第十一話 殺人

埋められた死体

 舞が市民文化センターに出現したアリクイビーストを殺したその二日後の、一件の通報から始まった。

 通報の内容は、『中古車販売店の駐車場の端の方のアスファルトが捲れ、そこに人の足のような物が埋まっている』、といった物だった。



 ビーストが犯人の可能性もあるという事でスローレイダー隊が到着した時には、既に警察が動き、鑑識が周囲を調べていた。

 『人の足のような物』の正体はやはり人間で、既に死んでいた。


「酷いな……」


 掘り起こされた遺体を見て、エドが苦々しげに呟いた。

 遺体は男性で、太い鎖で身動きが取れないように拘束され、全裸にされていた。顔が潰され、表情が読み取れる状態ではなくなっていた。


「誰がやりやがった、こんな事……」


 溝呂木みぞろぎが苛立ちを隠さずに言った。


「ビーストの可能性があるって警察の方が言ってましたけど、そんな事ってあるんですか……?」


 遺体から目を逸らしていたミチルが言った。


「コウモリビーストが出た時にも言ったけど、ビーストって色んな動植物の能力を持ってるからね。たぶん食べ物を埋めるような動物の能力何じゃないの、ね、イッシー?」


 翔子が石堀を見て言った。


「はい。恐らく、貯食行動……食べ物を隠しておく動物の能力を持つビーストの仕業なのではないかと。鎖は、自分の物だというアピールだと思われます」

「例えば?」

「例えば……、リス、とかですね」

「へー」


 翔子と石堀が実のあまりない会話をする中、


「それで、遺体の詳細とか、何かわかっている事はありますか?」


 溝呂木が、すぐ側に立っていた警官の男性に言った。


「は、えと…………、身元と死亡推定時刻は不明、死因は頭部外傷によるショック死ですね……。それ以外はまだわからない事ばかりです」

「そうですか……どうか、しました?」


 溝呂木は、警官の表情がひきつっているのを見て言った。


「い、いえ……ビーストと戦う部隊って、本当にあるんだな、って。子どももいますし……」

「ああ……二人はちゃんとした戦力ですよ。二人共、しっかりしてるから、頼りにしてますよ」


 溝呂木は軽く笑って言った。


「ちょ、ちょっと、溝呂木さん、恥ずかしい事言わないでくださいよ!」


 ミチルが顔を赤くして言った。


「何だよ、事実だろ?」


 溝呂木は軽く肩をすくめて言った。


「もう……」


 ミチルは、やれやれと溜め息をついた。



 ミチル達は、第一発見者である中古車販売店の店長に話を聞きに向かった。

 丁度二人の刑事が事情を聞いている所で、刑事達はミチル達を見て驚いていた。


「何だね君達は?」


 刑事の片方、壮年の男性がミチル達に言った。


「えっと、スローレイダー隊、です。私は、隊長のエドワード・レティです」


 エドが代表して言った。


「君が隊長? 子どもがか?」


 刑事のもう片方、二十代の男性が言った。


「一応、魔法が使えるので……不相応だとは思うのですけどね」


 エドは、軽く肩をすくめて言った。


「まあいい。それで、ビースト退治の専門家が何の用だ?」


 壮年の刑事が言った。 


「遺体の第一発見者の店長さんに話を聞きたいのですが……」

「ああ、それなら、これから聞こうと思っていた所だ。……邪魔しないでくれよ」


 壮年の刑事は、ミチル達を胡散臭そうに見ながら言った。


「それじゃあ、聞かせてください」


 エドは、それを気にしないで言った。


「…………では、話を聞きましょうか。貴方のお名前と年齢は?」


 手帳とボールペンを取り出し、メモをとる準備をした壮年の刑事が、中古車販売店の店長に言った。


「あ、はい。霜野源太、三十三歳です。」


 中古車販売店の店長は、霜野と名乗った。


「霜野源太さんですね。では、遺体発見当時の事を詳しくお聞かせ下さい」

「はい。朝の七時に店に出勤してから、いつものように売り物の車を見ていたんです。そしたら、駐車場の端のアスファルトが捲れていたので、変だなと思って見に行ったんです。そしたら……あ、足が地面から出ているのが見えて……慌てて警察に通報しました」


 霜野は、その時の事を思い出したのか、二の腕を何度もさすった。


「成程。その時、周囲で何か怪しい事はありましたか? どんな些細な事でもいいですから、教えて下さい」


 壮年の刑事が、視線を手帳から霜野に向けて言った。


「い、いえ……足の事しか頭になかったので、わからないです……」


 霜野は首を横に振った。


「そうですか……。わかりました、ありがとうございます。……ほら、行くぞ」


 壮年の刑事はそう言うと、二十代の刑事を連れて踵を返した。


「聞きたい事はわからないみたいだし、俺達も行こう」


 エドはそう言い、ミチル達を連れてその場を離れようとした。


「…………非道ひどい事する奴もいるもんだよな」


 霜野がボソリと言ったのを、ミチルが耳に挟んだ。

 ミチルが振り向くと、霜野はミチル達を無表情で見ていた。


「…………?」


 ミチルは首を傾げ、それからエド達を追いかけた。

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