百舌鳥

 ビルの屋上の縁に座る、百舌鳥モズのような姿の怪人――モズビーストは、舌なめずりという、鳥類ではまずありえないような動きをしながら、遥か下の歩道を歩く人々を、まるで品定めするかのように見つめていた。

 モズビーストは濁った雄叫びを上げ、歩道に向かって急降下した。



「っ!」


 警察署の捜査本部で被害者の相関図を見ていたミチルは、ここ最近では珍しく強力なビーストの感応波を感じ取り、勢いよく振り返り、走り出そうとした。


「あっ、あのっ!」


 ミチルが走り出そうとしたのと同時に、二十代中頃の婦警が息を切らして捜査本部に駆け込んできた。


「どうした?」


 本部長が駆け込んできた婦警を見て言った。


「ビーストが出現したのと、その……連続殺人事件の有力な目撃情報が」


 駆け込んできた婦警は、荒くなっている息を飲み込むようにして整えながら言った。


「何?」

「ビーストは市ヶ目市さくら通りの本町ビル前に出現、現場に急行した警官から応援要請が来ています!」


 そこまで聞いて、捜査本部にいたスローレイダー隊の六人は駆け足で捜査本部から出て行った。


「……そ、それと、連続殺人の目撃情報なのですが――」



「私達全員人の事言えないですけど、最後まで聞かなくて良かったの隊長?」


 『魔法機構日本支部』から支給されているジープの後部座席に乗り込みながら、翔子がエドに言った。


「俺達の目的はビーストの撲滅です。殺人犯を捕まえるのも大事ですけど、一番の行動基準はビーストの出現の是非です」


 エドはシートベルトを締めながら言った。


「捜査本部に居たのも、ビーストが事件に絡んでる可能性が拭いきれていなかったからだしな、殺人犯は警察に任せようぜ。隊長と石掘があの中古車屋に聞き込みした情報も伝えてあるし」


 運転席に乗り込み、エドより先にシートベルトを締めていた溝呂木が、特注の紺色の大型リヴォルバーの蓮根のような弾倉を回転させ、動作を確認してから手首を外側に捻ってシリンダーを戻し、リヴォルバーをホルスターに納めた。


「とにかく急ぎましょう! お巡りさんが心配です!」


 ミチルの言葉に溝呂木が軽く頷き、ジープを動かした。

 警察署の駐車場を出てから、法定速度一歩手前の速度で現場に向かった。



 現場となった本町ビル周辺は、血と臓物の臭いで、燦々たる有様となっていた。

 街頭や電柱に人間が突き刺さり、あたかも『百舌鳥のはやにえ』のようになっていたのだ。


「またヒデェなクソッタレが……」


 溝呂木が悪態をついた時だった。


「うおっ!?」


 溝呂木の目の前に、何か大きくて重たい物が降ってきた。


「あーもう、案外強いな……」


 『何か大きくて重たい物』は、変身した舞だった。かぶりを振って、頭についたアスファルトの破片を振り落としていた。


「ネクスト!? どっから湧いて出た!?」


 溝呂木は思わず驚愕していた。


「……上に、モズビーストがいた。もう潰した。生存者はいない……」


 舞は溝呂木の瞳を覗き込み、虚しそうに、しかしはっきりと言った。


「……もう、殺したのか?」


 エドが舞を見て言った。


「……まあ、うん。今回も、誰も助けられなかった……。ビーストを駆除しても、これじゃあ虚しい……」


 舞はそう言うと、ゆっくりと立ち上がった。溜息を一つつくと、ふらふらと去って行った。

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