第14話:激戦区の予感(その2)

 5月30日午後1時、DJイナズマはテレビのニュースでも相変わらずの超有名アイドル特番ばかり……その中で、あるネット記事を発見した。

「南雲蒼龍、音楽ゲームのイースポーツ化を考えている勢力の一人としては、そのカリスマ性は文句なしか」

 彼の見ていた記事、それはエンターテイメント系のサイトで掲載されていたコラムの一種だった。

 その内容は、南雲蒼龍が音楽ゲームの現状について語る物であり、どうやらミュージックオブスパーダの特集に付属するような形で掲載されたらしい。

『自分がミュージックオブスパーダで運営のポジションにいるからと言って、トップランカー確定と言う話も浮上しているが……それは間違った認識でしょう』

『トップランカーになるにはスコアも条件に入りますが、それ以上にトップランカーとしての実力が伴わないといけない。心技体が揃っていないと、ランカーになる事は出来ない』

『楽してランカーになろうと考えている発想、それは止めておいた方が良いと思います。そう言った人物が、違法チップやガジェット、外部ツールに手を出し、優越感に浸ろうとする――』

『格闘ゲームと違い、攻略法がある程度は縛られてくるのも現実にありますが……それをチートでカバーしようと言うのは間違っています。リアルチートは別格ですが』

『攻略法の情報交換は自由としていますが、さすがに外部ツールや違法なチートは犯罪行為に等しいです。そして、そうした勢力に限って……反ARゲームを訴え、コンテンツ業界を混乱に陥れる』

 他にも様々な事が書かれていたが、イナズマにとって有益な情報はごくわずかだった。

 ミュージックオブスパーダプロジェクトの立ち上げ、アカシックレコードとの関連、そう言った物を探っていた彼にとっては空振り――。

『……自分としては、一時期流行したソーシャルゲームのカードバトルみたいなテンプレとしての音楽ゲームは、ちょっと違うと思うのです』

 イナズマは、このやりとりに対して別の驚きを抱いた。音楽ゲームであれば、流行するのは歓迎ムードというような思考を持っていると思ったのだが、実際は違うようだ。

『確かに、ここ最近と言うか数年前のリズムゲーム大流行は驚きました。しかし、それはカードゲームの様な課金要素やコンプガチャ等が問題視され、それを回避する為の手段として……』

『リズムゲームが流行するのは、こちらとしても歓迎すべきなのですが……あの時の様な一種のテンプレ作品が流行してしまうのは、こちらとしても歓迎するべきではありません』

『自分としては夢小説の流行テンプレがブームになり、それが一斉に叩かれるような状況に音楽ゲームが置かれるのは我慢ならない』

『自分が目指す音楽ゲームは、格闘ゲームやFPS、MOVAに代表される様なイースポーツのメジャージャンル入りする事です。テンプレ化されたリズムゲームが一過性のブームとして存在するような事では、それも実現できない』

『自分は、そうしたコンテンツ業界のお約束と言うかご都合主義、大人の事情を打ち砕く……その為に奏歌市の町おこしにも参加し、今回のミュージックオブスパーダを計画しました』

 この記事が掲載されたのは、ミュージックオブスパーダのオープンロケテストが行われた辺りとされているが、日付改竄の可能性もあって……その詳細は不明である。

「南雲蒼龍、あの人物の考えは別の意味でも本物だ。自分があのコンテストへ応募する事にした時とは……」

 山口飛龍はふと考える。あの時に見た南雲の目は……確かに何かの覚悟を決めているようでもあった。

 それに加え、彼が使用していたARガジェットも今を考えるとワンオフ系であり、大和杏の使用する物と類似するものの可能性もある。

 しかし、山口は大和の使用しているガジェットがアガートラームとは気づいていない。おそらく、本人とアカシックレコードを見たごく少数のみが知っているという事だろう。

「ミュージックオブスパーダの本当の狙い、それは何だろうか」

 山口はアカシックレコードの詳細を知らない為、一部の事では知らない事が多い。

 南雲の真相を知る為にも情報が足りない。ネット上の情報が真実を語っているとは限らない為か、この辺りのさじ加減は難しいのだろう。

 大和の方はミュージックオブスパーダの作られた理由はどうでもよいとまでは言わないが、あまり興味はない。

 あくまでも、音楽ゲームのイースポーツ化がメインなのだろう。

「トップランカーの長門……それよりも、警戒すべきは魔女狩りの連中か」

 大和はアガートラームを見つめ、自分が背負った運命の重さを感じていた。ただし、ガジェットの重さは1キロ未満であり、物理的な重さは皆無と言ってもいいだろうか。

「一つの敵を倒せば、更に強大な敵が出てくるのはバトル物でもお約束。次に出てくるのはビジュアルバンド系のBL勢力か、それとも反ブラウザゲーム勢力か……」

 半分は冗談に聞こえない大和のつぶやきだが、当たらずも遠からずだったのは……本人も敵に遭遇するまでは分からなかった。



 6月1日午前11時、山口飛龍はインターネットであるコンテスト記事を発見した。

「音楽ゲームへの楽曲募集か……」

 それは有名音楽ゲームの楽曲を広く募集すると言う物である。

 プロアマ問わず、インスト曲かボーカルありのどちらかで応募する事になるのだが――。

 唯一のルールがあるとすれば、創作オンリーである事が主催者から求められている位だろうか。

 既存楽曲のアレンジは応募不可、その中にはクラシック曲も含まれている為、オリジナリティをどれだけ出せるかどうかが求められている。

「今の自分にとっては〆切を考えると難しいか」

 〆切は7月末日、今から2カ月程か。

 既存楽曲アレンジの応募不可に関しては、どのような意図で追加されたのか……山口には大体の察しはついている。



 同時刻、あるコンテストに関する話題がネット上の一部で話題になっていた。

【新人作家限定のコンテストか……】

【超有名アイドルの楽曲コンテストは、どう考えても芸能事務所側の仕込みがあったからな】

【向こうは仕込みを否定しているが、山口飛龍が襲撃された件は未だに公表もされていない】

【つまり、奏歌市で襲撃した事には理由があった?】

【音楽ゲームで言われているチート勢、いわゆるランキングキラーは和尚プレイをしている噂もある】

【ランキングキラー? 唐突に話題が変わったな】

【しかし、ランキングキラーの話題はコンテストに無関係とは限らない。彼らはランキングという存在に現れては超有名アイドルを集中的に推し、宣伝料を芸能事務所からもらっているという噂だ】

【そこまでの連中が、楽曲コンテストに何の関係が?】

【参加条件を踏まえると、適当な人物に自分達が作曲した超有名アイドルの楽曲で使用予定だった没曲を渡し、それをコンテストに応募し――】

【それって、ゴーストライターじゃないのか?】

【今でこそ落ち着いているが、当初の超有名アイドルは自分達の楽曲知名度を上げる為ならば、どんな手さえも使った】

【それこそ、ネット上で吐き気を催す存在と言われるほどに?】

【否定できないのは悔しいが、その通りと言わざるを得ない】

【しかし、このコンテストは音楽ゲーム……それもフリーゲームの物だ。そこまでやって、超有名アイドル側に利益があるとは思えないが】

【そこまでして超有名アイドルは何をする気なのか? まさか、マインドコントロールでも行うのか】

【マインドコントロールは飛躍しすぎだが、超有名アイドルの存在に疑問を抱けば逮捕と言うディストピアはあり得そうだ】

 その後も話は平行線となったが、この話題が大きく拡散する事はなかったと言う。



 同時刻、あるプレイヤーのプレイが注目を浴びていた。その人物は、過去にも様々な音楽ゲームで名前を目撃したという事例がある、あの人物だ。

【DJイナズマ……遂に参戦か】

【参戦が遅かったというよりは、今までが注目を浴びなかっただけ。彼は稼働初日から参加している】

【では、今まで姿を見せなかったのは?】

【プレイ動画をアップしているプレイヤーだけを注目した結果、こういう弊害も起こる】

【実際のプレイヤー数としては10万人を超える可能性もあるという話、それは真っ赤なウソと言う訳でもないか】

【まとめサイトしかチェックしないような情報弱者では、隠れた強豪ランカーは見つけられない。それが逆に――】

 まとめサイトやつぶやきサイト等しか頼らず、それらを鵜呑みにしてしまうような勢力には見つけられない存在もある。

 それがDJイナズマや一部の強豪ランカー、更には別勢力を発見できずにいると言う弊害が起こっていた。

 自分に都合の悪い部分を削除し、情報を歪めて配信し、超有名アイドルの芸能事務所から謝礼をもらうようなサイトは過去には存在していたようだが……それらは奏歌市からは排除されている。

 その最大の理由は、奏歌市が超有名アイドルの芸能事務所や関連会社と敵対するような形で誕生した経緯もあるらしい。

 残念ながら、それらの情報ソースは存在する事は存在するが、正確な情報は存在しない。



 西暦2017年、超有名アイドルファンを騙る投資家ファンが増加し、CDランキング等が超有名アイドル関係で無双された時があった。

 ランキング荒らしという言葉ですら生ぬるい……つぶやきサイト上では、その認識で統一されていた。

【そう言えば、草加市が超有名アイドル関係の会社からは投資を受けないという町おこしをやるらしい】

【町おこしと言うか、草加市が考えているのは経済特区だろう】

【一体、何の特区をやるつもりなのか? せんべいでは単純すぎるが……】

【草加市で特徴あるような物をアピールする方式ならば、過去にも事例は存在する】

【もしかすると……別の分野で経済特区申請をする可能性もある】

【そう言えば、太陽光パネルや一部施設は経済特区とは別扱いで展開されたと聞く】

【そうなると……何で経済特区を?】

 経済特区の詳細が発表される前、このようなやりとりがつぶやきサイト上で展開された。

 そして、正式発表が行われたのは6月の事だった。

『我々は既に数社のゲーム会社と提携しており、水面下でゲームに関係した経済特区を発表する予定です』

 ニュースでも話題になっただけに、ゲーム分野での経済特区には賛否両論となった。

 ゲーム脳やコンプガチャの問題もあるだろうが、それ以上に今回の発表は各分野に波紋を呼ぶ事になる。

「これは、一体どういう事ですか?」

 このニュースを見ていたゴッドオブアイドルのスタッフは、ある人物に抗議をしていた。それは、超有名アイドルの芸能事務所社長である。

「草加市の発表した経済特区、こちらの忠告を無視した物であるのは間違いないだろう」

 社長は草加市に忠告をしたのだが、会見での発表は間違いなく忠告を無視した物であるのは疑いのない物だった。

「草加市が該当部署に出した書類によると、太陽光パネルを含めたエコ発電プランと書かれていた。それは、こちらでも確認しているが――」

 社長の持っていた資料、それは社長の権限で取り寄せた草加市の経済特区構想を記した書類である。この段階で、既に超有名アイドルが日本をどれだけ私物化しているかが分かるだろう。

「何としても、草加市に対して早期に制裁をする必要性がありそうだ――」

 この制裁こそ、後のランキングキラーを生み出すきっかけとなった特殊部隊だったのである。



 西暦2018年6月1日午前11時15分、謎のフードを被った集団が草加駅近辺に姿を見せた。

 それは、ARゲームとは無縁と思われていたのだが……。

「狙いは、こちらと言う事か」

 別所のロケテストを視察に行く途中だった南雲蒼龍は、背広と言う営業スタイルの為にARガジェットは持ち合わせていない。

 そこをピンポイントで狙われた可能性がある。

「南雲蒼龍だな?」

 フードの人物の一人が、ARガジェットのアサルトライフルを構え、その銃口を南雲に向けるのだが……その行動でひるむような南雲ではなかった。

「そうだとして、何をしようと言うのか?」

 南雲の一言を聞き、フードの人物は引き金を引く。しかし、銃声が聞こえるようなことはなく、事実上の不発に終わった。

「一体、どういう事だ? 拳銃よりも容易に持ち込めるという事で購入したと言うのに――」

「どうやら、ARガジェットを本物の銃か何かと勘違いしているようだな」

「どう考えても、この形状は銃火器ではないのか? この様な物を売りさばいて、貴様は死の商人でも気取るつもりか?」

 南雲にとってフードの人物が口にした死の商人と言う単語には、さすがに地雷だったのか……彼は指を鳴らしてシステムを起動させた。

「ARシステムの知識も得ようとせず、開口一番が死の商人とは聞いてあきれる!」

 指を鳴らした直後、南雲の背広は以前に装備していたコートに変化、更にはDJテーブル型のARガジェットも同時に転送されたようだ。

 そして、フードの人物が次に不適当な発言をする前に、ARガジェットをソードに変形させ、あっさりと斬りつける。

 それを見た他のフードの人物は戦意を失い、一部メンバーは逃亡、一部は攻撃が当たれば……と抵抗をするが、あっさりと片づけられてしまった。

「かませ犬にすらならなかったな。所詮、外部ツールやチートを使わなければ生き残れないようでは……ミュージックオブスパーダの世界で勝ち残るのは不可能に等しい!」

 逃亡したメンバーはアキバガーディアンにも任せるとして、南雲は別のロケテスト実施エリアへと向かった。この間、わずか3分未満であり、文字通りの病殺と言える。

 残念ながら、南雲の戦闘光景は動画に録画はされていなかった。これは、今回展開したフィールドが非常に特殊なものであるからである。

「アカシックレコードの技術をダイレクトに反映させたものか。あの武器、もしかするとアガートラームかエクスカリバーと言う可能性もあるか」

 この様子を遠くから見ていたのは、DJイナズマである。別の用事で草加駅まで来ていたのだが、南雲に遭遇したのは別の意味でも幸運だった。

「どちらにしても、アカシックレコードを悪用しようと動き出している組織がいる事は確認出来た。超有名アイドルは締め出し中として、何処が該当するのか」

 イナズマはふと考えたが、すぐに思いつくほど情報が多い物ではない為、今は別の用事を済ませる事にした。



 同日午前11時25分、ニュースの速報テロップで超有名アイドルの芸能事務所が新たに強制捜査を受けたという表示が出る。

【またか。ここまで来ると、もはや魔女狩りだな】

【しかし、あれだけの事をやった以上……それ相応の罰を受けるのは当然の事】

【コンテンツ業界の再編は急務だろう。今のままでは、他国の介入を許した上に一次創作以外は認められない世界になる】

【それは極論だろう。しかし、二次創作を認めている団体の作品だけが……と言うのは、寂しくなるな】

【しかし、他国介入を防ぐ為に超有名アイドルが全てのコンテンツを独占するような事はあってはならない】

【それこそ、過去に起こった賢者の石事件を彷彿とさせる】

 賢者の石事件とは、超有名アイドルの芸能事務所やアイドル投資家がアイドルコンテンツ以外を全て排除し、超有名アイドルのコンテンツ以外は禁止すると言う法案だった。

 しかし、『超有名アイドル以外が存在出来ないコンテンツ産業の鎖国化】等と非難の嵐となり、法案は廃案になると思われた。

 それを妨害したのが夢小説勢やフジョシ勢と偽装し、それらのファンが起こした事件として自分達は正義だと思わせようとした……超有名アイドル投資家である。

 最終的には、反超有名アイドル勢力によって事件は解決したとされているが、その詳細は残念ながら秘匿とされ、海外などには報道されていない。



 同日午前12時、速報だったニュースの詳細が明らかになるにつれて、何かの崩れ落ちる音がするような気配を感じていた。特にネット炎上勢は、それをダイレクトに受けるだろう。

『最初は、アイドル芸能事務所と大手まとめサイト管理人が手を組み、さまざまなコンテンツ事情社に対して営業妨害をしていた件についてです』

 男性アナウンサーの口からは、想像を絶するような発言が次々と飛び出していた。国営放送のテレビ局で、この対応の為、民放であれば相当だろう。

【営業妨害? あの芸能事務所が?】

【男性アイドルの大手ならば分かるが、ここは中堅所のはず。それが営業妨害とは、どういう事だ?】

【信じられない。ステマを含めて、さまざまな犯罪行為に手を染めていたなんて……】

【アイドルならばテロ行為以外はすべて認められるとか考えていたのか?】

【テロ行為は言いすぎだが、まとめサイトと手を組んで犯罪行為を誘導していたとは……しかも、アイドルのファンに】

 ニュースの内容を見て、つぶやきサイト上が荒れているのは言うまでもない。それに加えて……。

【一部の炎上を誘導するつぶやきをした人物も逮捕されたらしい】

【やはり、まとめサイトの鵜呑みは危険だったのだ】

【これが……現実なのか?】

 その後も30分程は、このニュースを受けてのつぶやきがトレンドを独占していたと言う。

「つぶやきサイト上でもランキングキラーの影響があったとは思えない」

 一連のつぶやきを見て不審に思ったのは誰もが同じなのだが、予想以上に不信感をあらわにしていたのは大淀はるかだった。

 彼女は、例の発言後は沈黙をしていたのだが、これにはタダ乗り便乗勢やランキングキラー、その他の反ARゲーム勢力に発言を悪用される事を懸念しての事だったのである。

「少し、試してみようかしら」

 大淀が閲覧しているサイト、それはミュージックオブスパーダの公式サイトだった。



 ミュージックオブスパーダの公式サイト、ここでは主にプレイヤーのデータ各種閲覧、プレイ動画の投稿及び視聴、ガジェットカタログなど……。

 ゲームをプレイするプレイヤーにとっては重要なサイトでもある。利用しないプレイヤーもいるのだが、それは有料サイトなのでは……と考えているのかもしれない。

 しかし、このサイトはARガジェットにゲームデータが入っていれば無料で閲覧できる。つまり、サービス終了までは各種コンテンツを無料で利用可能なのだ。

「少し、試してみようかしら」

 早速、大淀はるかはトップページからランキングのページを開く。ここでは、プレイヤーのレベル別、ガジェット別の使用率、楽曲ランキング等が掲載されている。

「ランキングの顔ぶれをみる限り、そこまで手を下すまでもないか……」

 しかし、手のひら返しをするかのごとく、予定していた行動を断念せざるを得なかった。その理由は現段階での順位にある。

【3位:信濃リン】

【2位:長門未来】

【1位:大淀はるか】

 何と、わずか数日で大淀が首位になっていたのだ。この理由としては長門が今回のアップデートで収録された新曲に集中していた為、ハイスコア対象曲をプレイしていなかった事もある。

 大淀が確認していたランキングは、ウィークリーバトルランキングと言う物で、コース楽曲を合計3曲プレイし、その合計スコアで競う特殊モードだ。

「ウィークリーバトル自体は3曲保障でプレイできる一方で、体力も集中力も消費する。そればかりを粘着するプレイヤーも稀と言う事か」

 このモードは入手出来る経験値が多く、一気にレベルアップを考えようと言うプレイヤーにとっては絶好の狩り場とも言える。しかし、その代償は高難易度楽曲で固められていることだ。

 いくら3曲保障でも途中で演奏失敗が3回続くと、楽曲の組み合わせによってはノーマルモードでエンジョイプレイの方が稼げる場合もある。

 結局はリスクを恐れては得る者も少ないという事になる。それに加え、ミュージックオブスパーダは外部ツールやチートに関しては他のARゲーム以上に警戒をしている傾向も原因の一つかもしれない。

「しかし、総合ランキングは未だに動く様子がない。動いたとしても、ウィークリーバトルとランカーレベルランキング位と言うべきか」

 ランカーレベルランキングとは、レベル1からレベル12までの12段階で分けられたランキングなのだが……このランキングは非常に特殊なものとなっている。

 実際、最大であるレベル12に到達した人間は長門未来、大淀、南雲蒼龍の3人しかいないからだ。

 レベル別の順位と言うよりは、別の音楽ゲームで存在する段位認定と言った方が手っ取り早いだろうか……。



 6月1日午後1時、遂に動き出した人物が一人いた。それは意外な事に大和杏だった。

 今までが超有名アイドルのハント等と言った裏の役割だった為、表向きに行動する事は少なかった為だろう。

 それに加えて、彼女にとっては色々と見過ごせない状況が出てきた為の参戦でもあった。

《システムエラー》

 しかし、ミュージックオブスパーダへ久々にログインした結果、アガートラームが外部ツールと誤認識されるという事態になっていた。

 これに関しては一連の超有名アイドル絡みやゴッドオブアイドル関連で強力なガジェットが使われ、威力が高すぎる物に関してリミッターを追加した結果でもある。

「すみません。そのガジェットはチートとは全く違います。実は、南雲さんから預かっていた物がありまして――」

 途中から小声になった男性スタッフ、彼は大和にメモリスティックを手渡した。特にメッセージが入っている訳ではないが、スティックの挿入口へメモリスティックを読みこませた。

《プログラムアップデート中》

 ガジェットの画面に表示されたのは、アップデート中の表示だ。どうやら、メモリスティック内に入っていたのはガジェットのアップデートプログラムらしい。

「一体、このプログラムで何をしようと言うのか」

 大和の方は半信半疑である。南雲を完全に信用した訳ではないのだが、アガートラームをミュージックオブスパーダでも持ち込めるのであれば……司法取引と言われてもかまわない。

《プログラムアップデート完了。グングニル、起動します》

 大和は思わず画面を二度見した。アガートラームではなく、それと類似したナックル系のガジェットであるグングニルと認識されたのだ。

「これはどういう……いや、止めておこう」

 大和も思わずスタッフに対して睨みつけようとしたが、それを行ったとしても彼らが話すとは思えない。一応、疑問はありつつも引き下がる事にする。



 それから10分後、大和は新たに手に入れたグングニルの力を試していた。スーツやギアのデザインは変わるが、システムや動作関係はアガートラームと大差はない。

「アガートラームがガントレットタイプ以外でも存在する以上、グングニルも同じか」

 グングニル、北欧神話の影響もあって槍として扱われている事が多い。中には名称を若干もじっていたり、デザインが変化しつつも槍は変わらないという物もある。

 一番驚いたのは、アカシックレコード内でグングニルが槍で扱われているケースが少なかったことだ。今回のナックルタイプも、それに該当するのだが……。

「さて、始めるか」

 彼女のプレイ動画を見た視聴者は、揃いもそろって強豪ランカーの誕生に恐怖しているように見えた。彼女が元々は別のARゲーム出身である事も拍車を賭けているかもしれないが。

【大和杏、元々は別のARゲームにもいたな】

【それよりも、彼女はミュージックオブスパーダのイースポーツ化に賛成しているようだが】

【ARゲームがイースポーツ化すれば、ますます賞金稼ぎのような荒らしプレイヤーが増えるだろう。チートに関しても、新型が投入される可能性も否定できない】

 他のつぶやきも見る限り、彼女の本格参戦はイースポーツ賛成派を呼び起こす予感さえも……。

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