたコンテンツ保護等を訴える組織という話だ。

しかし、ネット上ではアキバガーディアンのやっている事は超有名アイドル商法やマインドコントロール的な物と変わらない――。

こうした曲解した意見が拡散した結果、アキバガーディアンは『一次創作至上主義者』とも揶揄されるようになる。

【アキバガーディアンが1年前に起こした事件、あれが悪しき意見の分裂を生み出した】

【アレがなければ、超有名アイドルを完全に日本から追放する事も可能だった。それに、賢者の石と例えられる商法を確立した勢力を――】

【しかし、Aと言う勢力を追放したとしても、Bと言う勢力が同じような事をしないとは限らない。それに加えて、A’のような勢力が現れるとも……】

【それでも、大規模な憎しみや悲しみを拡散するような勢力を放置すれば、いずれ日本は滅亡する。それを容認している国会も同罪だろう】

【結局、全ては繰り返されるのか。超有名アイドル主導の元で】

 このようなつぶやきも存在するが、こうした過激な発言が日の目を見る事はない。

これらは炎上系まとめサイトに晒され、超有名アイドル勢に大義名分を与える結果となっている。

繰り返される悲劇、それはアカシックレコードでも懸念されていることであり、それらを断ち切る為の切り札もアカシックレコード内にも記されていた。



 同日午後2時30分、メビウス提督が装甲車に乗せられて送られて来た場所、それは草加市内にあるサーバー施設である。

このサーバー施設では、さまざまなWEB小説等のデータも保管されており、その電力が太陽光や水力、風力でまかなわれている。

サーバー施設兼発電実験施設である大規模な施設、その正体はアキバガーディアンとは無関係の中立組織が運営するARゲーム施設でもあった。

「この施設は、ARゲームの開発施設――ここに連れてきたのは、どういう事だ?」

 メビウス提督も目を覚ましたと同時に、この施設を見る事になった。

彼は施設に見覚えがあり、それが何のための施設かも把握している。

しかし、同行しているガーディアンが理由をしゃべる事はなく、ある部屋の前に連れてきた後、気が付くと姿を消していた。



 メビウス提督が扉を開くと、会議室を思わせる光景には見覚えがあった。それは、草加市役所でも見た光景だからである。

彼が部屋に入ると同時に入口の扉はしまった。どうやら、オートシステムらしい。

「メビウス提督、貴方は――アカシックレコードの真意を知ってしまった」

 目の前にいる人物、彼女がこの場にいる事の理由を知りたいのはメビウス提督の方である。

「加賀ミヅキ……バウンティハンターと言うべきか」

 加賀ミヅキ、超有名アイドル投資家等がARゲームやミュージックオブスパーダに妨害工作や宣伝活動をしていた頃には、彼女がそうした勢力を討伐してきた。

しかし、しばらくしてバウンティハンターに便乗する勢力が出始めてきた。その中には、ネームドのメンバーとしてビスマルク等が存在する。

それに加えて、大淀はるかのような人物も現れ、ARゲームの世界は混迷を極めるとばかり思っていた。

「貴方に確認したい事があった。その為に、ここへ呼んだと言っても過言ではない」

 加賀が指を鳴らすと同時に表示されたのは、スカイエッジだった。まさか、彼女もスカイエッジに興味を持ったと言うのか?

「この人物によって、拘束されたも同然だと言うのに……何を聞きたい」

 メビウス提督の方はスカイエッジの事を思い出したくはなかったのだが、また例の場面が目の前にフラッシュバックされる。

加賀の方はトラウマを思い出させるような意図はなかったが……。

他意はなかったのに、逆に傷つけてしまった事には簡易ではあるが、謝罪を行った。

「――しかし、こちらとしては確認したい事があったのだ。1年前の事件ではなく、ここ最近行われているロケテストの件で」

「ロケテスト……ARゲームのロケテストならば、奏歌市の運営に聞けばいいだろう」

「残念だが、管轄はそちらではない」

 加賀が管轄が奏歌市ではないと断言した段階で、メビウス提督は疑問を持った。

彼女が聞きたいのは、何のロケテストなのか。情報を探るという意味でも、メビウス提督は発破をかける。

「遊戯都市の管轄外と言う事は、西新井か、北千住か、それとも秋葉原で展開している2.5次元アイドル――」

「聞きたいのは、西新井で行われている……コードネーム『サバイバー』だ」

 想定外の単語が出てきた事に対し、メビウス提督は落胆をする。明石春に繋がる情報を持っていれば、交換条件を出してでも……と考えていたようだが、せっかくの発破も不発に終わった。

「まさか、『サバイバー』を所望とは。あっちの方は別の運営が厳重に情報拡散を防いでいて、ロケテスト情報も出てこないという話だが」

「それは奏歌市内での話だろう。向こうとしては『サバイバー』や別のコードネームで動いているARゲームはARゲームと認めたくないのだろう」

「こちらで知っているという事は、他のARゲームとは違うガジェットを運用、パルクールと言う競技をベースにしているという話だけだ」

「それだけ分かれば十分。私も別のARゲームがどうなっているか、知りたくなってきた」

 加賀の一言に対し、メビウス提督は恐怖を覚えた。アカシックレコードに興味を持った者がどのような末路をたどるのか……。

「アカシックレコード――それだけが世界の全てとは思わない事だ! あの記述を鵜呑みにすれば、情報の選別も出来ないような情報弱者と同類、あるいはそれ以下と判定される。お前も超有名アイドルと――」

 何かを言い残そうとしたメビウス提督だったが、加賀がパチンと指を鳴らしたと同時に加賀の姿は消えていた。そして、目の前には見覚えのあるパワードスーツの人物がいたのである。

「バウンティハンターの――オリジナルだと!?」

 メビウス提督は、加賀がバウンティハンターの便乗や偽者と考えていた。それは、アカシックレコードの記述を信じたからである。

『先ほどの言葉、そのままブーメランとして返しておく。アカシックレコードは、この世界の全てでもなければ予言書でもない。そして、炎上勢やまとめサイト勢の収入源になってもいけない物だ』

 バウンティハンターの声を聞き、メビウス提督は恐怖するしかなかった。そして、彼はバウンティハンターの放った必殺技の前に倒れた。



 同日午後3時30分、大和が施設の内部に入ると、加賀とすれ違いになったのである。

彼女の表情は、何か思う節があるような複雑な物だった。

「アカシックレコード、それが示す物とは何だろうな」

 加賀の一言を聞き、大和は何も答える事はしなかった。

彼女にアドバイスをしたとしても、それは意見の押し付けになる懸念もあったからだ。

それを踏まえ、現状で何か声をかけることは避け、今はアカシックレコードの存在に関して悩む時期だろう、と思っていた。

「超有名アイドル、私利私欲を持ったアイドル投資家や政治家――こうした勢力が現れた事、賢者の石と言われる超有名アイドル商法。関連性はあるのだろう」

 大和は再びアガートラームの声が聞こえたように思えた。

超有名アイドルが賢者の石とネット上で言われている超有名アイドル商法を確立した事、それが全ての元凶なのかもしれない、と。



 今から3年前にさかのぼる、草加市では町おこしという理由づけで風俗店等が締め出しをされると言う展開になっていた。

他の埼玉県外へ移転した業種もあるが、基本的には廃業が多かったようである。

アカシックレコードには、その辺りの記述が曖昧と言うのもあって真意不明だが――。

 しかし、記述が曖昧だったのには別の理由がある。

例えば、一部の政治家が利用していた店を特定されるのを防ぐ為、元アイドルがAV女優として店番をしている……。

一部勢力に知られる事で炎上のネタになると思われる記述は、意図的に曖昧な記述にしたり、真実を特定できないように内容を簡略化する等の処置がされていた。

そう言った物に限って、アカシックレコードと騙るだけのフィッシングサイトや炎上目的のまとめサイトと言うオチもある。

アカシックレコードを利用して暴露本を作って利益を得る等の利用が出来ないようになっているのも、こうした事情があるのかもしれない。

「3年前と言えば、西暦2015年辺りか。雑居ビルが一気に取り壊しされ、更地をARゲームのアンテナショップにする等の地方ニュースが報道されたのも、この時期か」

 加賀ミヅキはこの記述を例の施設で発見した。

そして、その真相を関係者に聞きだそうと考えたのだが、不発に終わる。

「申し訳ありませんが、今回の件に関わった人物は東京の方へ転勤となりまして――」

「その事業部の方でしたら、神奈川の方へ……」

「店舗スタッフなら、別の市に配属が変わったという――」

 関係する不動産関係やスタッフに尋ねても、このような返答ばかりで肝心の人物に合う事は出来なかったという。



 時間は若干戻して6月5日、思わぬ伏兵の出現がネット上で騒がれ始める。

ただし、本格的に名前が浮上するのは後の話と付け加えておく。

「ちょっと待て。あれだけのスコア……チートじゃないのか?」

「チートであればスコアの無効が表示される。チートと言うより、リアルチートだぞ」

「またもや店舗記録の更新をしたのか」

 周囲のギャラリーが驚くのは、あるプレイヤーに対してのスコアだった。

しかも、大淀はるかの店舗内スコアを破ると言うのは相当の実力と言える。

【まさか、このタイミングで山口飛龍か?】

【数日の修行で変わるようなスコアじゃないぞ】

【これがランカーの恐ろしさか?】

 コンビニでドーナツを片手にネット上のつぶやきを見ていたDJイナズマも、この展開はさすがに読めなかった。

山口飛龍、彼のスコアは途中から頭打ちと言う状況になっており、ハイスコアプレイヤー候補にさえ上がっていない。

その状況で、これだけの異常なスコアを叩きだせるとは……彼に何が起こったのか?

「使用ガジェットがシールドビットなのは変更点がない。あの武装は初心者救済的な部分も大きいが、あれでスコアを狙えるという事を証明する気なのか?」

 少し前に攻略ウィキにもシールドビットがハイスコア狙いのガジェットではない事は証明されており、それでハイスコアが出せると言うのは……。

しかし、チートを使用したり違法ツールやアプリを使った訳ではない。

使用すればどのガジェットでもハイスコアは上がるだろうが、それではシールドビットの能力証明にはならない。

では、どのようなトリックを駆使したと言うのか? イナズマは、同じ攻略ウィキで興味深い数値を発見した。

「なるほど。能力調整のアップデートか」

 発見した記事、それは少し前に行われたシステムアップデートの仕様リストである。

一部の武装ばかりが集中し始め、本格的な調整を始める下準備として行われた物だ。

このアップデートでは銃タイプのガジェットが下方修正を受け、特に経験値稼ぎのパターンが発見されていたハンドガンやバズーカ系の調整が行われている。

他にもバランスブレイカーとなるようなパターンが発見されたガジェットが、揃いもそろって下方修正されているのが目立っていた。

その一方で、シールドビットやナックル、ブーメラン等のプレイヤーが少ない武装が微調整で強化されている。

「道理でブーメランのプレイヤーが増え始めていると思ったら、そう言う事か」

 しかし、一部武装のプレイヤーが増え始めると、そこから調整が入る可能性があるのがミュージックオブスパーダでもあった。



 6月10日、遂にその時は来た。ミュージックオブスパーダのアップデートが行われ、スコアトライアルの告知も行われたからだ。

【1:スコアトライアル上位には決勝トーナメントへの出場権が与えられる】

【2:決勝進出は最大16名を予定しているが、予備メンバー枠を設ける可能性あり】

【3:外部ツール、違法アプリ、違法ガジェットの使用、スポーツ競技で指定されている禁止薬物は禁止。発覚時に失格処分】

【4:同様に大会中のARガジェットガイドラインに反した運用は、失格処分以外に永久追放の可能性あり】

【5:理論値に関しては、達成者が複数出た場合はスコアの審査に数日かかる場合あり。外部ツールの疑いがかけられる可能性もある為、本気を出しすぎないように】

【6:エントリーは1人1回まで。反則でエントリー解除された後に偽名での再エントリーやサブカードの使用は禁止】

 大まかなルールとしては、この6つが設定されている。他にも細かい物もあるが、それはエンジョイ勢やトーナメントに参加しないプレイヤーには意味がないだろう。

「どうやら、ルールの発表があったようだな」

「課題曲はエントリー受付日に改めての様だが……」

「受付は11日からか」

「課題曲と言っても、超有名アイドルの楽曲はないだろう。宣伝勢等が乱入して場を荒らしていく心配はない」

「しかし、それでも上位ランカー勢の独断場になる可能性は否定できないだろう。それとは別に目的がある可能性も――」

 ホームページ上のルールを確認しているユーザーからは、様々な声が聞かれた。



 同日午後1時、アンテナショップではARガジェットの調整を依頼するプレイヤーが長蛇の列を作っていた。

「現在、10分待ちです。ガジェットの調整には余裕を持って受付をお願いします」

 ガジェットの個人メンテは認められているが、本格的な調整となると専門家に見てもらった方が早い。そう判断したプレイヤーがアンテナショップへ駈け込んでいるのが現状である。

不幸中の幸いは、他のARゲームでイベントが行われていない事だろう。下手にイベントが被れば、30分待ちはザラだ。

「予選の開催は明日からと言うが、この混雑具合は――」

 アンテナショップへ入ろうと考えていた長門未来は、長蛇の列が入口付近まで到達している事に驚きを感じていた。



 同刻、ガジェットの調整を別のアンテナショップで依頼していたのはビスマルクだった。

彼女は草加市内では混雑すると予測し、足立区内の埼玉県ギリギリのアンテナショップへ足を運び、そこでガジェットの調整をしていたのである。

公認のアンテナショップであれば、どのエリアでメンテをした物でもルール違反にはならない。あくまでも、違法パーツやガジェット、アプリを導入する事が反則となるからだ。

「予選には強豪ランカーも参加するが、あくまでもトーナメント方式で進む訳ではない。他人のスコアを意識し過ぎて自滅……と言う事は避けたい」

 ビスマルクはマイペースを貫く訳ではなく、強豪ランカーは気になる一方で、それが影響してスコアを落としてはまずいと考えていた。

「同じように別のエリアでガジェットの調整をしているプレイヤーは多いだろう。駆け込みで調整をしたとしても、それは付け焼刃と変わらないと言うのに」

 同様にガジェット調整依頼をするプレイヤーに対し、ためいき交じりにつぶやく。どちらにしても、問われるのは練習の成果だからだ。



 同刻、現在使用しているガジェットが破損した為、ガジェットの選別をしていたのは大淀はるかである。

ソーシャルゲームの場合、ジャンルによってはアイテムを賭けると言う様な物もあるのだが……賭けバトルはどのような形であれ禁止されているのが現状。

その理由の一つが『ARゲームは世間一般のゲームとは概念が違う』と言う事らしい。何を指して概念と言うかは曖昧な記述ばかりで、正解がない。

【野球賭博的な物を悪と判定し、そうした物をARゲームで広げない為か?】

【ARゲームを五輪競技にでも導入しようと言うのか。さすがに、あの手のコンピュータゲームが五輪種目になるのには違和感しか――】

【大和杏もイースポーツ化しようと考えて入るようだが、五輪は言及していない】

【しかし、五輪にARゲームを正式種目にしても、金メダルを量産できるかは別の話。他の日本出身スポーツと同様な事になるのは目日見えている】

【どちらにしても、奏歌市がミュージックオブスパーダをどの方向で展開するのかが分かれば……】

 つぶやきを見ていた大淀も、ARゲームの五輪種目化は考え過ぎという思いがありつつも、運営側には何か狙いがあるのでは……という思いがあった。

「どちらにしても、こちらの意図とは違う意味で伝わっている可能性がある。今は、あのメッセージがどのような流れで拡散するのか、それを見極める方が先ね」

 彼女が選んだ新ガジェット、それはリニアレールガン。遠距離系武装は下方修正がされていない為、現状では有利に見えるのだが……それを扱えるプレイヤーは指折り数える程度だった。

実際、スナイパーライフルでも発射可能なのが1発単位の為、外すと致命的なのは目に見えている。

逆に短距離専用でも広範囲をフォローできるショットガン、複数ターゲットが可能なホーミングレーザーの方が遠距離系でも圧倒的にシェアを占めている。

そう行った背景がハンドガン系の弱体化の引き金になったという事になるのだが。



 同日午後2時、弱体化されたハンドガンから別の武装に乗り換えるユーザーが続出する中、ハンドガンでのプレイ動画を投稿する人物がいた。

【正気か? ハンドガンで、あそこまでスコアを取れる物か】

【弱体化したとはいえ、それは連射性能やパターン攻略に利用される部分だけ。射程距離を含め、接近戦武装にないアドバンテージは健在だ】

【それを踏まえると、このプレイヤー大移動はフジョシ勢力のジャンル大移動に似ているような物を感じる】

【そこまでは違うだろう。あれは単に男性アイドルグループのメンバーを題材にした夢小説を書こうとしても、それを訴えられるのが……という事情だ】

【近距離ガジェット、遠距離ガジェットで性能が違う部分もある。それに慣れるには時間もかかるだろう】

【単純に、大幅弱体化したハンドガン使いが、上方修正されたブーメランに乗り換えても……ハイスコアを数回のプレイで取れるとは限らない、そう言う事か】

 つぶやきの中には、弱体化したハンドガン系から弱体化が最低限の武装やブーメランに乗り換えたとしても……という意見が多かった。



 同日午後2時30分、さまざまなつぶやきが交錯する中、あるつぶやきが状況を一変させる。

【大和杏が別店舗のスコアを塗り替えたぞ。既に10店舗ほどは回っている計算か?】

 何と、大和杏が店舗遠征を繰り返し、スコアを次々と塗り替えていたのである。これに関してはネット上でも衝撃が走った。

「イースポーツ化までは実現させたとしても、五輪までは不可能だろう。それこそ、アイドル投資家の様な連中にビジネスとして食いつぶされる未来しか見えない」

 大和は次の店舗へ行く際、ネット上に出回っている五輪の正式競技としてのARゲーム及び音楽ゲームに関して疑問を持っていた。

おそらく、そこまでの拡散をアガートラームも望んでいない可能性はある。しかし、それらを警告するようなメッセージが聞こえる事はない。静観しているのだろうか。

「今は課題曲がどのような物になるか……見ものだが」

 課題曲の詳細を気にしながら、彼女はコンビニでチョコパフドーナツと言う珍しい物を購入する。

「アカシックレコードを利益至上主義型の投資家に独占させる事は、コンテンツ業界の終わりを意味する。過去にアカシックレコードが体験した超有名アイドル商法――それこそ、失敗の典型例か」

 飲み物の方はダイエット系のコーラだが、健康マークが付いているような物ではなく、単純にカロリーゼロの物のようだ。



 同日午後3時、ゲームセンターの方で別の交渉を行っていたのは南雲蒼龍だった。

彼は今回の予選には参加しない方向だが、狩りに参加したとしても予選免除は確実だろう。スタッフ的な意味ではなく、上位ランカー的な意味として。

「音楽ゲームもソーシャル化する時代が来たのか、それとも……」

 ゲーセンに置かれた音楽ゲームが閑古鳥になっている場所も存在するが、一部タイトルには根強いファンが付いているのが現実である。

それを見た南雲は、閑古鳥になっている音楽ゲームを唐突にプレイし始めた。彼がプレイしているのは、ソーシャル系でも見るようになったパネルをタッチするタイプの物。

「音楽ゲームの場合は楽曲に魅力がなくてはいけない。超有名アイドル楽曲だけのゴリ押しや、利益至上主義を狙う様なゲームでは、足元を見られるのは確定的に明らか――」

 南雲は音楽ゲームに関しては、自称研究家のような物ではなく……ある意味でも本物だった。

実際、自分の理想を追い求めた結果として、ミュージックオブスパーダを開発した位である。

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