プロローグが繰り返されるなんて聞いてない02
夢とは、不思議なもので、気が付けば記憶から薄れてゆく。それは、トイレットペーパーを水に漬け、時間が経つにつれて消えていくように自然なもの。
しかし、その夢の内容を掘り出そうと悩んだりするのも、また自然の事ではないだろうか。
俺は、その自然の摂理に逆らう事もせず、ベッドに座り、まだヒンヤリと冷たいフローリングに足をつけ思い出す事に専念した。
──が。
「まぁ、思い出せる訳ねぇよな。そのうち思い出すだろっ」
──切り替えは大事、何事も、あは。
俺は、時に思う。一度もあった事の無い女性と手を繋いでる夢を見たりした後は、その存在するかも分からない彼女に対し運命を感じる。
そして、無性に気になったりしてしまう。
アレとは一体何なのだろうか。知らない世界の夢を何度も見たりと、そう、夢とは不思議なものだ。
「まぁ、あれだ。取り敢えず下に降りよう、入学式当日から遅刻とか洒落にならないしな」
二階建のマイホーム。十五歳の俺が買えるはずがない、立派な建物だ。当然の様に、家族がいる。が、多忙な両親の為、結果的に一人暮しみたいになっている。
──普通なら、朝と言ったら幼馴染みイベント……。
もー。雄大、起きてくるのおーそい、プンプン。とかだろ……。朝ごはん作ってくれてるんじゃないのか。あ、でも頑張ったけど料理下手な子でもいいな。うん、可愛い。
当然、そのようなフラグビンビンな事は起きることもなく。
俺が口にした「おはよう」は、広く冷えた薄暗いダイニングキッチンに寂しく響いた。
秒針の音のみが彩る、この部屋を俺は、好きではない。
よって、長居をすることが無く。大半の時間を、自分の部屋で過ごす為、意外と綺麗だったりする。
俺は、カバンをドアの脇に置き、逃げる様に洗面所に向かった。
朝食を、食わない(作るのが面倒臭い)為、朝はスピーディな行動ができる。このシステム最強。
鏡に写る自分は、いつまで経っても落ちない小麦色の肌に相変わらずスポーツマンらしい短髪をしていた。スポーツマンじゃないけどさ。
だって、長いの邪魔じゃん。俺は、見た目よりも効率を選ぶ男。お洒落より、機動力を選ぶ男。
何このサバイバー精神。俺ちょーかっこいい。
なんて、思ってくれる女性は居らず万年フリーダム。
そして、リアルすら充実していない俺は、神から太鼓判すら押された非リア充。
自分の顔を見て、そこまで自虐する俺もなかなかのものだ。
歯を磨き、冷たい水で勢い良く顔を洗い気合をいれた。
別に入ってないけど。
俺は、身支度という全てを終わらせ玄関のドアを開けた。
と、同時に吹き付ける健やかで穏やかな風は新しい門を応援してくれてる様に思える。
もう十数年、居る土地。歩いた地形。見慣れた道を新しい気持ちで今……。
「──っどっあ!! あっぶね!! ふざけんなよ。躓くとか、何か人生躓く予兆みたいじゃねーか!!」
「うわ……あの人、独り言を言ってる。ヤバくない?」
「ねっ、しかも私達と同じ高校じゃない?」
「だよねだよね……」
──っあ……ちっ違うんです。こっこれは……。
あの視線はマぁズイ。何ですかあの、キラーアイは。異能者ですか。
俺は、研ぎ澄まされた機器察知センサーが反応した為に目を伏せた。
べっ別に、ビビった訳じゃねーし! 俺が女にビビる訳ねぇーし! ただ、ちょっと? ホンのちょっぴり。雀の涙程度、辛かっただけだし!
「あの人とは、関わらない方がよさそうだよね……」
──ひゃあ……っ。
俺は、気を逸らす為に、左手に見える大海を見渡しながら歩く事にした。
と、言うか気を逸らさないと物理的にアイキャンフライしたくなってくる。
「……あれ? この感じ……夢で見たような……」
なるほど、正夢と言うやつか。ホラな、考え込まなくても、答えは自分勝手に返ってくる。
しかし、起きてから分かると言うのも本当に使えねー。これが、起きる前に分かれば、完璧な異能者じゃん。
「本当、進めど進めど、坂ばかりだよな。湊町って」
山が多い為、仕方が無い。しかし、交通、特に歩行については不便でしかない。
自転車も、パクられて以来買っていない。
「つか、ぱくったのだれだよ!! 出て来いよ!!」
──いや、出て来なくてもいいから。自転車だけでも返してください。
俺は、健気に神様に願った。すると、その願いを聞き届けた神様は、何やら声を出し、俺に投げかける。
って、そんな馬鹿な話があるわけ──。
「どいて下さァァいいいっ!!!!」
鈍いブレーキ音と、脛から感じる痛みと頭部から痛みを感じながら俺は、後ろへとキット豪快に倒れ込んだ。
──どいて下さいッて。あんな早いスピードで、間近に居られて退けるかよ。余所見をしていた俺も悪いかもしれないけどさ。
「って、これも確か……夢で……」
──本当。正夢って結果論だよな……。使えねぇ……。
「……あのっ! 大丈夫ですかっ?? 大丈夫じゃないですよね……ごめんなさいっ!」
まるで、雛が奏でる音色のように幼げで。でも何処か優しげな声で俺に問いかける少女。彼女は、仰向けで横たわる俺の顔に影を作りながら覗き込むように憂いたような口ぶりをみせた。
俺は、まるで召喚された異世界人のように“ムクっ”と起き上がる。そして、辺りを見渡し頭を掻きながら応える。
「ん? いやいや。大丈夫だよ、これぐらい。ほら、俺男だしさっ! 気にしなくていいよっ」
──本当は、クッソ痛いけど。頭とか特に痛いけど。
だが、そんな弱音も恩着せがましい言葉も。小動物のように、少し震え・自分がしてしまった事を責めるように眉を顰め涙ぐむ彼女を目の前に言えるはずもない。
それに、こー言った衝撃的な出逢いが、恋人に繋がったりする。
ナイス、青春。俺の華やかな高校生活もといスクールライフはここからはじまるんだ。
「本当ですかっ? 頭とか、凄い鈍い音鳴りながら打ってましたよ? 無理してないですか??」
心配そうに、茶色い瞳で俺を写しながら、アタフタしながら必死に、考えているような姿。それが小さい体と相まって。
──何この子。むっちゃいい子。何それ、ドキドキしちゃう。
青春ってこんなに甘いんだっけ。中学を思い出すと溜息しか出ない俺にとっては歯がゆいものだ。
「大丈夫だって!! それより、なんで君は逆走してきたの??」
「君?? あっ! 私の名前は、絢美未来です! ……言い難いンですが……。その……鞄を、家に忘れてしまって。急いでいたら、ブレーキの効きが悪いのすっかり忘れちゃったんです……えへへ。お恥ずかしいばかりです……」
「ん? 鞄??」
──この子は一体何を恥ずかしそうに言って居るのだろう。
「はい、鞄を……」
「──いや、えっと……。背中に背負っているのは……かば」
「うぇっ!? いやっ!! 嘘っ!! わぁっ!! あぅー。何をやっているんだろ私……」
穏やかな海の音は静かで、何も遮る事の無いこの場所。そこに、顔を赤らめテンパる絢美未来の可愛い声だけが響いた。
──この子、あれだな。天然と言う奴に違いない。
「……んーと。まぁ、良かったな? 家まで帰らずに住んでさ。因みに、俺の名前は長門雄大。宜しくねっ!」
その瞬間。静まり返っていた風は、俺の優しさと頑張りを愛でるかの様に色々な物を巻き上げながら、優しく頭を撫でる。と、同時に目の前に暗闇を作り上げる。
要は、スカートをまくり上げた、上げてくれたのだ。
──青と白の……縞パ……。
絢美未来は、その唐突な出来事に瞬時に反応する。そこは、ドジっ子らしく、慌てふためき、転んでサービス。なんて、ことは無く。
内股気味に、スカートを小さい両手で押さえつけた。
そして、さっきとは違う意味で涙ぐみ。最終的に“ギッ”と俺を睨みつける始末。
まるで、この風を起こしたのが俺だと言わんばかりに。
──いや、そんな力あるならもっと楽しみたいわ。色々な意味で。
しかし、そんな事よりも、この最悪的状況を何としても打破しなくてはならない。
「えっと……いや、ごめ」
「お嫁にいけません!!」
──何この子、多分少し、ってか結構思考がズレてるような……。
声を震わしながら、倒れた赤い自転車を起こす。そして、俺の今のスタイルを忘れているのか。それとも、筋力的な問題なのか。
白と赤のチェック柄のスカートを踊らせながら立ちこぎで姿をより小さくして行った。
──ナイス、青春。
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