第十三話 メフィスト
慟哭が入り混じる
真夜中。
ほぼ全ての生きとし生けるものが寝静まる中、『それ』が誕生しようとしていた。
中年の男性が路地裏で跪き、咳き込み、胃の中のモノを全て吐き出すのを、かれこれ十分程続けていた。男性のスーツは、とうに吐瀉物に塗れていた。
「ぐっぞ、なんだよぼべぇ……」
男性が胃の中のモノを吐き出しながら呻いた、その時、
「ごっ!?があああ!?」
突然男性が苦しみだし、その全身から蒸気が勢い良く吹き出し始めた。
蒸気が吹き出す中で、男性が禍々しい音を立てながら変貌を始める。全身が膨張して男性が着ていた服をことごとく破き、全身の筋肉が縄のように盛り上がって、次いで表皮を剥いだかのような薄桃色に変わる。両手と両足の爪が鋭く長く伸びる。顎が前方に伸び、双眸が細く鋭くなる。
男性は、鼠のような異形の怪人――ネズミビーストに変貌した。
ネズミビーストは、真夜中の路地裏に、雄叫びを反響させた。
蒸気が晴れた頃には、既にネズミビーストの姿はなかった。
後には、破れてボロボロになった、紳士用衣類だけが残った。
舞の自室で、舞、
「そういえばさ」
夏休みの宿題の読書感想文を書く手を止めて、舞が顔を上げた。
「駅前の夏祭りっていつだったっけ?」
「え? あー……、確か明日だったよ」
読書感想文を一文字も書けていない椋が言った。机に突っ伏し、げんなりとした様子だった。
「え、明日だっけ? えっと、今日は……」
「八月十二日だよ、心咲」
舞が、カレンダーを見ようとした心咲に言った。
「えっ、もうそんなに経ってたの!? じゃあ、お泊り会、今日で終わりじゃん」
心咲が驚いて言った。
「あー、確かに替えの服が明日の分だけになってたねー、着たのは洗濯したけど」
力が抜けきった口調で、椋が言った。
「洗濯したの主に私だけどね」
舞が苦笑して言った。
「そっかー……、十二日か……。そりゃあ、宿題も、
椋は足を胡坐に組み直し、仰向けに倒れ込んだ。
「そう言われると、私も同じ……」
心咲が、自分が書いている読書感想文の原稿用紙に視線を落として言った。既に二枚目の半分程が埋まっていた。
「おー、後は二つだけなんだ。私も同じだよ」
「いや、それでも一番進んでるの舞ちゃんだからね?」
心咲が舞の読書感想文の原稿を見て言った。舞は、三枚目の原稿用紙の七割まで書き進めていた。
「ホント、何でビーストやら家庭菜園やらで一番忙しいであろう舞ちゃんが一番勉強出来てるのやら……」
「簡単だよ、椋」
「何さ?」
「私は、単に知識の吸収が得意なだけだよ」
舞はさらりと言った。嫌味には、全く聞こえなかった。
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