第二十話 西田製薬

作製

「…………何とかしないと」


 優しげな雰囲気を放つ青年、結城ゆうき志郎しろうは、自室に入って扉が閉まった直後に言った。

 志郎は自室の簡素な机に向かうと、引き出しから何かを取り出した。

 紅い宝石、金色の金属の部品が二つ。全てペンダントを作るための物だった。


「アレが完成する前に、エヌに届けないと……」


 志郎はそう言いながら、別の引き出しから更に部品を取り出した。何かの機械の部品にも見える。


「あのペンダントだと太刀打ち出来なくなる……!」


 志郎の表情には、焦りが浮かんでいた。



 オーバーオールを着て長靴を穿いた舞は、自宅の庭にいた。手に持った籠の中を覗き込んでいた。


「うーん……ちょっと早いかもだけど、秋茄子、収穫完了」


 籠に入った、たった今収穫したばかりの茄子を見て、舞は満足気に言った。


「わあ……立派だね、大きい」


 右隣に並んだ、舞と同じようにオーバーオールを着て長靴を穿いた心咲みさきが、茄子を見て言った。


「農業……まではいかないな、菜園か。……とにかく菜園一年目でここまで上手く行くとは思わなかったよ。ほぼ独学だし」


 舞が笑顔になって言って、


「ま、惜しむらくは、次の収穫がサツマイモなんだよね。だいぶ先なんだよねー」


 肩をすくめて続けた。


「おいおい二人共、私を呼んで、それから収穫って事は、食べてけって事ー?」


 リビングと庭を出入り出来るように設けられた窓の前に座ったむくが、二人に呼びかけるように言った。


「ん? そりゃ勿論そうだよ」


 舞が柔らかな笑みを作って言った。


「そりゃいいや。後でお父さんとお母さんに連絡入れないと……」


 椋が言って、


「……しかしさあ、学校、思ったより早く再開したよねー」 


 少しだけ残念そうに続けた。


「そりゃあいつまでも臨時休校には出来ないでしょー。私は全員があまり変わりない感じなの確認出来たからそれでいいと思ったけどね」


 舞はそう言いながら、庭から玄関の方に向かった。


「まあそうなんだけどさあ……、ありゃトラウマ物だよ……」


 椋が両方の二の腕を擦りながら言った。 


「うん……あれは、ね……」


 心咲が目を伏せて答えた。


非道ひどかったよね、アレは……。私達の警告が間に合わなくて食べちゃってた人もいたみたいだからね……。そりゃあ全校生徒が精神科でカウンセリング受けさせられるのも当然だよね」


 茄子が入った籠を抱えたまま、舞がリビングに入って言った。


「げ……、マジで?」


 椋が振り向いて舞に聞いた。


「うん……。給食室に向かってる途中で、食べてる人を見かけた。あの人達は大丈夫なのかな……」


 舞はそう言いながら、キッチンに向かった。

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