君を守るために
「ま、とりあえず、気晴らしにゲームでもしようか」
自分の部屋に向かいながら、舞が重い空気を振り払うかのように言った。
「ゲームやるのね舞ちゃん……」
「そりゃあ、楽しいし。料理と掃除勉強一辺倒じゃなくて、ゲームとかでもやんなきゃさ、ずっと張り詰めっぱなしだよ」
「でも舞ちゃん、すっごくへたっぴなんだよー?」
「いや、
舞がそう言った時だった。
三人がそれぞれポケットに入れていたスマートフォンが振動しながら不気味な音声――現在地の近くでビーストが出現した事を知らせる音を流した。
「……このタイミングで?」
舞が少し嫌そうに呟き、スマートフォンを取り出す。ちらりと見ると、心咲と椋もスマートフォンを取り出していた。
通知された情報の内容は、このような物だった。
『
「符号町……こっから十五分のとこか」
舞がそう言って振り向くと、
「ね、ネズミ……」
心咲が目を見開き、過呼吸になりかけていた。
舞はすぐに心咲をその場に座らせ、自分も屈むと、頭を撫で、ゆっくり呼吸するように促した。
少しの間そうして、心咲の呼吸は正常になった。
「大丈夫?」
「……うん」
「よし、じゃあ、行ってすぐ戻ってくるから、椋とゲームやってて、ね?」
「わかった」
心咲の頭を撫で、舞は立ち上がった。
「そういう事だから、椋、心咲の事頼んだよ」
「あ、うん……」
椋は何か言おうとしたが、舞はそれを見ずに階下に駆けていった。
「……何かさ……」
舞の足音が聞こえなくなってから、椋が口を開いた。
「舞ちゃんさ……無理してるよね」
「…………やっぱりそう思う?」
「うん……。何て言うかさ……言葉で表現出来ないけどさ……、とにかく無理してるな、ってさ。あのままじゃ、すぐに限界が来そうでさ……」
少なくとも椋には、舞の背中がまるでひしゃげているように見えていた。
舞が符号町東四丁目の入り口に到着した頃には、既に凄惨な光景が広がっていた。
通知では一体と表記されていたネズミビーストが、見えるだけでも二、三十体は我が物顔で闊歩していた。道路の左右にある住宅の玄関のドアや窓ガラスを粉砕しては、侵入を始めていた。
「…………だからさあ……、自分の細胞撒き散らしてクローン増やすの止めてくれよ……。一体だけでも大抵強いだろお前……」
激発寸前の声色で舞が言って、住宅街に入った。
外にいたネズミビーストが反応して、即座に舞を捕捉する。
舞はそれを見て、シャツの中から『エボルペンダント』を取り出した。
「お前達が出ると、私の恋人が過呼吸になるんだよ。いつも苦しそうなんだよ……。だからさ」
真っ先に飛び掛かろうと走り出したネズミビーストを視界の中心に捉え、声を震わせて独りごち、
「とっとと潰してやる! ……変身!」
全てのネズミビーストに向けて、怒声を浴びせた。
桃色と白のオーラが舞を包み込み、同時に爆風が発生して飛び掛かってきたネズミビーストを吹き飛ばした。
――Intellect and Wild!――
奇妙な低い音声が『エボルペンダント』から鳴り響き、オーラが消滅する。現れた舞は、赤と黒、刃が付いた黒い長手袋とブーツの攻撃的な姿に変わっていた。
「とりあえず……いつも通りに」
舞はそう言うと、吹き飛ばされて倒れたままのネズミビーストに駆け寄り、心臓を右手で抉り、頭部を左手で握り潰した。ネズミビーストが黒いゲル状の物質に変化したのを見て、ゆっくりと姿勢を正す。
「……次」
舞はそう言うと、手近なネズミビーストに向かって駆け出した。
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