疑い

『今日未明、福島県の市ヶ目いちがめ市にある中古車販売店の駐車場で、人間の足のような物が埋まっているという通報がありました』


 ニュースキャスターの男性が、淡々と言った。


『警察の調べに依りますと、埋まっていたのは身元不明の三十代の男性で、警察は、殺人とビーストによる事件の両方を視野に捜査を――』


 ニュースキャスターの男性が最後まで言うのを待たずに、舞はリモコンでテレビの電源を切った。


「舞ちゃん、いいの? ビーストかもしれないのに」


 舞の隣に立っていた心咲みさきが、不思議そうに言った。


「うん。ニュースが出してる情報は大体わかったから」


 舞は短く答えて、立ち上がった。


「ちょっと考え纏めたいから、紙とボールペン持ってくるね」


 舞は心咲を見て言って、二階の自室に向かった。



 少ししてから、舞はA4サイズのノートとノック式のボールペンを持ってリビングに戻ってきた。

 舞はテーブルの席に座ると、ノートを開き、ボールペンの芯を出した。

 それを見て、心咲が舞の隣の席に座った。

 舞は心咲をちらりと見てから、


「まず、だけど……遺体がどんな状態なのか、いつ死んだ、どうして死んだ、とかがわからない」


 舞はブツブツと言いながら、ノートに『遺体の状態不明』と書いた。


「で、ビーストが関わってる可能性があるって言ってたけど、感応波は感じなかった」


 舞はノートに『感応波はなかった?』と書いた。


「『遺体発見、殺人とビースト関連両方の可能性がある』、これがどのテレビ局でも流してた」

「…………あんまりわかってる事ないね」

「うぐ…………」


 心咲の指摘に、舞は唸ったが、すぐに調子を戻して言う。


「でも、何だかね、変なんだよ。最近のビースト」

「変って?」

「市民文化センターに出たアリクイビーストの後からなんだけど、どうしてか感応波を感知しにくくなったんだ」


 舞はそう言って、『感知しにくくなった原因:不明』とノートに書き足した。


「舞ちゃんの体の調子が悪いんじゃあ……?」


 心咲が心配そうに舞を覗き込んだ。


「それがね……、あ、同じクラスの三橋みつはしさんがビーストと戦ってるって話はしたよね?」

「うん、したよ」

「その三橋さんの方もビーストの出現を感知しにくくなってるって言ってたんだ」


 舞はそう言って、『人間側が感知しにくくなってる?』と書き足し、


「……って、話がビーストが絡んでる事前提で話してた」


 はたと思い出して言った。


「違うの?」

「…………うーん…………」


 舞は少しの間考えて、


「何だろう、ビーストっぽいんだけど……」

「だけど?」

「何か変なのが絡んでる感じがする……。どす黒い何かが……それが何なのかはわからないけど」


 難しい顔になって言った。

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