プロローグが繰り返されるなんて聞いてない01

──決して逃げている訳ではない。そう、ホラ、だって今ので間違いなく時間を。大切で有限な時間を無駄にしたのだから。入学式間に合わなかったら困るだけだからっ!


なんて、思いながら。まるで、マラソンランナーを追い掛けるかのようにやって来るチャリ通の生徒と顔を合わせない様にしている。傍から見たら、間違いなく俺……アホ丸出しに違いない。


「……べっ! 別に構いやしないし!!」


見苦しい捨て台詞を極力小さい声で口にする。

これは、日本ならではの解消法ではないだろうか。

イエスマンが蔓延る日本では、強き者に抗ってはいけない。と言う暗黙の社会のルールがある。言われれば嫌でも愛想笑いをし、それに応える。それに堪える精神面を癒す為に愚痴をこぼす。


──と言う事は……。


「俺も立派な大人の仲間入ってか? はは……笑えねぇ……」


それに、トラブルはあったものの。あそこに居た奴らが皆、新入生の訳でもないはず。

先輩だって……。それに、あの子に限って、新入生で同じクラス何て奇跡みたいな地獄があるわけが無い。


そんな確率、数字にしたら素晴らしい桁になる事間違い無し。


故に、


「あんまり、目立たなければ大丈夫」


そう願いつつ、俺は、まるで巨城の様に“ズッシリ”と佇む白い塗装で仕上げられた学校。玉城高校の門の前に立つ。


どうやら、『白』と言うものが、この学校のモチーフらしい。

パンフレットにも書いていたが、海が近いが故に雲をイメージしているとの事。


だが、俺は、その幻想的な案に苦言を呈したい。


「白は汚れが目立つだけだろ……」



──それに。錆び付いた門を潜る足がやたらと重いと言う気に感じる。


その間、ひたすら無意識にリピートされているのは、今朝の出来事。それと、ある事から“ボッチ”になってしまった中学時代の事。


体の反応とは、実に正直なようで。頭でいくら説得をしても、誤魔化しても、はぐらかしても。すんなりとはいかない。


俺の自論も自分に対しては全く説得力がないようだ。



“ジャリッ”と、別に踏みしめたつもりは無い第一歩は鈍い音を出す。


──どこまで力んでるんだよ、俺。下手したら捻挫するレベルじゃねーか。


「まぁ、結果。俺は、大人だし……頑張れ、大丈夫だ。絶対に学校で顔を合わす事なんかない」


そう、最終的に自己暗示をかけながら案内に従い、長ったらしい入学式を終えた。


しかし、田舎と言うこともあるのだろうか。体育館に集まっていた人数は、想像よりも遥かに少く。その予想外の光景に多少なりとも俺は、驚いたりもした。


「一の……A……っと」


さながら軍団アリのように、“ズラズラ”と“ズカズカ”と、列をなす中に飲まれるように流される一本の小枝の如く、従い歩きながら、自分のクラスを探す。


と言うか、ここに居る連中は皆、同じ方角に向かっているに違いない。

その件を、考えれば迷う事なくクラスにはたどり着ける。

感じたくも無い熱気と、上辺だけの可愛いだのなんだの、喧々たる物言い。それに嫌悪を感じながらと考えると些かハイリスクにも感じるが仕方がない。


「ちょっ! すいませんッ!! 横通ります」


流石、俺。クラスを見つけ入る時も、ちゃんと断ってこれた。

多少、小さい声だった気もするが気にするのは止めるべきだ。

自分の問に自分が解する前に病むに違いない。



黒板には、文字が書かれていた。きっと、それは体躯会系の男性教師が書いたであろう、がさつ、尚且つ大きい文字で『取り敢えず、自由に席に着いているように』と記されていた。


俺は、その文字に従い。慣れた足取りで窓際の席へと腰を落ち着かせた。


窓際とは、ファーストクラスと言っても過言では無い。

授業に飽きれば、空を眺め。または、体育をしている学生達を見下ろせる。まるで、パレードを観ているような感覚で意識を反らせる。


それに、休み時間ともなれば、騒ぎ出すであろう彼らに気を遣うことなく。自然体で、あたかも黄昏ています。なんて、オーラを醸し出しながら一人で居れる。


──いやまて、何俺、ボッチ確定な感じで思考を進行させているの?


危ない危ない。孤独の泥沼に、自分の仕掛けたトラップにハマりそうだったよ。全く……。



そんなことを考えながら見る空は、俺の気持ちなんかお構い無しに盛大に青海を彩る。


なんとも、まぁ、美しい風景なのだろう。


そして、もう一つ、俺が外以外。そう、教室内を見渡せないのは、見渡すことが出来ないのは理由がある。


微かに聞こえる内緒話。要は、ヒソヒソ話。それと、相変わらずの破壊力がある視線。


朝の一件は、まだ続いているのだ。


──ガキか、本当に……。


なんて、強がっていても。意外と辛いものだ。始まり初日から、こんなスタートをきるなんて……。いや、killなんて……。

リスタートが出来るのならしたいものだ。俺は、好きなアニメのタイムリープ物を思い出しながら溜息をつく。


「入学式、結構人数居たよな? あれで全員でしょ?」


「確かに、ぁあ、確かに居たよな。俺も正直ビビったよ」


あはははと、期待に胸を踊らせているのがわかる程、軽い言葉で語り合う男子の声。


俺は、普段なら聞き流すであろう、関係の無い対話。その対話に何故か、違和感を覚え、疑問を抱く。


──何処が。寧ろ、あれで全員なら、この学校は廃校してしまうだろ。そのうちに。


決して、口に出来るわけでは無い。こんな事を無駄に勇気を出し言った所で、仲間内じゃない俺に向けられるのは困った表情のみだろう。


命を知る者は、巌牆の下に立たず。と言う言葉がある。俺は、それを、心得ている為にそんな無茶なことはしない。


だって、そんな事、行動、行為を近場でされたら泣いちゃうもん。だって、男の子だもん。


と、話し相手がいない俺は、自分でボケながら暫く耳を傾ける事にした。


「って、事はだよ? 全校生徒だったら、この倍は居るって事だよな?」


「ぁあ、そうなるな」


「……って事はさ? 可愛い女子もいっぱい居るって事だよなっ?」


「出逢い、わんさかだな。やっぱり、部活は女子がいる場所か、女子の気を惹ける物じゃなきゃな!!」


──あれ、あれあれあれ、あれれれれ。コイツら今、たった今何つった。『全校生徒』だったら。とか言ってなかったか……。


俺は、少し冷静に考える。考えると言うよりも思い出す。


すると、あら不思議。その思い出は、答えは、机にしまった資料のようなものから、さも見て欲しいかのように文字列を並べていた。


「入学式当日は、新入生のみで行う……お……おこな……」


……ぐふっ。


いや、ぐふっとも言いたくなるし、言わずにも居られない。


その答えは、当たり前のように。朝方の生徒達は全員、一方的な顔見知りは全員、俺と一緒の新入生となる。逃すこと無く、全員。


そして、白と青の縞パ……では無く、低身長、巨乳少女も同じ新入生。と、言うことに俺は絶望をし、スクールライフという物を失望した。


「ようは、女子からは変態の異名が付き。女子に、さっきの男達のように執着する男子からは、軽蔑されるんですね」


中学の頃と言い、今回といい。


それに、部活は必ず入らなければいけない。との事だ、極力、誰もやりたがらないような部活を選ぼ。


別に逃げている訳じゃないし! ただ、気を使ってあげてるだけだし!


「…………」


しかし、なんだ。さっきから感じる視線は。


他から穿たれる、強い視線とは違う熱い視線。


それは、気にならずには居られないもの。そして、それは、すぐ近くで感じる。


俺は、恐る恐る、外に顔をやりながら目だけを視線のする方に寄せた。


「……えっと……どちらさん?」


思わず思考よりも先に言葉が出てしまった。しかし、他と距離を取ろうとしている人間。長門雄大、俺本人から話を投げかける。と言うのも些か変な話ではある。が、今回は、例外として許されてしまうはずだ。


何故なら、視界に入り写る少女。と、言うよりも幼女は余りにも異様。


大きくぱっちりとした赤い瞳・溶けてなくなりそうな雪のように白い肌・長く伸びた白髪・そして、頭部の天辺から生えた長い耳・赤みがかった小さく可愛らしい鼻・“モフモフ”としてそうな真っ白洋服に、小さい手では余り余る程大きい金色の懐中時計がぶら下がっていた。


さながら、雪を駆け回る白兎のように、可愛らしく。そして、何処か綺麗なものを感じる。


そんな、子供を目の前にして無言で居れるやつはまずい無いはず。


「──ラビは、ラビと申しますですうっ」


──え、何この子。むっちゃ、可愛い。


透き通るような、穏やかな声質に、マイペースな“ホンワカ”とした口ぶり。


それは、癒しの他になにもない。いや、一つある……。

「萌えでしかねぇ……」


「もえ? ラビはラビですよお??」


「……え? いや。ごめん、こっちの話。と、言うか。それよりも、ラビは学校に何しに来たの? 先生に怒られちゃうよ?」


この、コスプレ幼女は間違いなく目立つ。そして、それと話している俺もまた、悪い意味で異彩を放ているに違いない。


そう思い、ラビに気を使いながらも。ゆっくりと視線を、周りに送る。


「──え? とまっ……て?」


それは、不自然で・不気味で・不可解な出来事だった。


まるで、時が止まっているかのように誰も動こうとしない。

寧ろ、オブジェクト化してると言ってもいい程に生体反応すら感じないのだ。


色で表せば灰色。


「ラビは、起こしにきたのですっ」


「起こしに??」


「はい、起こしに。あとお願いにきたのですう」


──この子は何を言っているのだろう。


「此処は、雄大さんの夢の中なのです」


「夢ッ!?」


普通なら、そんな筈ある訳! とかそんな疑問が生まれるだろうが。俺には、そんな疑問は生まれなかった。

それどころか、納得せざるを得ない話だった。


それは、朝方の事故から分かる。


『衝撃』を、受けたのにも関わらず痛覚がない。それは、非現実的過ぎるものだろう。


しかし、それよりも、疑問なのは。何故、この子が俺の夢の途中に現れるのか。と言う事。


これも、俺の夢の中でのストーリー。とは、残念ながら思う事はできない。


幾ら何でも、この光景は、そんな文言では片ずけることが出来ないのだから。


しかし、都合の良いこともある。

それは、あれが夢ならば、安心だと言うこと。


「はい、夢ですっ。そして、これは予知夢。正夢って事ですう」


──おいおい……。なんだよ、その告知型の正夢って。まったく嬉しくねーぞ。


「なんで、正夢って分かるんだ?」


「それは、ラビが、ラビ達が夢の世界の住人だからですう」


「ん? 夢の世界??」


「……っあ、時間です……。また、来ますです。雄大さん。さようならですー」


懐中時計の針が重なり、高い音で“カチッ”と音がなると同時にラビは姿を俺の前から眩ませた。


──何だったんだ……。一体……。


「って、うるせえー!!」


激しい音に、堪らず起き上がると。目の前には見慣れた本棚が写っていた。


ベットの下には、小さい目覚まし時計が嫌味ったらしく耳に残る嫌な音を出しながら転がっている。


俺は、目覚ましを止めるべく手を伸ばす。


“カチッ”と言う音と同時に俺は、変なわだかまりを感じる。


──あれっ。どんな、夢みたんだっけ……。

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