第二十一話 ビーストキメラ

何者かの影

「手をっ!!」

「ああっ!!」


 変身した舞は左手を伸ばし、同じく変身していたミチルと手を繋いだ。いくつもの電撃のような赤い光線が降り注ぐ上空へと飛翔する。

 前方には、赤い光線を放つ、ホネガイのような姿の青紫色の異形――ホネガイビーストが浮かんでいた。


「アレ人型かろうじて残ってるけどさっ! いくら何でもっ! 変わり過ぎだっ!」


 ミチルに迫る光線を右手から光刃を放って相殺しながら、舞が怒鳴るような大声で言った。


「相手の外見に文句言う暇あるの!?」

「そっちがちゃんと運んでくれてる間はっと!」


 舞とミチルは軽口を言い合いながら、真っ直ぐホネガイビーストに突っ込んでいき、そして、


「今だ投げろっ!!」


 ホネガイビーストとの距離がおよそ三メートルになった瞬間、舞が叫んだ。


「い……やああああああっ!!」


 ミチルは叫び、渾身の力を込め、舞を前方に投げ飛ばした。

 舞が勢いのままに前方に飛び、ミチルがそれを追う。


「ああああぁぁぁぁぁぁっ!!」「たあああぁぁぁぁぁぁっ!!」


 舞とミチルは各々攻撃の構えを取り、同時に叫んだ。


「ああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」


 舞が右腕の刃と引き換えに、ホネガイビーストの貝殻を、中身まで届くように深々と切り裂いた。


「ああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」


 ミチルは舞が切り裂いた痕に突撃し、『ディバイドロッド』の先端を深々と突き立て、『ストライクパニッシャー』を放った。

 それでも効果がなかったのを見て、ミチルは、『ディバイドロッド』を更に深く突き立て、


「ウルティメイト――」

『ちょっ、ミチル、それはヤバ――』

「パニッシャアアアアアァァァァァァァァッ!!」


 右手首の『エボルブレスレット』が止めるよりも早く、自らが放てる最強の光線魔法を唱えた。

 『エボルブレスレット』が音声を唱えるよりも早く、突き込んだ『ディバイドロッド』の先端から強力な光が溢れ、そして、


 上空五メートルで、花火の四尺玉よりも巨大な爆発が起こった。




「…………う……」


 いつの間にか、ミチルは気を失っていたらしく、地面に仰向けに倒れていた。


「あ、気が付いた?」


 頭の上から舞の声が聞こえ、ミチルは完全に覚醒した。


「えっと、あれ、どうなったんだっけ……」


 ミチルは頭を抑えながら起き上がった。側には、変身を解いた舞が座っていた。自分の体を見ると、ミチル自身の変身も解けていた。


「周囲をご覧くださーい」


 舞がどこか諦めているような声色で言った。促されるまま周囲を見渡すと、


「う……?」


 辺り一面焼け野原が広がっていた。


「え、何、これ……」

「えっとねー、簡単に言うと、ミチルの光線でとんでもない大爆発が起こって、公園丸ごと焼け野原にした感じみたい」

「…………」

「まあ、人的被害はゼロって、さっきケータイの通知で流れてきたよ。その辺は大丈夫。まあ……」

「…………」

「私は無所属だからいいけど、ミチル、これお給金もらってようがなかろうが無事じゃ済まないわ、うん」

「…………ここまで、威力があるだなんて……」


 絶句し続けていたミチルは、愕然として言った。


「うん、凄まじいね……。まあ、今回はやり過ぎちゃったって事で。幸いお互い無傷だし。……無傷だよね?」

「…………うん……」


 ミチルは返事をしたが、それはまるで、魂が抜けたかのような返事だった。


「まあ、使い所が限定されてるのを再確認出来たんだから、それでよしと――!?」


 舞が言いかけたその時、ガラスが割れるような不気味な音が周囲に響いた。

 二人は即座に音の源を探し始め、


「何だ……!?」


 舞が先に何かを見つけた。ミチルが舞と同じ方向を見ると、


「っ……!?」


 視線の先に映ったのは、黒紫色の、『闇』としか表現出来ない何かが虚空から漏れ出していた。

 その中で一瞬、全身にいくつものビーストの顔が張り付いた何かが蠢き、咆哮した。

 直後、『闇』は虚空に吸い込まれるように跡形もなく消え去った。


「…………今の、何……?」

「…………わからない。でも、たぶん……」


 舞は生唾を無理矢理飲み込み、


「アレと戦う可能性は、かなり、高いと思う……」


 どうにかそれだけ言った。

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