出来る限りの無理を

 一時間後。

 心咲みさきむくがリビングのソファに座って、お茶を飲んでいる時だった。

 舞が無言のまま、リビングのドアを開けて中に入ってきた。

 突然の出来事で二人が固まっていると、


「ただいま。終わったよ」


 いつもの調子で舞が言った。


「あ、あのさ、ただいまじゃないでしょ! どうしたの、こんなに遅くなって……?」


 椋が立ち上がって言った。


「やー、ごめんごめん。んー、ニュースでやってるかわかんないし、心咲辛いだろうからあんまり言わないけどさ、ネズミビースト、大増殖しててさ……」

「ええっ……?」

「ちょっ、大丈夫なのそれ?」

「だ、大丈夫大丈夫。一体一体は弱かったからさ。あはははは」


 舞は飄々とした態度で笑った。


「ま、そういう事だよ。……ちょっと、気分的な問題でシャワー浴びてくるね」


 舞はそう言うと、リビングから出ていこうとして、


「あ、あのさ、舞ちゃん!」


 心咲に呼び止められた。舞が振り向くと、心咲は心配そうな表情を向けていた。


「あ、あのさ……無茶してない!? 私達心配なんだよ、舞ちゃんが、何か……凄く辛そうな時があるから……」


 舞は逡巡してから、


「大丈夫、無茶はしてないよ。絶対に」


 はっきりと答えた。


「…………本当に?」

「本当本当。大丈夫」

 舞はそう言うと、その返事を聞かずにリビングから出ていった。



「無茶はしてないよ……。自分に出来る限りの無理はしてるけどさ」


 階段を登りながら、舞がそっと呟いた。

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