第二章 悪辣な存在達

第九話 公表

記者会見

 ネズミビーストを倒した一週間後の早朝。


『舞ちゃん、今テレビ近くにある!?』

『んー、あるけど何?』

『今テレビで記者会見始まりそうで、聞いた感じたぶんビーストの事!』

『嘘!? 見てみる!』


 舞は通信アプリでむくから連絡を受けて、急いでテレビの電源を入れた。


「どうしたの、舞ちゃん? そんなに慌てて」


 家が既に引き払われている事がわかり、舞と同居する事になった心咲みさきが、丁度朝風呂から上がり、リビングに戻りながら言った。


「何か椋がね、テレビで記者会見やってて、それがビースト関連っぽいんだって言ってたから……あっ、始まる」

「う、うん」


 心咲はどこか緊張した面持ちとなり、同じような表情になっている舞の隣に座った。それと同時に、記者会見が始まった。

 記者達の前に姿を見せたのは、警視総監の本郷という、とても七十代には見えない程若々しい男性だった。

 本郷は席につくと、真剣な様子で記者達を見据えた。


『……記者の皆さん、本日は、お集まり頂き、ありがとうございます。警視総監の、本郷です』


 本郷は重々しい口調で言い、続ける。


『この一ヶ月の間、日本で、世界中で、猟奇殺人が多発しています。今回記者会見を開いた理由は、その犯人達が何者かを公表するためです』


 本郷が真剣な表情で言うと、カメラのフラッシュが何度も点滅し、記者達から一斉に質問が飛び交った。


『……すみません、質問には後から答えます。どうか今は、私の話を聞いてください』


 本郷がよく通る声ではっきりと言うと、記者達は静まり返った。


『全ての始まりは、一ヶ月前からインターネット上で噂になっていた、福島県、市ヶ目いちがめ市で起こった大量虐殺を起こしたとされる怪物……我々はこれをザ・ワンと呼称していますが……、そのザ・ワンなのです』


 記者達はどよめいたが、質問は出なかった。

 本郷は、静まり返るまで待ってから続ける。


『……話を続けます。そのザ・ワンから飛び散った細胞を、我々は、『Badness Evolution Apocalypse Scare Terror』細胞、頭文字を取って『ビースト細胞』と呼称する事となりました。ビースト細胞は、人間に感染し、活性化すると、その人間を乗っ取り、食人衝動に駆られ、その本能に従うようになります。つまり、この一ヶ月の間、世界中で猟奇殺人を起こしていた犯人は、人を襲う怪物と化した人々だったのです』


 本郷が言いきった直後、記者達がどよめき、カメラのフラッシュが激しく瞬いた。

 それと同時に、質問が一気に飛び交い始める。


『ザ・ワンが正式に認められたという事は、ザ・ワンと戦ったという赤い少女も実在するのですか!?』

『ビーストの存在を正式に認めずに、被害が拡大したようにも感じられるのですが?』

『インターネット上の、特殊部隊と一緒に戦う十代の少女も実在するのですか!?』


 目を閉じた本郷は、息を深く吸って、


『全て!』


 一言で記者達を黙らせ、


『…………全て、事実です』


 静かに、はっきりと言った。

 記者達が言葉を失う中、本郷はゆっくりと語りだす。


『確かに、事実を公表しなかった事によって、多くの犠牲者が出てしまいました。ザ・ワンと戦った、我々がザ・ネクストと呼称する少女がいるのも事実です。しかし、ビーストと戦う、勇敢な若者達がいる事も事実です』


 本郷は、記者達を見渡しながら言った。


『さらに詳しい内容が、この後午前十字から、村松総理大臣と、早田はやた防衛大臣が記者会見を開いて公表しますので、申し訳ありませんが、質問は彼らに聞いてください。……私にも、不明な事が多いのです』


 本郷はそう言って立ち上がり、深々と頭を下げてから、退出した。

 後には、沈黙する記者達だけが残った。


「…………何だか、凄い物見ちゃったね」


 心咲が、何とも言えない表情のまま言うと、


「……まあ、私達はもう知っている情報だったけどね。たぶんこの後、総理大臣と防衛大臣が記者会見をやって、そこで私とか、魔法少女の事とかを発表するんだと思うよ」


 舞が肩をすくめてそう返した。


「…………舞ちゃん、私の事は…………」

「大丈夫、あの時誰かが見たって訳じゃないから。三橋さんと他の人達には、ファウストって奴がいるって位にしか思われてないよ、きっと。それに、あれからファウストにはなれなくなったんでしょ?」


 舞はそう言って、心配そうな表情の心咲の頭を撫でた。


「あっ……、うん、そう、だね」

「なら、これ以上は戦いには巻き込ませないよ。世界中敵になっても、絶対に心咲は引き渡さない。ふふっ、なんて、告白みたいになっちゃったけどね……」


 舞が苦笑しながら言うと、


「……ありがとう」


 心咲は、頭をそっと舞の肩に乗せた。


「…………うん」


 舞は、そっと目を閉じた。

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