第15話:大型アップデートへ


 6月1日午後1時、大和杏がグングニルでミュージックオブスパーダへ参戦している頃、山口飛龍はある動画をチェックしていた。

「メンテナンスも重要なファクターの一つと言うらしいが……」

 現実のゲーム筺体でもメンテナンスは重要な位置づけとなっている。

このメンテナンスに不備があるだけでスコアが変動し、ゲーセンへクレームを付けると言うケースも存在するからだ。

格闘ゲームでも対人戦で、わずかな動作ミスが致命的になる事も。

イースポーツの大会では違法改造がされていない限りはジョイスティックの持ち込みを認めるケースもある位、機器のメンテナンスは重要視される。

それらを踏まえると、ARガジェットのメンテナンスも重要な要素となるのは間違いない。



 山口が発見した動画、それは『ミリオンカスタマイズ講座』と言う物。ミリオンと言う単語には大きな意味はないが、これを抑えておけばカスタマイズの基本はフォローできるというのが動画説明文にも書かれている。

『まず最初に、ARガジェットを動作するのに重要なギアのカスタマイズから――』

 動画の人物は女性であり、科学者を思わせる白衣を着ており、何故か髪の色は黒。特に気にはならないが、微妙に貧乳が強調されているようだ。

『ギアのカスタマイズは公式ホームページにもあるが、こちらで調整する必要性は特にない。しかし、微妙なパラメータ調整に関してはオプションが設定されており――』

 次に画面に表示されたのは、《スピード》、《タイミング》という項目。

スピードは音ゲーで言う所のノーツが落ちてくる速度、タイミングは音ゲーで言う所のラインを意味している。

スピードを速くする事でターゲットが早くなる訳ではなく、曲のスピードによって速さが異なると言う物だ。超高速でターゲットが動き、何もさせてもらえないままにゲームオーバーと言う事はない。

『スピードに関しては、特に1で固定していても問題はない。最大で3まで調整できるが……敵に囲まれては適応できないという場合、3辺りにすると重装備でも囲まれにくくなる』

 囲まれにくいという事は、それだけフルボッコになる事も少ないという事らしい。スピードタイプではない場合、スピードを3にした方が有利になるとも言及していた。

ただし、自分のスピードが上がる訳ではなく……逆にリスクを伴う事も言及された。軽量タイプだと、速度3で速過ぎて対応できないというケースもある。

『タイミングは……これも最大3まで調整できるが、基本的には1でも問題はない。ギアのタイプやガジェットのタイプを見極め、それから調整してもよいだろう』

 タイミングはノーツをタッチするタイミングを任意で調整出来る物。本来、音楽ゲームはボタンやパネルをタッチすると言う行動をとるのだが、ミュージックオブスパーダは自動照準というシステムも実装されている。

つまり、ガジェット側でタイミングを勝手に調整してくれるというありがたい物……にも見えるのだが、マニュアルでタイミングを調整するという人物もいる。

慣れればオートよりもマニュアルの方がスコアが出るとの事だが……そこまでは解説動画でも言及していない。

『それと、ひとつだけ注意しておくが……アンテナショップや公式サイト以外で配布されているようなアプリは実装しない方がいい。ARゲームのアプリは公式で認められている物以外は、基本的に外部ツール扱いをされる――』

 この他にも外部ツールを使った際のペナルティ、ARガジェットの調整方法なども動画では説明されていたが、最後は決まって……。

『ARガジェットの解体を行うのは、違法改造と同義として運営に見られる場合がある。その場合は、アンテナショップへ事情を説明するなりして調整をして欲しい』

 どうやら、清掃目的でもガジェットの分解は認められていないようだ。

厳密には、ブラックボックスの解体に限定されるが……あの言い方だと分解しない方が良いという言い方だろう。



 結局、山口は下手に触るよりもアンテナショップで見てもらった方が早いと判断し、アンテナショップへガジェットを持っていく。

「これはパーツの消耗ですね。ARガジェットとはいえ、半永久的に使えるユニットもあれば、定期的に入れ替えが必要なパーツもありますので」

 シールドビットと言う特殊ガジェットと言う事もあり、ビットのスピードが通常の半分以下に落ちる事もある。そうした不具合は、基本的にパーツ交換の合図となっているらしい。

「何処かのゲーム機みたいですね……」

 山口は半分あきれ返りつつも、シールドビットをスタッフに手渡し、自分は別の動画をチェックしようと考え、センターモニターへ向かった矢先……。

「あれって、アガートラームじゃないのか?」

「アガートラームって、あのチート武器としてブラックリストに入りそうだった、アレか?」

「いっそのこと、禁止武装にして欲しかったが」

 周囲からは、そんな声が聞こえていた。

どうやら、アガートラームに関する話らしい。そして、山口がセンターモニターの中継映像を見ると、そこに――。

「あれは、大和杏?」

 モニターに映し出されていたのは、大和杏がグングニルでターゲットを的確に撃破していくという映像だった。

しかも、この曲はよりにもよって……。

「この曲は、南雲飛龍の――」

 ドラマティックトランスと言う名のSFとファンタジーが融合したような曲、3倍アイスクリームの空耳、ラストの連弾、イントロのボーカル――。

このパターンのトランスを得意とするのは、南雲蒼龍。

彼は、さりげなくだがミュージックオブスパーダに別の音楽ゲームで収録された自分の曲を移植していたのである。



###



 6月1日午後1時10分、山口飛龍はアンテナショップで大和杏の壮絶プレイに唖然とするしかなかったという。

「大和杏や長門未来の様なトップランカーに近い人物を参考にしても、自分では足元に及ばないのは目に見えている」

 山口は、プレイ動画で参考になりそうな物を探す一方で、大和や長門、DJイナズマのようなランカーのプレイは逆に参考にならないと切り捨てた。

その理由の一つとして、山口の技量的な問題もあった。

大和はARゲームを複数機種プレイしており、アガートラームのパワーもあってのプレイなのは……ネット住民の認識だが、山口も近い考えに至っている。

DJイナズマは、複数のARゲームとまではいかないが……知識量は他のメンバーにも劣らない物を持ち、プレイの方も上級者向けの譜面等に特攻せず、安定なスコアを出せる。

長門はランカーとしての実力を含め、ネット上ではリアルチートと言われる事もある。

「自分の技量に届かないプレイヤーの動画を参考にしても、再現度合いが低いとして非難される可能性もある」

 山口が彼らのプレイを参考にしないのは、たいていの動画視聴者がプレイの再現度を求めている関係で、非難コメントが増えると考えているからだ。

この考えがネガティブ思考と言われるのは百も承知であるが、それでも自分の技量に合うような動画を探していた。



 動画探しを決行して30分が経過した。

ガジェットの修理が完了するのに時間がかかると言う事で時間つぶし……と言うつもりが、気が付くとこちらがメインとなっている。

「見つからない」

 本業としてはこちら側ではないのに、気が付くと攻略動画を探すような勢いで動画を捜索していた。

仕方がないので、プレイ動画を断念して別の講座動画を探した結果……。

「さっきのカスタマイズ講座と同じ投稿者の動画か」

 発見した動画の内容を確認する前、投稿者の名前を見てカスタマイズ講座と同じ人だと分かった。

投稿者の名前自体は、見つけやすい所にあったのだが――見落としがあったらしい。



 動画の内容はスコアラー向けの物であり、エンジョイ勢やパフォーマンス勢にとっては無縁の物だ。

ハイスコアや曲埋めと言ったようなプレイをしていく内に壁が立ちふさがる……と講座でも言及されている。

そして、ハイスコアを求めたり上位ランカーを越えようと考えた結果、外部チートやツール、違法ガジェットに手を染めてしまう事に対しても警告をしていた。

その中で、白衣の女性は色々な事を言っていたような気がしたが、それらの話も耳を通り抜けてしまい、あまり覚えていない。しかし、その中で印象に残った一言もある。

『どんな手段を使ってでも……という考えに至るのは、ゲームである以上はゼロではない。これに関しては、もはや宿命だろう』

『しかし、それでも最終的な判断を下すのは自分自身であり……他人の意見ではない。人の意見やネットの流行に流されて自分の主張が出来ないと言う方が逆に懸念すべき事』

『過去に、さまざまなアカシックレコードで国会が非合法手段を使ってでも……と言うような考えを出したと書かれている物も存在するが、それも参考意見程度にしかならないだろう』

『私は色々とARゲームで思う個所あり、それらの壁を壊していく事が新たな一歩につながると考えている』

『ネットの波に流され、自分の意見を主張できない環境が生み出される事こそ、アカシックレコードも警鐘を鳴らしている事であると間違いない』

 アカシックレコードと言う単語を聞き、そう言えば……とバウンティハンターを山口は思い出していた。



 同日午後2時、アンテナショップでガジェットの調整を行っていた別の人物もいた。それは、信濃リン。

「上級ランカーに匹敵する実力……とネット上で言われているけど、大淀に比べるとオールラウンダーである以上は数段劣るのは事実ね」

 彼女はネット上で上級ランカークラスと言われていても、その実感は沸かないでいた。彼女は音楽ゲームを初めとして、複数機種を掛け持ちしているオールランダー。

それが意味する物とは、いわゆる一つの器用貧乏でもあった。知識量は他のARゲームプレイヤーよりも豊富な一方、他の機種もプレイしている為にオンリープレイヤーとの対戦では後手に回る事もある。

「私は、何を目指すべきだったのか」

 信濃は不正プレイヤー等を運営へ報告し、そこから得た報酬でプレイしているのも同じで、ゲームの継続プレイの為に不正プレイヤーを捕まえるバウンティハンターと同じ事をしていた。

ただし、本業バウンティハンターやビスマルクと違い、ランクは数段劣るのだが。

「運営サイドは一定の不正プレイヤーを把握しておきながら、放置しているようにも……この場合は、放置と言うよりも一網打尽と言うべきか」

 信濃はミュージックオブスパーダ以外の運営に不信感を抱きつつも、今は特に噛みつく事はしない。下手に抵抗すれば、今度はバウンティハンターを魔女狩りしかねない部分もあるからだ。

「貴方は、山口飛龍……?」

 カスタマイズを考えている途中、信濃は動画を検索していた山口と遭遇していた。しかし、山口は動画検索に集中しており、声を賭けたとしても気付く気配は見られない。

「どちらにしても、彼が自分のライバルになるとは――」

 ライバルになるとは思えないと断言しようとしたが、敢えて彼には言及しない事にする。一応、彼のモチベーションを奪うのはネット上で叩かれる可能性もあった為だが……。



 1年前、西暦2017年の事だった。

【CDチャートと言うよりは、株式の上昇銘柄ランキングだ】

【どれも超有名アイドルか……アイドル投資家というのは現実にいたのか】

【ランキングに関しては中立組織と思っていたが、この調子だと超有名アイドルの宣伝を目的とした組織と言われてもおかしくない】

【一部の過熱し過ぎたファンによる行き過ぎた行動……実際に海外で炎上していると予想出来たか?】

 上半期のCD売上ランキングにおいて、そのほとんどが超有名アイドルの楽曲で占められるという事態が起きた。

これに関しては国内のつぶやきサイト上でも炎上し、海外でも……。

【日本は超有名アイドル帝国とでもいうのか?】

【まるで、超有名アイドルが全ての実権を握っているディストピアだ】

 こうした意見が大半を占めており、この議題は何と国連でも取り上げられるという事態に。

【特定の芸能事務所から献金は受けていないと否定しても、この状況では火に油を注ぐ事になる】

【これは、真相を究明するべきか】

 芸能事務所からの献金を受けていないと政治家が否定しても、マスコミは献金しているという虚構を広めている。

これによって、最終的には政治家が芸能事務所から献金を受けていると認めさせるという物だが……こうした行き過ぎたマスコミの行動は、思わぬ展開を生み出す事になった。



 2017年夏頃、有明で行われる漫画やアニメのイベントを前に別のアイドルイベントが行われた。このイベントは3次元アイドルをメインとしたライブイベントなのだが……。

「○○党へ献金したと週刊誌に報道されている件は、どう考えていますか?」

「政治献金は与党全て、それも1兆円規模と言う噂は本当ですか?」

「アイドルグループを政界へ進出させて『アイドル政治家』にするという計画は本当ですか?」

 マスコミの言っている事も支離滅裂で、おそらくは週刊誌報道もネットのまとめサイトや炎上ブログの記事を事実確認せずに掲載した結果、このような報道になっているのだろう。

このイベントに関しては中止になる事はなかった、こうしたマスコミ対応が一部のアイドルファンに深い傷を残し、それのごく少数が反ARゲーム勢力などになったとも言われている。



 その後、有明で大規模と言える漫画・アニメ等のイベントが行われた。このイベントは夏・冬の2回が行われ、10万人規模を動員しているという話だ。

しかし、今回に限っては空気が違っていた。先日のアイドルイベントにおけるマスコミ対応もあり、一部の漫画・アニメ系サイト以外の取材を拒否したのである。

マスコミが聞きたがっている話を考えると、運営側の判断は妥当なのだろう。それを踏まえ、来場するお客等に関しても注意喚起が行われ、マスコミへの取材を受けないようにする等が徹底された。

厳戒態勢であるというマスコミの事前報道等に反し、実際の会場は盛り上がっていたというのが来場者のコメントである。

コメントに関しては、一部の超有名アイドルファンやアイドル投資家に対しての意見を封じ込めるという説もあるが……真相は不明だ。



 2018年、ARゲームが今まで以上のブームとなり、ミュージックオブスパーダの登場で盛り上がった頃も超有名アイドルによる妨害行為等は報告されていた。

中でも、山口飛龍を襲撃したアイドルファンに関してだが……一部は間違いなく超有名アイドル投資家だったらしいが、一部の人物は違う勢力と言う情報も拡散している。

果たして、この世界では超有名アイドルは闇の勢力であるのか……その真相は、アカシックレコードしか分からないだろう。



 6月1日午後1時30分、大和杏は一連のアカシックレコードを見て、本当に真実が書かれているのか……と若干の疑問を抱いている。

「周囲を見ても、政治色が強いマスコミや観客はいない。締め出しを受けている訳ではなく、あえて近づかないようにしたか……」

 プレイ終了後、大和は一連のアカシックレコードを確認しつつ、ミュージックオブスパーダからは超有名アイドルや政治家勢力は撤退していると確信していた。



 6月2日、ある発表がミュージックオブスパーダ公式ホームページで行われた。それは、大型アップデートである。

アップデートの内容はバグ修正や各種微調整等がメイン、それ以外にも新曲が解禁となるようだ。

【隠し玉は、没になっていたデュエルモードか?】

【1対1のモードは他のARゲームで既に使われている。下手にかぶせる事はしないだろう】

【バグ修正は……そうと見せかけたチートやBOT対策か?】

【ARゲームにBOTという概念はないだろう】

【むしろ、問題視すべきは微調整で下方修正される武装が、チートプレイヤーが悪用していた部分が強い物ばかりだ】

【まるで、チートプレイヤーに対する当てつけにも見える】

【しかし、ARゲームのイースポーツ化が進めばBOTやマクロソフトで不正に利益を得ようと言う存在も出てくる。それだけは、阻止をしなくてはいけない】

 運営が未知数の強敵と考えているのは、チート行為で不正な利益を得ようとする勢力のようだ。

ステマやアフィリエイトによるまとめサイト、詐欺メールの拡散に出会い系サイト……闇サイトがアカシックレコードの影響で摘発されているとも知らず、こうした犯罪は後を絶たない。

それに加え、超有名アイドルファンが過激派組織等にも協力を要請し、他のコンテンツを潰そうと言う空気さえも……ARゲーム特区では許されない。

流血を伴うシナリオ、それは全世界のリセットと言う桁はずれな野望を持った超有名アイドルプロデューサーが抱いた野望でもある。

そうした野望がアカシックレコードを通じ、全世界に明らかとなった事で超有名アイドル商法は衰退したと言っていい。

「理想は理想。アカシックレコードに書かれている事は、紙の予言でもなければ超能力でもない。どういう解釈が、人を暴走させてしまうのか」

 草加市の一歩手前、足立区側の歩道で足を止めている人物がいた。厳密にはARアーマーを装着しており、素顔も全身像もバイザー等で隠されていて、文字通りの謎の人物である。

この人物の声はボイスチェンジャーを使用しておらず、普通に女性の声だが……ボイロソフト等でメッセージを代わりにしゃべらせている可能性もあった。

あるいは、この人物自体がARゲームで使用されるアバターなのか?



 この人物を別のエリアにあるファストフード店の2階から見ていたのは、DJイナズマである。

実は、ミュージックオブスパーダと似たようなシステムを持った音ゲーが稼働したと聞き、近くまで立ち寄ったのだ。

「なるほど。ARガジェットを扱うのも同じと言う事か。それでもそのままではないのは――」

 イナズマはこの人物が草加市エリアへ足を踏み入れ、近くのエリアまで立ち寄り、そこで音ゲーをプレイする様子を確かめる事にした。



 ミュージックオブスパーダとはシステムが異なるこのゲームは、アンノウンが上空から姿を見せるタイプの様だ。

そこだけが違うかと言われると、この人物が使用している武装も遠距離型のスナイパーライフルで、向こうでは実装されていない物。

大きく違うのは、それ以上にキー音と言う概念がある事だった。

キー音、それは楽器を演奏すれば、その音が出る。音楽ゲームの場合、それで演奏している事を感じる事が出来る。

作品によっては別の音をかぶせて擬似的なキー音を作成したり、キー音なしと言う音ゲーも存在するのだが……キー音なしは色ロト言われていた過去があり、あまり良い印象を抱かないユーザーも存在する。

「キー音が実装されたARゲームと言うのも……と思ったが、音楽演奏系はキー音実装が基本か……?」

 ここでイナズマはある疑問を抱いた。音楽ゲームなのに、ミュージックオブスパーダに足りない要素、それに気付いたのだ。

「さて、運営がどのように動くのかどうか」 

 このシステムをミュージックオブスパーダで導入すれば……とイナズマは思ったが、あちらはオートターゲット等の部分で差別化されている。

「似たようなゲームが出れば、クローンゲームが次々と生み出される可能性があると言う宿命もある」

 同じく、このゲームを見に来ていたのは加賀ミヅキである。今回は別のARゲームをプレイする予定があった為、インナースーツを装備している状態だが。

「見えない敵との戦いは、自分も同じか」

 加賀が戦う見えない敵、それはミュージックオブスパーダ以外のARゲームにもあるのだろうか……。



 6月3日、アップデートに関する追加告知があった。

どうやら、新曲が追加されるらしい。しかも、その半数がオリジナル楽曲、もう半数は……。

【同人音楽ゲーム楽曲が本家進出と言う話は聞いていたが、まさかミュージックオブスパーダにも来るとは】

【あのシステムでプレイする以上、版権曲……超有名アイドルの楽曲は使えないだろう。遊戯都市奏歌が超有名アイドル関連で規制をしている限り】

【超有名アイドル規制法案……他のアカシックレコードで書かれているような架空の存在かと思った】

【その昔、超有名アイドルの暴走を止める為の手段として用意されたのが規制法案らしい】

【超有名アイドルファンは、自分達の応援しているグループ以外はありとあらゆる手段を使って他のコンテンツを排除と言う動きを見せていた】

【他のコンテンツ排除に大量破壊兵器を使うと言うのか? それはテロ活動と誤認識される】

【そんな事をすれば大きな事件となり、アイドルグループが解散に追い込まれる。彼らが主に使うのは――】

 何度も言及されたような超有名アイドル規制法案、その話題が出る度に特定のキーワードが削除されていた。おそらく、それを悪用する勢力が現れるのを懸念しての事だろうか。

アカシックレコードの超技術がダイナマイトの様に本来の用途と異なる悪用がされないとは断言できない。つまり、超有名アイドルが自分達のコンテンツ以外を排除しようと利用したのは……。



 同日、長門未来はアップデートの新曲リストに気になる曲名を発見した。あの曲が来るとは……と言う意味でも。

「あの曲が収録されるのか……発狂譜面が脅威と言われた、あの曲が」

 長門は過去に音ゲーランカーと呼ばれる前、この曲にトライした事があった。それは、四次元とも言われたあの曲である。

「超有名アイドルの楽曲をゴリ押しするのも問題ありだが……あの曲が受け入れられる環境なのか?」

 彼女の懸念する事は、この曲がミュージックオブスパーダのプレイヤーに受け入れられるかどうか……と言う部分。

それ以外にも懸念事項は存在するが、それはミュージックオブスパーダにとっては無縁の話だ。別の音楽ゲーム――超有名アイドルのゴリ押しをしている作品であれば、話は別だろう。

「アカシックレコードの懸念している世界、超有名アイドルコンテンツのみしか存在しない暗黒世界……それを現実化させない為のアカシックレコードだが」

 更なる懸念はアカシックレコードが記した警告とも言えるメッセージ、超有名アイドルコンテンツのゴリ押しだけの世界……それが生み出す悲劇は火を見るよりも明らかである。

それとは別に何度もアカシックレコードの予言が現実化した事もあった。別の地球、別の次元、あるいはメタ的な意味での地球。

「それさえも切り崩せる手段は複数あるが、力技を使うのも問題がある。大淀の取った手段は強硬手段に近いだろうが」

 大淀はるかが取った手段、それはアカシックレコード的にも似たような強硬手段に出た人物が記されている。

「しかし、この様な手段に出ても無尽蔵な資金源を持つ……賢者の石を持った芸能事務所に勝てるかと言うと疑問があるかもしれない」

 長門はパソコンを眺めつつ、現状を整理していた。 アカシックレコードの技術を利用する事で、何とか現状を変えようとしていた遊戯都市奏歌だが……。



 同日、草加市役所近辺の会議室、そこには今回の町おこしを考えたスタッフが集まっていたのだが……。

「超有名アイドル勢の締め出しには成功したが、予想外の事が起こりつつある」

「音楽ゲームで町おこしをするはずが、税収も思いのほか上がっていないと聞く。以前の計画の方が成功していたはずだ」

「あの計画はアカシックレコードを我々が知らなさすぎた事が、運営の暴走を招く事になり……最終的にはコンテンツの1つを壊滅危機に追い込んだ」

「アイドル絡みであれば、超有名アイドルと同様に潰すべきだったのでは? ビジュアルバンド系BL勢を便乗で駆逐寸前まで追い込めたのは大きいかもしれないが」

「あちらは超有名アイドルの様なゴリ押しは行っていない。それに、専業アイドルとアイドル声優をカテゴリーでまとめてしまえば、苦情が殺到するだろう」

「ビジュアル系や有名男性アイドルのBL勢は、別の勢力が水面下で攻撃を仕掛けていると聞く」

「姑息な手段で潰したとしても、ブーメランするのは明白だ」

 スタッフの議論は平行線であり、アカシックレコードを甘く見ていた事が前回の失敗につながったのに、それを引っ張っているようにも思える。

白熱した議論は遂に超有名アイドルを物理的に潰すべきと言う極論に至ろうとしたが、ある人物が一喝して今の極論を却下する。

「私としては、超有名アイドルを潰せば全てが終わる……とは考えていなかったのですが、この辺りは反超有名アイドル勢力にでも任せますか?」

 極論を却下したのは、メビウス提督だった。何故、彼が草加市の議員や委員会とパイプを持っているのかは定かではない。



 草加市役所近辺の会議室に集まったスタッフは今後の展開を考えていた。

しかし、話は平行線をたどり、遂には……。

「超有名アイドルを抑え込むことは出来ないだろうか? アカシックレコードの技術で」

「アカシックレコードでも限度はある。大量破壊兵器を開発する事はガイドラインでも禁止されていたはずだ」

「しかし、超有名アイドルの暴挙はとどまる事を知らない。1年前の事件では小規模活動程度で終わっていたようだが……」

「いっそのこと、アカシックレコードとは違った兵器を利用して――」

 あるスタッフの極論とも言うべき意見に対し、一喝したのは会議に足を運んでいた背広姿のメビウス提督だった。

「大量破壊兵器を使えば、周辺諸国は紛争の火種として日本を集中的に叩くでしょう。それは、日本政府としても望まないはず」

 彼の口から出た言葉は本心と言う訳ではないが……一般論と言う訳でもない。アカシックレコードの技術を軍事転用を、禁止している事に対しての発言である。

「確かに日本政府から経済特区の支援金を含めた援助が止まるのは、現状の聖地巡礼が活発になっている今のタイミングでは悪すぎる」

「聖地巡礼以外でも太陽光を含めた発電技術の特許、ARゲームのコンテンツ使用料――それらが全て没収されるのは、減税的な部分でも危険だろう」

「それらの収入が止まれば、草加市の市民税を大幅に上げなくてはならない。それこそ、1年前の悲劇を再現する事になるだろう」

 彼らの言う1年前の悲劇とは、ARゲームとは違う技術で開発された体感型ゲームを巡り、その技術を手に入れようとした一部の勢力が乗り込んできた事である。

最終的にはARゲームランカーやアキバガーディアンの手助けで事件の首謀者は拘束されて、事件は解決したのだが……。

この事件に関しては当事者が機密事項という理由を付けて喋らない為、ネット上で嘘の噂が拡散する事になっている。

「私としては、超有名アイドルを潰せば全てが終わる……とは考えていなかったのですが、この辺りは反超有名アイドル勢力にでも任せますか?」

 メビウス提督の発言を聞き、スタッフは冷静になった。反超有名アイドル勢力のような危険指定されているような団体に任せれば、事態はさらに悪化する事は避けられない。

「遊戯都市化が悪い結果に終わる事は……以前の事件という反省点を生かせなかった、とマスコミに叩かれかねない」

「それ以上に懸念するのは、遊戯都市化の影響で他県へ分散する事になった事業等の反発だろう」

 今回の遊戯都市化は風俗に代表される青少年に悪影響が出るとされる事業者等を、全て他の埼玉県内や他県への移動を指示している。

それ以外にも、この計画に便乗して警察へ暴力団の追放を指示し、草加市内にある事務所の95%以上を摘発していた。

これらの行動に関しては振り込め詐欺などを含めた犯罪で逮捕……という事にはなっているが、実際は遊戯都市化やARゲーム専門のゲームセンターへの建て替える為の土地買収とも言われている。

暴力団等が摘発される事に対しては歓迎する住民がいる一方で、遊戯都市化やARゲームに関しては反対している住民も存在する。

こうした住民によるデモ活動が皆無という訳ではないが、この動きをスタッフは未把握と言う訳でもないらしい。

「我々としても、ARゲームに対する風当たりがどうなるかは不明だが……」

「現状としては市民の不安を何とかして解消し、ARゲームへの風当たりを良くすることだ」

 最終的な結論としては、ARゲームに対する市民の不安等を解消する事に関しては一致し、その部分以外は先送りされた格好である。



 6月6日、メビウス提督はある場所へと情報を発信しようと漫画喫茶に足を運んでいた。

ARゲーム特区でもある草加市では漫画喫茶内でもARゲームのモニターを設置して動画を視聴したり、データベース検索も可能になっている。

ただし、草加市と奏歌市では色々な部分で異なる個所も存在。後者の方は1年前の事件では影響のないエリアであり、前者は1年前の事件の影響をダイレクトに受けた場所でもあった。

「準備の方は整った。後は、向こうの反応――?」

 漫画喫茶を出た所で遭遇したのは、青いインナースーツとARアーマーを装着している人物。先ほどのデータベースにあった、スカイエッジだろう。

『メビウス提督、ここで何をしている?』

 ボイスの方は若干の加工がされているようだが、彼には聞き覚えのある口調でもあった。

「1年前、ARゲームを巡る事件で暗躍した人物、そのアバターを真似るとは。趣味が悪い」

 スカイエッジに対し、メビウス提督は一気に機嫌が悪くなっていた。1年前の事件を再現しようとでもいう様な姿に対し、悪趣味だと。

『しかし、その1年前に状況の悪化する事を把握しておきながら、スルーを指示したのは誰だ?』

「あれは政治家連中の選挙活動に悪用されるのを防ぐ為だ。ARゲームは選挙活動の道具に悪用されるべきではない」

『それに関しては否定しない。ARゲームの技術は共用されるべき存在であり、何処かの企業や芸能事務所が独占するべきものではないだろう』

「あの大量破壊兵器を連想させるようなガジェットを表に出した結果、国際情勢が悪化し、その火消し等でネットまとめサイトや炎上系つぶやきまとめ等がぼろ儲けする事態にも――」

『それは結果論だ。どちらにしても、夢小説勢や超有名アイドル投資家がARゲーム批判を展開するのは目に見えている。それはアカシックレコードにも記述された事実』

「アカシックレコードは歴史の無駄な繰り返しに対して、警告を続けている。超有名アイドルが無限の利益を得るようなサイクルはあってはならないのだ」

『だからと言って、反超有名アイドル勢や夢小説勢が超有名アイドルファンとの同士討ちを演出するのは……そちらの方が悪趣味だろう』



 2人の話は続く。その一方で、アキバガーディアンの情報班と思われる人物がタブレット端末を上手く使いこなし、アカシックレコードの調査を行っていた。

「お話し中申し訳ありませんが、これを――」

 男性スタッフの一人がスカイエッジにタブレット端末に表示された情報を見せる。

そこには、夢小説勢とフジョシ勢が実在ビジュアル系バンドのBL小説を裏サイトではなく表サイトに堂々と掲載している等のニュースが掲載されていたが――。

『メビウス提督、アカシックレコードに何をした?』

 冷静な口調だったスカイエッジも、今のニュースを見たとたんに落ち着いていられなくなっていた。それ位に衝撃が大きいニュースだったのだろうか。

「別の小説サイトに非BL作品のBL化させた夢小説やSSを投下し、それらがランキングを独占していく……アカシックレコードだけでなく、現実でも存在する手段のひとつですよ」

『お前が、何をしたのか分かっているのか? 炎上ネタを自らの手で提供したのと同じだぞ!』

 スカイエッジがショートソード型のARガジェットをメビウス提督に突きつけるのだが、それで切りつけるような動作はしない。あくまでも威嚇である。

「スカイエッジ、貴方は一番重要な事を忘れている。ARガジェットで殺傷行為、犯罪行為、テロ行為等行えば……アカウントの抹消だけではなく、永久追放も避けられない――」

 メビウス提督はスカイエッジを逆に煽っている。まるで、ワザと自分を斬りつけるように仕向けているようだ。

『確かに、お前の言う通りだ。ARガジェットを犯罪行為で使えば、永久追放は免れないだろう。しかし、特例も存在するのは知っているはず』

 スカイエッジが距離をとり、複数のガジェットコンテナをARガジェットで読みだす動作をするまでの間、わずか10秒。しかし、その間にメビウス提督の方も武装を用意する時間があり、何かの超兵器を呼びだそうとしたようだが、転送までに2分と言う表示がされ、間に合いそうにない。

「特例か。確かにアカシックレコードの存続危機に至る案件が起こった場合、その相手を拘束する為――ハッ!?」

 メビウス提督が気づいた時には、既にスカイエッジが臨戦態勢に入り、複数のビームダガーを投げつけていた。どうやら、呼びだしたガジェットは早いタイミングで呼び出せる武器に絞り込んだらしい。

その内の数本は何とかバリア等で対応したのだが、最後の1本は避けられるかどうか――。手持ちのガジェットで弾き飛ばそうとも考えるのだが、その考えは甘い物だったかもしれない。

『気づくのが遅かったようだな』

 スカイエッジは既に勝ち誇っている。逆にメビウス提督は勝ち誇りがいわゆる負けフラグだと言い返そうとしたが……結果として、裏目に出る。

「馬鹿な――スカウトナイフとでも……」

 ファンネルの様なものではなく、ビームダガー自体にビームガンの機能を持たせたような物……それをメビウス提督に命中させる。

スカイエッジが投げた物、それは類似武器にスカウトナイフがある。しかし、ギミックとしては別の武器を参考にしたのかもしれない。

『メビウス提督を拘束してください。彼がダブルスパイなのは――』

 その一言を聞いたメビウス提督は、最後の力でハンドガンタイプのガジェットでスカイエッジの死角から攻撃を仕掛けようとするが、それが命中する事はなく、そのまま気絶をした。最後の一言を残して……。

「明石、春――」

『私は明石春ではない。仮に同じ名前を持っていたとしても、お前が思っている人物ではない』

 明石春、それがスカイエッジの正体なのかは不明であるが、最低でもメビウス提督は1年前の事件に関係した明石なのではないか、と考えていたらしい。

しかし、スカイエッジは自分が明石ではないと否定をする。厳密に言えば1年前の事件に関係がある明石春がスカイエッジなのではないか、と。

『イースポーツランカー……その称号は過去の物に過ぎないと同時に、ミュージックオブスパーダでは知名度上昇の理由にもならないだろうな』

 そして、スカイエッジはバイザーをオープンし、気絶したメビウス提督の姿を確認する。

その素顔は、黒髪のショートヘアに、いわゆる萌え系とは程遠いようなクールビューティーを思わせた。

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