第1話 青春的登校
「おはよ、蒼真」
聞き慣れた声が背後から聞こえる。
恐らく、と言うか絶対あめだ。
浅谷奏雨、奏でる雨と書いてかなめと読むが、皆からはあめと呼ばれている。まあ呼ばれる原因になったのは俺が小さい頃からずっとそう呼んでいたからなのだが。
「おー、おはよう。あめ」
俺は振き言った。太陽が眩しくて目を窄ませるとあめはフフっと笑う
「変な顔。」
「うるせー、遅刻するだろ早く行くぞ」
薫風かおる高校二年生の五月、俺とあめは急ぎ足で坂道を登る。
桜並木を抜け、神社の角を曲がりさらに急な坂を登ると、漸く到着だ。
何故高校をこんな高地に造ったのか問いただしたい気分だ、オリンピック選手でも育成したいのだろうか、いや時間に余裕を持って登校すれば良いだけの話なのは分かっている。
分かってはいるんだが…
俺とあめが心臓の鼓動を抑えるようにゆっくり呼吸しながら校門をくぐろうとすると、
「うぃーっす!蒼真、あめちゃん!」
テンションの高い奴が後ろから声を掛けてくる
恐らく、と言うか確実に遼だ。
冴木遼、所謂俺の親友である。
こいつとは中学に入ってつるみはじめて、高校に入ってから他中だったあめも加わり三人でよく駄弁ったりふざけあったり時には真面目な話なんかもしている。
「おはよう遼君」
「やー今日も一段と可愛い!もしかして髪型変えた?」
「あ、気付いた?ちょっとだけ弄ってみたの。どうかな…?」
あめは少し俯いて照れ隠しに右手の指で髪の毛先をクルクルと巻く。
「そりゃもうもちろん!目立ち過ぎないってのもポイントが高いね!どうせ蒼真は気付かなかっただろうけどー」
遼はわざとらしく俺に向かって言う。
確かに俺は全く気付かなったな、相変わらず女子にモテるポイントをしっかり押さえられるのは正直言って羨ましい。
「ふふっありがと遼君。蒼真が気付くなんて事無いわ。だって鈍いもん」
「悪かったな鈍ちんで。似合ってる似合ってる、お美しいですよお姫様。」
俺はムキになって対抗するかの様にわざとらしくあめに言った。もっとも、対抗する相手が間違っているのだけれど。
あめは無言でそっぽを向いたが、彼女の両頬は桜に染まっていた。
俺は彼女の機嫌を損ねてしまったと思い宥めようとする。
「蒼真の鈍感は最早罪だなー」
遼は二人に聞こえないくらい小さな声でボソッと呟いた。
「遼?何か言った?」
「いんや、何も言ってないよ。それよりいいの?」
「何が、」
「時間。」
「「あっ…」」
あめと俺がそう声を漏らしたと同時に朝のチャイムが授業の始まりを告げた。
つまるところ、遅刻だ。
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