謎の怪人
「――!」
『魔法機構日本支部』内のスローレイダー隊の待機室にいたミチルが、突然立ち上がった。
「……どしたのミッちゃん、今日はもう帰――」
『スローレイダー隊に緊急連絡! スローレイダー隊に緊急連絡! ビースト振動波が感知されました! 場所は
翔子の声に、緊急連絡の放送が重なった。
「……私も感知したんで、立ち上がったんです!」
ミチルはそう言うと、装備を収納しているロッカーに小走りで向かった。他の隊員が動き出しているのを見て、翔子もそれに倣った。
全員が制服から戦闘服に着替え、ヘルメットを着用した瞬間、ヘルメットのインカムに通信が入った。
『こちらミリヤ。放送の通りよ。詳しい場所は、ジープのカーナビに送っておいたわ。こちらもアシストするから、十分に注意して行動して』
ミリヤからの通信に、銃器類の確認をしながら、各々返事を返した。
三十分後。
微弱なビースト振動波を追ってスローレイダー隊が乗るジープが辿り着いたのは、一件の木造建ての別荘だった。
「司令、ビースト振動波の発生源に到着しました」
エドがミリヤに通信を入れた。
『了解。その周囲にビーストが潜伏していると思われるわ。気を付けて』
「了解。オーバー」
エドは一度通信を切り、改めて周囲を見渡した。
「……とりあえず、別荘にいる人に避難してもらおう」
別荘から洩れる明かりを見て、エドが言った。
「隊長。俺が見張ってますんで、
「わかった、ありがとう」
エドは溝呂木に礼を言って、ミチル達を伴って別荘の入り口のドアの前に向かった。
「…………ん?」
ドアの前に立った瞬間、ミチルは怪訝な表情になって、右耳をドアに近付けた。
『お父さん! お母さん! どうしちゃったんだよ!?』
困惑している少年らしき声が、ドアとヘルメットを間に挟んでいる状態で、はっきりと聞こえた。
「!」
ミチルは、慌ててドアノブを捻った。鍵がかかっていなかった。
「すいません、失礼します!」
ミチルは大声で言うと、ドアを開けて別荘の中に入った。
ドアの先はリビングだった。
テーブルの前に座らされ、女性に押さえ付けられている十歳程の少年と、男性に押さえ付けられている八歳程の女の子がいた。
少年と女の子の前には、丸太が乗せられた皿が置かれていた。
「お、おい、ミチル、どうし……!?」
その光景を見たエドは一瞬言葉を失ったが、
「な、何やってるんですか!?」
驚きながら、男性と女性に言った。
男性と女性はピタリと動きを止め、ゆっくりとミチル達の方に顔を向けた。
「ああ、ごちそうだな」
「ええ、ごちそうね」
男性と女性は口々に言うと、押さえ付けていた少年と女の子を床に投げ倒し、ミチル達の方に一歩進み出た。
男性と女性の右半身が膨張を始めた。右腕が肥大化し、血管が顔の右半分から右手の指先まで浮かび上がり、爪が長く伸びた。
「っ!? 溝呂木さ――」
ミチルが溝呂木に通信を入れようとしたが、
「シャアッ!」
「きゃっ!?」
向かってきた男怪人に押し倒された。
「ビババビバ――」
「離れろっ!」
エドが男怪人を足の裏で蹴り飛ばした。
「シイィッ!」
女怪人がエドに飛びかかった。
「っ!」
それを見たミチルは、右腰のホルスターに納められた紺色の大型拳銃を引き抜き、女怪人に向けて発砲した。
放たれた銃弾は女怪人の右脇腹に吸い込まれずに、弾かれた。
「なっ!?」
ミチルが驚愕の声を上げ、それと同時に、銃弾の衝撃によって吹き飛ばされた女怪人が床に背中から落ちた。
「西条さん平木さん、男の子と女の子をお願いします!」
エドはそう言って、ミチルに襲いかかろうとしていた男怪人に向かっていった。
「ミチル! その女性を抑えて!」
男怪人に組み付いたエドがミチルに言った。
「はい!」
ミチルは返事をしながら立ち上がると、同時に立ち上がっていた女怪人と対峙し、組み付く。
その隙を突いて、西条と翔子は少年と女の子に駆け寄り、抱き抱えて別荘の外へ出た。
「ん? ……どうした!?」
それを見た溝呂木が、怪訝な表情で言った。
「わかんないけど、男の人と女の人が――」
溝呂木の側まで駆け寄った翔子が言いかけたその時、別荘の入り口からエドが吹っ飛んでいき、直後、男怪人が転がり出てきた。
「あんなのになって襲ってきた! 悪い、任せた!」
西条が翔子の言葉を引き継いで言って、翔子と共にジープに向かって走り出した。
「お、おう!」
溝呂木は返事をして、散弾銃を構えながら男怪人に少し近付き、男怪人に向けて発砲した。
散弾銃から放たれた弾頭から散らばった小さな弾か男怪人の体に突き刺さったが、右半身に命中した弾は弾かれていた。
「何!?」
よろめいた男怪人を見ながら、溝呂木は驚愕した。
直後、別荘の窓を叩き割り、ミチルと女怪人が絡まり合いながら飛び出した。
「うぐっ……!」
ミチルが地面に叩きつけられて呻いた。
「シイイィッ!」
女怪人はミチルに噛みつこうと、顔をミチルの首に近付け――
「やめろっ!」
噛みつく寸前に、駆け寄った西条が女怪人を蹴り飛ばした。
「っ、変し……」
ミチルは言いかけて、右手首に『エボルブレスレット』がない事に気が付いた。
「も、もう、タイミング悪すぎる……!」
ミチルは悪態をついて、紺色の大型拳銃をガラスの中から拾い上げた。ついているガラスの破片を素早く払い落とし、構えた。
その時だった。
「かがめえええええ!」
翔子の叫び声が、ミチル達の後方から響いた。
ミチル達が銃の引き金から指を離しながらかがんだ瞬間、入れ替わるように女怪人が立ち上がった。
雷鳴のような轟音が響き渡った。
それと同時に女怪人は軽く吹っ飛び、背中から倒れ、動かなくなった。
男怪人が女怪人を見ようと頭を動かし始めた瞬間、雷鳴のような轟音と共に、男怪人の左のこめかみを何かが貫いた。
男怪人は右肩から倒れ、動かなくなった。
ミチル達が振り返ると、後方、ジープの開け放たれたドアの影から、狙撃用のライフルを抱えた翔子が立ち上がった。
『こちら石堀。……ビースト振動波の反応が消失しました。どうやら、発生源は彼等だったようです』
石堀の通信が、全員のヘルメットのインカムから聞こえてきた。
「了解。ありがとうございます。」
エドが怪人達だった物を見ながら言った。
怪人達だった物は、翔子に狙撃された直後の姿を保っていた。
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