後悔

 舞が去っていった後。


「あのさ、泣かないで、ね?」


 ミチルが困ったように言った。

 桃子とうこが舞の姿が見えなく後から、泣き続けていた。号泣だった。


「だって……だって……」

「うん」

「命がけで助けてくれたのに……怖いって思ったんだよ……!?」


 大粒の涙を地面に落としながら、桃子は続ける。


「怖かった……ビーストって、人が怪人になってるのに、それなのに、真野さん、……したの、全然気にしてなくて……、怖くなって……! 守ってもらったのに、私、私最低だ……! 最低だ……!」


 桃子が吐き捨てるように、叫ぶように言った。

 それを見たミチルは、


「……あ、当たり前、だよ」


 恐る恐る言った。桃子がミチルに顔を向ける。


「私も、私だって、怖くなる事あるよ、真野さんの事。私も人の事は絶対に言えないけど、ビーストを倒す事って……究極的には、人殺しだもん。それを、責任を果たすためって言って、全く躊躇いなく実行出来るなんてさ……」

「でも、助けてもらって、それは……、いくら何でも、非道ひど過ぎるでしょう?」

「……そう、だね。捻挫が治ったら謝ろう。ね? だからさ……もう泣かないで」

「…………うん」



「ただいまー……」


 舞は力なく言いながら、自宅のリビングに入った。


「あ、おかえり。以外と早かったね。怪我、ない?」


 リビングに入った舞を、心咲みさきが出迎えた。


「…………うん。何とか、ね。あ、夕飯、お刺身ね。今朝行った朝市でいい鮪のぶつ切りが安く買えたんだよー」


 舞はそう言って、キッチンに向かった。

 冷蔵庫を開けようとして、


「…………」


 二筋の光が流れた。続けて何度も、何度も。


「……はは、やっぱ虚しいなあ。人殺しって考えると、どうしても割りに合わなくなるのがなあ……」


 舞は小声で言って、


「でもさ、私が悪いんだからさ……ねえ?」


 小声で更に続けた。

 まるで、自分に言い聞かせるようだった。

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