カラスビースト
「……じゃあ、その事について、話を聞きに行こうか」
ミチルの話を聞いたエドがそう言ったその時、エドのスマートフォンに着信が入った。
「おっと……?」
エドは内ポケットからスマートフォンを取り出すと、電話に出た。
「もしもし?」
『こちら司令室のミリヤ。ビーストがポイント753に出現。ただちに現場に急行して』
「っ、わかりました!すぐに向かいます!」
エドは電話を切ると、全員に指示を飛ばす。
「平木さん、ミチルと溝呂木さんとポイント753に向かってください! 石掘さん、俺と一緒に中古車販売店に向かいましょう!」
エドの指示に、各々が返事をした。
ミチル、翔子、溝呂木がポイント753――閑静な住宅街に到着する頃には、既に避難が完了していて、人間はいなかったのだが、
「遅かったか……」
ショットガンを構える溝呂木が、眉間に皺を寄せて言った。
アスファルトの地面にはつい先程まで生きていたであろう無数の死体が転がり、周囲は血と臓物の臭いで咽返るようだった。
「三橋、まだ気配はあるか?」
「……はい、まだこの辺りにいます」
溝呂木の問いに、『エボルブレスレット』に手をかけるミチルは、緊張した面持ちで答えた。
「どこに……?」
紺色の大型拳銃を構える翔子が周囲を見渡し、ふと視線を上に向けた時だった。
電信柱の頂に、両腕に黒い翼を生やした、鴉のような漆黒の怪人――カラスビーストが座り、鉤爪がある鳥の足のようになっている両足で押さえつけた男性警官の死体を貪っていた。丁度、目玉を抉り出し、飲み込む所だった。
「いた! 電柱!」
翔子は大声で言いながら、カラスビーストに拳銃を向けて三度発砲した。
カラスビーストは銃弾を体で受け止めながら飛び上がり、翔子に飛びかかった。
「させない!」
ミチルは射線を開けつつ翔子の前に飛び出し、
「チェンジマイソウル!」
『起動コード』を唱えた。
ミチルの体を蒼白いオーラが包み込み、同時に軽い衝撃波が発生してカラスビーストを墜落させ、後ろにいた翔子と横にいた溝呂木には魔法障壁が展開された。魔法障壁が、衝撃波から翔子と溝呂木を守った。
『Change Your Body!』
『エボルブレスレット』から音声が流れ、オーラが消滅し、蒼白を基調としたミチルが姿を現した。
「『ディバイドロッド』!」
ミチルが大声で言うと、ミチルの右手の中に『ディバイドロッド』が納められた。
ミチルは『ディバイドロッド』を軽く振ってから、墜落し、ようやく立ち上がろうとしているカラスビーストに向かって突っ込み、『ディバイドロッド』を突き出した。
カラスビーストは吠えるように鳴くと、素早く飛び立った。寸前までカラスビーストがいた空間を、『ディバイドロッド』が切った。空振りだった。
「っ! はっ!」
『Flight!』
ミチルは気合いと共に飛び立ち、カラスビーストを追った。
地上七メートル程の高さに到達した瞬間、突如カラスビーストが猛烈な速さで旋回し、濁った鳴き声を上げ、ミチルに両足の鉤爪を突きつけて突進した。
「っ!?」
鉤爪が迫る中、ミチルは慌てて魔法障壁を展開してそれを防いだ。魔法障壁と鉤爪の間で橙色の火花が散り、カラスビーストが急停止する。
「っ、うう、ぐっ……!」
ミチルが額に脂汗を浮かべ、食い縛った歯を剥き出しにして魔法障壁に意識を集中させた、その時だった。
ミチルの右斜め後ろから、何か大きな影が飛び出し、カラスビーストに激突した。
カラスビーストは驚愕の声を上げ、左斜め上に吹き飛んでいった。
何かの正体は、変身した舞だった。舞は飛べないらしく、路面に向かって降下し、両足で着地した。
「真野さん!?」
ミチルは驚き、大声で舞を呼んだ。
「……遅かったか。やっぱり読み取りにくくなってるな……」
舞は、ミチルの呼び掛けには応えずに立ち上がりながらそう呟くと、カラスビーストが吹き飛んでいった方向を睨み、軽く腰を落とした。
「ふっ!」
舞は強めに息を吐きながら凄まじい勢いで跳び上がった。
「きゃっ!?」
ミチルの眼前を通り、地上十五メートルの高さに到達した、その時だった。
「ガアァアアァァァアアアア!!」
カラスビーストが怒りの雄叫びを上げながら、舞に向かって突進してきた。
「あー、うん、ネズミビースト並みに強いね、これ」
舞は口をへの字に曲げてそう言うと、両腕を、手を肩につけるように曲げた。両腕の間に黄金色のエネルギーが電流のように迸る。
「らあぁっ!」
舞は、気合いと共に腕。Λの軌跡を描くように振り下ろした。それと同時に、肘から下を覆う装甲のような長手袋の黒い刃から、黄金色の光刃が放たれた。
『Λ・Slush!』
『エボルペンダント』から低い奇妙な音声が流れた。
光刃は降下する舞の斜め上から襲いかかるカラスビーストに向かって飛翔し、音もなくカラスビーストの両腕の翼を焼き切った。
「ガアァアアァアアアア!?」
カラスビーストは悲鳴を上げながら、舞に襲いかかる勢いそのままに落下していった。
舞はそのまま綺麗に着地した。カラスビーストは、舞の後方五メートルの位置に落ちた。
舞は無言で立ち上がると、立ち上がれないカラスビーストに素早く駆け寄り、右手で背中から左胸にかけて貫き、心臓を抉り取り、右手を引き抜いた。
「…………」
舞は、心臓を握り潰した。それと同時に、完全に絶命したカラスビーストが黒いゲル状になって溶けた。
「何が原因だ……? どうして見つけにくくなった……?」
舞の問いは、その場の誰も答えを持たない物だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます