忌避と顛末
自分目掛けて急降下してきたモズビーストの右足を、舞は掴み、そのままモズビーストをビルの屋上の地面に叩きつけるように投げ飛ばした。
舞はそのまま勢いに乗って馬乗りになろうと飛びかかったが、モズビーストが転がって回避して失敗に終わった。
「逃げんな……!」
舞は呻くように怒鳴ると、転がるモズビーストの翼が生えた左腕を右手で掴み、
「お……あああああっ!!」
叫び声を上げ、左腕を引きちぎった。
激痛が走ったのか、モズビーストが悲鳴のような濁った鳴き声を上げた。
「これでもう飛べないだろ……!」
舞は呻くように言って、引きちぎった事によってどす黒いゲル状に溶け始めていた左腕を投げ捨てた。
「ギ、ビエエエエエエエ!」
モズビーストが濁った雄叫びを上げて舞に突進を仕掛ける。
舞はそれを軽々避けてモズビーストの背後に回り、
「シッ!」
鋭い気合いと共に、右腕でモズビーストの左腕を貫いた。その右手には、モズビーストの心臓が握り締められていた。
舞が心臓を握り潰すのと同時に、モズビーストの体がどす黒いゲル状になって溶けた。
舞は握り潰した心臓を地面に叩きつけるように投げ捨てると、喉を潰さんばかりの雄叫びを上げた。
いつまでも、叫び続けた。
「っ!!」
布団で寝ていた舞は、目を見開き、上半身をバネ仕掛けのように勢い良く起こした。
奥歯をカチカチと鳴らしながら舞が周囲を見渡すと、自分の部屋にいる事が、そして現在時刻が午前三時という事がわかった
「っは、っは、っは、っは…………」
舞は、自分が酷く汗をかいている事に、何度か瞬きしてから気付いた。
「…………」
舞は、自分の両手に視線を落とした。
両手と、それから両腕は、小刻みに震えていた。止まる気配がなかった。
「……ああ、もう……」
舞は、自分の体を震える両腕で抱きすくめた。
数時間後、舞は一階のリビングに向かい、キッチンに立った。冷蔵庫の冷蔵室の扉を開けて卵の消費期限を見て大丈夫という事を確認すると、右手に三個、左手に三個持って冷蔵室の扉を閉めた。
丁度その時、リビングに
「おはよう、心咲」
「おはよう、舞ちゃん」
二人はそれぞれに挨拶をした。
「今目玉焼き作るから、朝ご飯これとご飯ね」
そう言って、舞はしゃがんでシンクの下の収納部分からフライパンとサラダ油を取り出した。
「うん、わかったー」
心咲はそう答えると、ソファに座ってテレビのリモコンを手に取り、テレビの電源を入れた。丁度、朝の情報番組が始まった所だった。
丁度朝食が出来上がる頃になって
『――次のニュースです。福島県、
モズビースト騒動のニュースを伝えた後、ニュースキャスターが淡々とした様子で言った。
「お、カラスビーストの時の奴か?」
舞が目玉焼きを乗せた白米を食べる手を止めて、テレビを見る事に集中する。
『容疑者は、中古車販売店店長の、霜野源太容疑者、三十三歳です。警察によりますと、先日発覚した連続殺人事件の重要参考人として任意同行を求めた所、逃亡したため、二時間後に公務執行妨害で逮捕、事情聴取した所、殺人を認めたため、霜野容疑を再逮捕しました警察は、ここ数日同市内で発生している連続殺人事件とも関連があると見て調べを進めています』
ニュースキャスターはニュースを伝え終えると、次のニュースを報じ始めた。
「……これだけじゃどの殺人かわからないけど、まあ『鎖が巻き付けられた云々』の奴だろうね」
舞はそう言うと、目玉焼きの白身を箸で大きめに切り取って口に運んだ。
「そんなモンなん?」
椋が舞に言った。
舞は目玉焼きの白身を飲み込んでから、
「まあ、たぶんなんだけど、ビーストがやった事ならビースト関連の報道と一緒に流すでしょ。さっきの、態々区切ってたし」
緑茶が入ったコップを手に取りながら言った。
「いや……まあ、そりゃ、そっか」
「うん」
「…………」
椋は少しだけ考えてから、納得が行ったのか、何度か頷いて、食事を再開した。しかしすぐにその手が止まり、
「…………やっぱ、麻痺してんのかな、私達」
ぽつり、と呟いた。
「……どしたの?」
心咲が、不思議そうに首を傾げて言った。
「いや…………だってさ、ビーストが毎日のように人を殺してて、怖いなって思うのに、さっきの殺人事件の犯人捕まったの見てもあまり何も感じなかったからさ」
椋は、どこか罪悪感があるらしく、その声は沈んでいた。
「…………ビーストの方が、身近だからかもね」
舞は、少し考えてから言った。
「ビーストはいつ自分が襲う側になったり襲われる側になったりするのかがわからないけど、殺人事件は自分から少し離れた場所で起こってるって感じるじゃない?」
舞は、箸で椋を指しながら言った。
「あ……あー……確かに」
椋は心当たりがあるらしく、微妙な表情で答えた。
「たぶんさ、捉え方の問題なんだよ。本当に身近で、それこそ……自分で言うのもなんだけれど、友達がビーストをぶっ倒してるってのもあるから、椋にはビースト事件の方が身近に、殺人事件なんかはあまり身近に感じないんだと思う」
「うーん……そんなモンかね?」
「ほら、ビーストは最近だけど、殺人事件は椋がニュース見始める前から起こってたでしょ? 日常の一部になってるんだよ。嫌な日常だけどさ」
舞はそう言うと、椋を指していた箸で目玉焼きの黄身を崩した。半熟だった。
「本当は同列、って考えるべきなんだろうね……」
椋は、どこか自嘲気味に微笑んだ。
「そう思ってるだけでも変わると思うよ。私もあまり実践出来てないけどね」
舞は肩をすくめて言った。
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