原因

 スローレイダー隊一同はミリヤからの召集を受け、司令室に集まっていた。


「……さて、それじゃあ始めましょうか」


 全員が集まって、漸くミリヤが口を開き、喋り始めた。


「あなた達に集まってもらったのは、ここ最近のビーストの事について、共有すべき情報を掴んだからなの」

「それって、最近、ビーストの感応波を感知しにくい事と関係がある事ですか?」


 ミチルの言葉にミリヤは頷いて、


「一つ目は、今ミチル隊員が言った感応波を、データとして観測する事に成功したの。我々はこれを、『ビースト振動波』と呼称する事となったわ。……これまでは一般市民の通報があって初めて出動要請を出していたのだけれど、これで被害を抑えられるはずよ」


 そう言ったミリヤの表情は、暗いままだった。


「問題は、この先。……ビーストが、『ビースト振動波』を利用して情報を共有している可能性が高い事がわかったの」


 ミリヤの言葉に、一同は顔を見合わせた。


「…………どういう、事ですか?」


 溝呂木みぞろぎが、冷静な口調で言った。


「……ここからは、アナライズ担当の石堀隊員が説明してくれるわ」


 ミリヤはそう言うと、席を立ち、石堀に前に出るように促した。

「あ、はい」


 石堀は短く答えると、一同の前に出た。ミリヤは、一同の列に加わった。


「……えっと、解析班と協力して、ビーストの鳴き声に注目して調べてみたんです。そしたら……」


 石堀はそう言いながら、一つのコンソールの前に移動し、コンソールを操作した。直後、司令室に入って正面奥に設置されている大画面モニターに画像が映った。画像は上下二種類あり、上はコウモリビースト、下はカラスビーストの物だった。


「まず上。コウモリビーストの鳴き声です。これは、ミチル隊員が感応波を感知しにくくなったと言い出す前に出現した個体の物です」


 石堀はそう言うと、パソコンを操作して、コウモリビーストの鳴き声を再生した。


「次に、カラスビーストの鳴き声。こっちは感知しにくくなった後の個体です」


 コウモリビーストの鳴き声の再生が終わってから、石堀はもう一度パソコンを操作し、カラスビーストの鳴き声を再生した。


「……この二つの鳴き声、何が違うかと言うと……」


 石堀はそこまで言ってから、コンソールを操作し、カラスビーストの鳴き声のデータの中に隠されていたデータを抽出した。


「このデータ、なんですけど……心して聞いてください」


 石堀はそう言って、コンソールを操作し、データを再生した。

 音声データの内容は、老若男女を問わず、複数の人間による酷く歪んだ悲鳴だった。


「うげ……これって、まさか……」


 翔子が、頬をひきつらせて洩らし、


「…………犠牲者の、悲鳴……?」


 恐怖で顔を強張らせたミチルが、その続きを口に出した。


「……石堀さん、どうなんですか?」

「…………隊長、恐らくは、ミチル隊員の推測は正しい物と思われます。ビーストは……犠牲者の声を利用して、ビースト振動波をカモフラージュしていたんです。そして、このように情報を共有出来るのなら、今後、ビーストが更に強くなっていく可能性が極めて高いです」


 石堀は険しい表情を作って言った。


「俺達は段々ジリ貧になってくって事かよ、クソが……」


 石堀の言葉を聞いて、溝呂木が吐き捨てるように言った。


「……そこでなのだけれど」


 ミリヤが口を開くと、全員がミリヤを見た。


「ミチル隊員。貴女の『エボルブレスレット』の強化が必要になったの。更に強力な魔法を組み込んで、それと同じように、強力な魔法を生み出せるように」

「……それって、どの位かかるんですか?」


 ミチルが、疑問を口に出した。


「明日には完了するわ」

「明日……」


 ミチルは少し考えて、


「わかりました。最近、『ストライクパニッシャー』が効きにくくなった気がしていたので、丁度良かったです」


 そう言って、エボルブレスレットを右手首から外した。

 ミリヤが司令の席の引き出しから取り出したジュラルミンケースの中に、慎重に置いた。


「『エボルブレスレット』、この際だから全部メンテナンスしてもらいなよ」

『HAHAHA、メンテナンスは嫌いなのよ……』


 ミチルは『エボルブレスレット』と軽く軽口を叩きあってから、ケースの蓋を閉じた。

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