反発

『以上で、記者会見を終了致します。皆さま、お忙しい中お越し頂き、ありがとうございました』


 総理大臣の村松は防衛大臣の早田はやたと共に深々と礼をしながら言って、退出していった。


 映像がスタジオに戻され、コメンテーター達が得意気に語り始めたのを見て、ミチルは顔をしかめた。すぐにテレビの電源を切った。


「…………」


 ミチルは、ゆっくりと溜め息をついた。


「公表、ねえ……」


 ミチルはそう言って立ち上がり、テレビのリモコンをテレビの側に置いてソファに戻った。


 村松から語られた事は、ミチルがミリヤに伝えられた事と概ね同じだったが、魔法少女と魔法が使える者の処遇についてが追加されていた。


「まあ、プロフィール非公開は、プライバシー考えれば当然っちゃ当然だよね……」


 ミチルがそう呟いた時、スマートフォンが震えた。


「ん……?」


 ミチルがスマートフォンを手に取って電源を入れると、通信アプリから通達が来ていた。弘輝からの物で、こう書かれていた。


『警視総監と総理大臣の記者会見見たか?』


 ミチルは、少し考えて、短く返す。


『うん、見たよ』


 するとすぐに返事がきた。


『わかった。話がある。晴夏も来るから、俺の家に来てくれ』


 ミチルはその文を暫く眺めてから立ち上がると、出かける準備を始めた。



 ミチルが弘輝の家に到着し、弘輝の部屋に向かうと、弘輝と晴夏が待っていた。


「や、来たよ」


 ミチルはにこやかに挨拶をしたが、


「ああ」「うん……」


 弘輝は固い挨拶を、晴夏はどこか心配そうな雰囲気の挨拶を返した。


 ミチルは小さめのリュックサックを適当に置くと、その手前に座った。


「それで、話って?」

「…………お前、まだ変身して戦ってるのか」


 弘輝が固い口調で言った。


「何で?」

「どうなんだよ」

「…………うん、まだ戦ってる。昨日だって、ネズミビースト……ネズミのバケモノと戦ったよ。それがどうかしたの?」


 ミチルは、首を傾げて言った。


「俺ら言ったよな、『お前が戦う必要はない』って。言ったよな?」


 弘輝は苛立ちを抑えてるような声色で言った。


「…………うん」

「何で戦ってるんだよ?」

「…………」

「理由はないんだろ? お前、そういう適当な所あるから」

「…………まあ、まだ見つかってないよ」


 ミチルは、そっと目線を逸らした。


「俺、お前に戦って欲しくない。晴夏もそうだ。あんなのと戦ってたらいつか殺されるぞ?」

「そうだよ、危ないよ」


 弘輝が咎めるように言って、晴夏は心配そうに言った。


「でも……」

「『でも』、なんだよ?」

「戦う必要がない理由って、何かあるの?」


 ミチルは、弘輝、晴夏の順番に見ながら言った。


「そ、それは……」


 弘輝は一瞬言葉に詰まり、


「と、とにかく! お前は戦うな! ……正直何かよくわからないけど嫌なんだよ、友達が訳のわからない組織に入っていて、それで化け物と戦ってるなんて!」

「そうだよ、それに、あんなよくわからないのなんて信用出来ないよ。テレビでも言ってたし」


 晴夏と一緒に捲し立てた。


「…………何それ、それじゃあ二人共、よくわからないままとにかく戦うなって言ってたの?」


 ミチルは静かに言って立ち上がると、弘輝と晴夏を見下ろした。


「それだったら、別にそれに従う必要ないよね、全然。……私、戦うよ。その理由も、まだ見つけてないから。じゃあ、ごめん、今日はもう帰る」


 ミチルは不快感を露にして言うと、小さめのリュックサックをひっつかむと、荒い足取りで弘輝の部屋を出ていった。

 弘輝と晴夏は、それを見つめる事しか出来なかった。

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